魔王、猫になる。〜魔王さまのほのぼの世界征服ライフ〜 第22話 魔王、魔獣と対峙する。
我輩は魔王である。名はトラ吉。
今日ものどかで良き日である。
魔界におった頃とは雲泥の差だ。
あの頃、魔王城にはしばしば招かれざる客が来訪しておった。
たまに下僕どもでは太刀打ちできん魔獣なども現れるものだから、魔王である我輩が自ら手を下すこともある。
いや、別に億劫だった訳ではないのだぞ。
それに比べて、この世界では退屈ではあるのだ。
だが、平和とはやはり良いものである。
こうやって寝転がって季節の移り変わりを感じるのもまた一興なのだ。
そういえば夏が終わりに近づき湿度も低くなり、相棒「たわし」のコシも戻りつつある。
やはり「たわし」はコシがなくてはいかん。
この絶妙な硬さが我輩の衣に何とも心地よく……。
『キュオーーーン!』
「!?」
この平和な昼下がりを脅かすこの音は!
まさか、奴が現れたというのか!
『ブォーーーー!』
いかん!
完全に「たわし」の心地よさに油断しておった。
そうである。
今日はあの魔獣が現れる日であったか!
その魔獣とはあらゆるものを吸引してしまうのだ。
恐ろしいことに、その魔獣の通った後には塵(ちり)ひとつ残らん。
おそらく体内には強力な重力魔法を封じ込め、ブラックホールなる奇跡を顕現させているのであろう。
さらに驚くべきことは、非常に危険な魔獣だというのに、主人①はその魔獣と使い魔の契約をしているのだ。
通常の精神力ではあの魔獣の咆哮に飲み込まれてしまうだろうに、主人①は尋常でない訓練を積んだ優秀なテイマーであると認めざるを得ない。
この世界の人間たちは我輩が思っている以上の戦力を持っているのかもしれん。
認識を改める必要がありそうだ。
『ブォーーーー!』
む! こちらに近づいてくるぞ。
魔王であるこの我輩がこのような魔獣ごときの咆哮に臆するなど……。
『ブォォォォォーーーー!』
くっ! ここはいったん引いてやろう。
だがこの魔王、いつまでもやられっぱなしでは終わらぬぞ。
そう、その時が来るまでは。
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