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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-2 スズの思い出とルコ②

「……さん……」

 おや、どこかで誰かの声がする。

「……タカシさん……」

 どうやら俺を呼んでいるようだ。

『ビタン!』

「痛ぇええ!!」

「いつまで寝てるの? ウジ虫。」

「タカシさん……だい……じょうぶ?」

 突然の頰の痛みに俺の頭は覚醒した。

「痛たた。あれ? 俺はどうしたんだ?」

 ジンジン痛む頰をさすりながら目を開けると、目の前には心配そうに俺を見るルコがいた。
 俺はさっきまで何をしていたのだろうか。
 なんだか記憶が曖昧だ。

「タカシよぉ。ルコちゃんの弁当一口食べて気絶とかあんまりすぎないかぁ? ルコちゃん可哀想だぞ。男だったら涼しい顔で食えよ。」

 そうか、俺はルコの弁当に入っていた黒酢酢豚っぽい何かを食べて気絶していたのか。

「じゃあ、マサお前食ってみろ。」

 俺はルコの弁当から黒酢酢豚っぽい何かを探し、くっちゃべっているマサの口の中に放り込んだ。

「……」

 マサは眠るようにそれはもう安らかな顔で息を引き取った。(気絶)

「どうやら、私の勝ちのようですわね!」

 柳原さんは席を立つと腰に手を置き勝ち誇った態度でルコへ視線を向けた。
 俺の知っている柳原さんのキャラがどんどん崩壊しつつあるのだが。

「っ!!」

「お、おい! ルコ!」

 ルコは突然立ち上がり自分の弁当を持って走り去っていった。

「……ルコさん。私ちょっと言い過ぎちゃったみたい。きっとルコさんも頑張ってお弁当作ってきたのよね。」

 そうだ。
 昨日、ルコが台所に立っている姿は嫌という程見ている。
 夜遅くまで頑張って、今朝だってふらふらになりながら自転車を漕いでいた。
 ルコなりに頑張っていたのに俺は……。

「ちょっと探してくる。」

 体が勝手に動き、気づけば教室から飛び出していた。
 ルコの背中を追おうと廊下を見渡したがもうルコの姿は消えていた。

「くそ、どこにいったんだよ。」

「虫、ルコは屋上。」

「うわ!?」

 いつのまにか背後にいたキキョウに声をかけられた。
 なぜルコの居場所がわかったのかは後ほど聞くとして、ひとまずルコを追うのが先だ。

「お、おう! キキョウ、ありがとな!」

 そうして、俺は屋上へ向けて駆け出した。
 俺を興味深く見る生徒や注意する先生がいたが頭には入らずルコだけのことを考えて廊下を走り抜けていく。

「はぁ、はぁ。たしか、この階段の上が屋上だよな。」

 屋上への階段を駆け上がり、分厚い鉄製の扉を開けると、重厚な音が辺りに反響した。
 その音が、緊張感をいやがおうにでも高めさせる。
 
「なんて言えばいいんだよ。」

 あんな態度を取ってしまったのだから、「お前の弁当はまずかった」と面と向かって言ったようなものだ。
 気絶してしまったのは不可抗力だったかもしれないが。
 なんと言い訳すれば良いか考えながら扉をくぐり、ルコがいるであろう屋上を見渡す。

「ルコ!?」

 そこには確かにルコがいた。
 だが、どういうわけかルコは屋上のコンクリートにうつ伏せに倒れていた。
 俺は慌てて駆け寄りルコの肩をゆする。

「おい! 大丈夫か!?」

 なぜ、こんなことになってしまっているのかと気が動転する。

「まさか、俺がルコの弁当を食べれなかったことがそんなに……」

 ふと、ルコが倒れている傍に蓋の開いた弁当箱が置いてあるのに気づいた。

「あ、ルコ。自分で食ったのか……」

ーーー

「うっ、うぇぇぇ。」

 ルコが嗚咽とともに起き上がった。
 幸い黒酢酢豚っぽい何かは口に戻ってくることはなかったようだ。

「ルコ、大丈夫か?」

「あれ? タカシさん。 私、何が?」

 ルコは直前の記憶を思い出せないのかしばらく固まっていた。

「あ! 私……。タカシさんごめんなさい。とんでもないものを……食べさせて……しまって……くうっ……へぐっ……」

 ルコは記憶が戻ったのか、起き上がった体勢のまま急に泣き出した。
 その姿は、スズが昔いたずらをして叱られ、泣いていた姿と重なる。
 なんだか心に温かいものが湧き上がってきた。

『ぽふっ』

「ほえっ?」

 俺はルコの頭に手を置いて猫を撫でるかのように優しく手を動かした。

「ルコ、ありがとな。美味しかったよ。ごちそうさま。」

 そう言って俺は、空になった弁当箱をルコに手渡した。
 嘘ではない。
 ルコが頑張ってくれたから、その気持ちが本当に美味しかったんだ。

「タ、タカシさん! これは! 食べたのですか!? なぜ生きているのですか!?」

「自分で作っておいて何言ってんだよ。」

 正直、ルコの言う通り死ぬかと思った。
 過去にスズの料理も何度か食っている。
 それである程度の耐性ができていたのだろう。
 それでも、今は意識を保っていることがやっとなぐらいだが。

「あ、あの! タカシさん。」

「ん? どうしたんだ?」

「わ、わたくしの料理を食べていただき、ありがとうございます。」

 ルコの顔がたちまち紅潮し、しだいに耳まで髪色と同じような色になっていく。
 なんだか俺まで気恥ずかしくなってきて、誤魔化すようにルコの髪がぐちゃぐちゃになるかのよう強く撫で回した。

「ちょ、ちょっとやめてくださいます!?」

 だが、ルコは俺の手を払いのけず猫のように目を細めその行為を受け入れている。
 いい加減、ルコの髪の毛がボサボサになってきたのでこの辺でやめとこう。

「ほら、昼休みが終わっちゃうから教室戻ろうぜ。ルコ、まだ飯食ってないだろ?」

「はい、でも柳原さんに負けてしまったので私のお弁当は……」

「大丈夫だよ。こんなこともあろうかと俺がみんなの分の弁当を作ってきてるから。」

「え? そうなのですか?」

 俺はルコの手を取り教室に向かった。


ーーー おまけ ーーー


 実は、俺は全員分の弁当を作っていた。
 全員の弁当と俺の弁当を交換することで勝ち負けを無くし、このバトルを穏便にやり過ごす計画だったのだ。
 全員と交換することで5つの弁当が俺の手元に来ることになるが、それを1人で食う覚悟があっての計画だが。

 教室に戻ると心配そうな4人が出迎えてくれた。
 ルコは真っ赤になった顔を4人に見られるのが恥ずかしかったのか俯いてごめんなさいを連発していた。
 結局5人の中で最もうまい弁当を作ったのはマサだった。
 今朝、マサが持っていたでかい弁当箱は重箱で、中にはお花見でもするのかと言うほどの豪華料理が所狭しと詰め込まれていた。
 俺も5人分の弁当を持ってきており、このメンバーでは到底食べきれないため他の生徒と分け合い無事に完食できた。

 ちなみに、キキョウとリオンの弁当は惣菜とお菓子だったので俺は特に問題なく完食することができたが、かなり満腹になってしまった。
 それにより、もちろん午後の授業の記憶はないのだが。(Zzz…)

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