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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 3-9 新たな生活②

「コホン。それじゃぁ編入生を4人紹介するぞ。」

 どうしてこうなった。
 これは絶対ツキの仕業に違いない。
 同じ学校であるのは百歩譲って認めるとしよう。

「えーと、君は昨日うちの学校に来た、確か近藤高志君だよね?」

 ツキさん、どうして同じクラスにしたんだ!?

 俺は3人と一緒に教壇の上に立ち、騒つく教室内を見渡していた。
 当たり前だ、昨日俺はこの学校のこのクラスでとんでもない騒ぎを起こしているのだから。
 ゼロからのスタートならまだしも、完全にマイナスから学園生活がスタートしている。
 ホームルームを進行している担任も俺が正式な生徒になり困惑しているようだ。

「き、昨日は間違って1日早く来てしまったんだよね? 私も何も知らず叱責して申し訳なかった。それじゃ4人で自己紹介をおねがいします。」

 昨日の事は担任も気にしているのかおどおどとしている。
 ここは担任としてビシッと生徒たちの誤解を解いて欲しかったが、それは望めなさそうだ。
 もう俺が頼れる人間はここにはいない。
 前のように柳原さんへの挨拶でビビっているようでは前に進めない。
 これはスズを救うために乗り越えなければならない試練のひとつのようだ。
 俺は教壇の上で自信を持って一歩前に出る。

「俺は近藤高志。昨日の一件は俺からみんなへのサプライズだ! でも植松くんと柳原さんにはちょっとやり過ぎてしまった! この場を借りて謝罪します! ごめんなさい!」

「君、何を!?」

 俺は腰を90度に曲げ頭を下げ謝罪した。
 かなり馬鹿げた芝居だということは俺が一番わかっている。
 この状況を打開するための一か八かの作戦なのだから。
 面白いやつとクラスに受け入れてもらえるか、もしくは明らかな異物として拒絶されるか、伸るか反るかの大勝負だ。

「……」

 やはり、無理があったのか、しばらくの沈黙が漂う。
 無難にやり過ごした方が良かったかと後悔しそうになったところで、突然、沈黙を打ち破った人物が現れた。

「お前、やっぱり面白いやつだな!」

 植松真斗だ。
 それをきっかけにクラス内で笑いが生まれた。
 これならいける。

「マサありがとな。」

 もう俺のことを覚えていないはずのマサが、また昔みたいに俺のことを救ってくれた。
 やっぱりあいつは親友の中の親友だ。
 その事への感謝を俺は小さく呟いた。
 そして、マサの好意を無駄にしないため俺は勢いよく顔を上げて担任を指差す。

「みんなありがとう! でもこのハゲには謝らないぜ! 昨日、このハゲに腕を掴まれた時めっちゃ痛かったしな! しかも俺を警察につき出そうとしたんだぜ!?」

「な! いきなり君は何を言いだすんだ!? しかもハゲって! 人が気にしていることを!」

 担任よ、申し訳ない。
 クラスの生徒たちと俺との間である種の心理的な結束を生むために、担任には「俺たち」の敵になってもらう。

「山田先生! そんなひどいことしたんですか!?」

 生徒の1人が俺を庇い出した。
 それを皮切りに皆がいっせいに担任を追い込んでいく。
 ちなみに担任の苗字は山田だ。

「タカシさんはただ俺たちと仲良くなりたかっただけなんじゃないの?」

「山田〜、酷くないか〜。」

「うぅ……」

 学校が始まって1ヶ月。
 担任もクラスの生徒に馴染もうと必死になっていたはずだ。
 流石にこれ以上は俺の良心が耐えられなかった。

「みんなやめてくれ! 俺が言いすぎた!山田先生!俺はまたおふざけが過ぎたようです。ごめんなさい。そして、これからもよろしくお願いします!」

 俺はそう言うと、担任の前に手を差し出し頭を下げ握手を求めた。

 和解の瞬間である。

「「「うぉーー!!」」」

「「「ターカーシー! ターカーシー!」」」

 生徒たちのテンションも上がり教室に歓声が沸き起こった。
 隣のクラスから来た野次馬だろうか、廊下の窓から何人かこちらをうかがっている。
 ちょっと大げさではあったものの、マサの助けもありクラスは俺を受け入れてくれたようだ。
 俺と担任は正面で向き合い見つめ合う。

「山田先生。」

「タカシくん。」

 そう言うと俺の手を握り返した。
 その手は優しく線のようにか細かった。
 そして女の子のように柔らかく肌がスベスベで真っ白だ。
 あのハゲ担任はこんなにも素晴らしい手を持っていたのか。

「……ん?」

 何かおかしい。
 絶対おかしい。
 何か間違ってる。
 まさか、気づかないうちに俺にそんな趣味が?
 ハゲたおっさんの手がこんなにも美しく見えてしまうほどに俺の嗜好は変わってしまったのか?
 どこで間違った。
 どこで道を間違えた?
 いや、俺は間違っていない。
 俺にはシスコンという属性がある。
 この目の前の事実が間違っているんだ。
 そう、その事実が何であるのか確認すれば良い。
 俺はその綺麗な手を辿り、それの持ち主の顔を確認する。

「近藤くん!」

「は、はひ!?」

 手を握っていたのはハゲ担任の山田ではなく柳原さんだった。

「よかった……」

「え?」

 俺の中にニッチな性癖が芽生えてなくて。

「い、いや、何でもないよ。どうしたの?」

「近藤くん。昨日は私もごめんなさい。近藤くんは私にただ挨拶してくれただけなのに、私びっくりしちゃって何も返せなかったの。あれから私、ずっと近藤くんに謝りたくて、ずっと近藤くんのことばっかり考えてたの。」

 次の瞬間、理由は不明だが歓声はピタリと鳴り止み、教室内が異様な空気に包まれる。
 硬直していた担任であったが、その空気で我に返ったのか当初の目的を続行する。

「そ、それじゃぁ自己紹介を続けようか。次は君たち3人だね。君たちはタカシくんとは兄妹なんだよね?」

 担任がそう言った瞬間、教室内の空気がさらに重厚なものに変わった。

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