世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 2-15 3匹+α⑧
「タカシちゃん、それはそうと名前はどうするのぉ?」
「そ、それはさておきお母様。どうしてタカシさんを殺そうとしたら止めたのか説明いただけます?」
改めて聞いても「殺す」というワードは恐ろしく感じるのだが。
赤髪の少女は、名前をつけられるのがそんなに嫌なのか話を逸らそうとする。
「はぐらかそうとしても、そうはいかないわよぉ。タカシちゃんもこの子達をどう呼んだらいいか困るでしょ?」
「い、いえとりあえず、赤(あか)ちゃん、青(あお)ちゃん、黄(きいろ)ちゃんと呼ばせていただきますので。」
「虫のくせになんでちゃん付け?」
「 それよりも、なぜわたくしだけが生まれたてのような呼び名ですの?」
「きいろ……ちゃん……なん……だか……かわいい……///」
「ちょっと黄色! また満更でもなく、ってあんたさっきまで怒ってたんじゃないの?」
「もう……落ち着いた……から。」
黄髪の少女もいつの間にか戻ってきてくれていた。
もう落ち着いたということだがまだ俺への視線が険しい。
だが、その瞳にはもう怒りはないが、なにか別の感情が見え隠れしている。
赤髪の少女の猫耳を確認していた際に黄髪の少女は文字通り耳をこちらに傾けていたが、何か気になることでもあったのだろうか。
とりあえずは危害を加えて来る様子はないので良しとした。
「あ、やっぱりこの呼び方はダメ?」
「当然ですわ。」
やはり、このなんのひねりもない呼び方では納得してもらえないようだ。
続けて赤髪の少女が口を開いた。
「私たち、つまりあなた達から見た妖怪でしたっけ? 先程お母様が言った通り私たち妖怪はこの世に生を受けてすぐには名前はもらえないのよ。だからといって、時間が経てばもらえるというものでもないのだけれど。」
「そうなのか。ちなみに名前は親がつけるわけではないのか?」
「それも人間特有の風習ですわね。そもそも私たちの親という存在は人間で言うところのそれとは関係性が違いますの。文字通り産むのではなくて必要だから生むの。あなた達が言うところの家族というよりかは主従関係に近いわね。」
そう言うと、一瞬ではあるが赤髪の少女の顔に寂しさが見えた気がした。
そんな赤髪の少女にツキは。
「あらぁ。私はあなた達を家族だと思ってるわよぉ。」
「自分の娘に人殺しをさせる母親がどこにいますの?」
「ここにいるわよぉ。」
なんだか、いたたまれなくなってきた。
「話を戻しますわよ。確かに生んだ者に主従を誓うのはそうなのだけれど、名前をつけると言う行為は私たちにとってまた別の意味があるの。」
「別の意味って?」
そこで、赤髪の少女の頰が少し赤らむ。
「う、運命を共にする仲になるということです。」
「それって…。」
「家族。」
青髪の少女がぼそりと呟いた。
俺が名前をつけるとこの子たちを養子に迎えるってことなのか?
それとも……。
「ででででもですよ? 名前をつけるのには主従関係にあるお母様の許可が必要で」
「ツキが……さっき……タカシさんに……名前を……つけて……もらいなさい……って。」
「で、でしたわね。」
名前をつけるのにはツキの許可がいるようだが、そもそもその本人が名前をつけろと言っているので許可もへったくれもない状況だ。
だが、赤髪の少女も諦める気がないようで。
「そうですわ。そもそもタカシさんは私たちについて何も知りませんわ。そんな状態で名前をつけるなどおこがましいですわよ。」
赤髪の少女はそうキッパリ言うと胸を張る。
「あらぁ。赤色。 あなたけっこう成長してきたのねぇ?」
その張られた胸をツキは楽しそうに指先でツンツンし始めた。
「お、お母様! な、何をしますの!?」
反射的に胸を手で隠す赤髪の少女を無視して、今度はツキがとんでもないことを言い始めた。
「でもぉ。その裸ももうタカシちゃんには見られているのだからぁ、タカシちゃんは十分にあなたたちを知っていると言うことで良いのではないのぉ?」
「「「「!?」」」」
何を言い出すのか。
最愛の妹一筋であるこの俺が、この少女たちの裸を見るようなことは……。
(裸……!?)
そうだ、思い出した。
この少女たちは昨日拾った子猫たちなのだ。
昨日家に持ち帰った後に念のためのお風呂に入れてあげたのだ。
でもまぁ、なんだ。
子猫の状態である時は結局は裸なのだろうがもふもふの毛皮があるのでそれを感じさせないし、本人たちもそれに守られている意識があるのであろう。
だが、猫だけではないがもふもふの毛がひとたび濡れてしまうと様子が激変する。
そのもふもふ感は一切なくなり体に毛が張り付いてしまうのだ。
そうなってしまうと、体のラインはくっきりと浮かび上がり彼女たちからしてみれば裸も同然なのであろう。
俺から見れば、それはただの濡れた猫でしかないのだが……。
「いいえ! あれは猫の状態だったから無効ですわ!」
「無効!」
「あのとき……タカシさん……全身……素手て……丁寧に……洗って……くれた……」
(黄髪さん。それヤブヘビだよ。)
「あらぁ。見られただけじゃなくて全身を丁寧に触られたのねぇ。それじゃぁもう仕方ないわねぇ。」
ツキは丁寧を妙に強調して3人と俺を交互に見ている。
それから3人は何も言わずそれぞれなにか思うところがあるように下を向いていた。
「それじゃぁ。タカシちゃん、素敵な名前をつけて頂戴ねぇ!」
「お母様!」
「母、冷静に。」
「おかぁさん……」
だが、なんとなく場の空気に流されていたが、ふと疑問が湧いた。
確かに3匹の子猫を拾ったら名前をつけるだろうが、この3人は自分たちを妖怪だと言っている。
さらに母親もいるので俺が拾ったからと言って俺が面倒を見る必要もない。
つまり、俺としては自分に起きた現象に関わる情報をツキから聞ければあとはこの3人とも関わる必要がなくなるのだ。
なのに、ツキはなぜ俺が名前をつける事にこだわっているのだろうか。
「ツキさん。俺としてはツキさんから事情を聞ければそれでいいんですが、なぜ3人の名前をつける必要があるんですか?」
それを聞くと、ツキは改めて俺に向き直り頭を下げた。
「タカシちゃん。」
さきほどまでふざけた空気だったが、俺を呼ぶツキの声で場の空気が一転する。
頰に冷気がかすったような緊張が走った。
「あなたに協力してほしいことがあるの。」
今までのツキとは違い、何か芯の通った声色で話し始めた。
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