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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-1 スズの思い出とルコ①

「ルコ、大丈夫か?」

 ルコは、以前使っていたクマを隠す妖術を使う気力すら残っていないようで、目の下にそれをひけらかしていた。

「だ、大丈夫ですわ。それに柳原さんには負けるわけにはいかないのですから。」

「そういえばルコはなんでそんなに柳原さんを目の敵にするんだ?」

「それは……確かに、なぜでしょうか?」

「俺が聞いてるんだけどなぁ。」

 ルコは学校までの道のりをふらふらになりながら自転車を漕いでいる。

「ルコ、やせ我慢は良くない。どうせ私が勝つに決まっている。」

「キキョウちゃん……それは……わたしの……セリフ……」

 正直、昨日のスーパーでの所業を見る限り、この2人にはまったく期待していないのだが。
 俺たちはふらふら自転車を漕ぐルコのペースに合わせてやっと駐輪場にたどり着いた。

「た〜かしく〜ん!」

 久しぶりに背後から気持ち悪い声がかけられた。
 気持ち悪いのに懐かしい、不思議な感覚だ。

「おうマサか。って! お前なんだよそれ!?」

 マサの右手には風呂敷で包まれたかなり大きい四角い物体がぶら下がっていた。

「おう、これか? 昨日話してた弁当だぞ。」

 いったいどんな大きさの弁当箱なんだ。

「ず、ずいぶんな量があるな。」

 そう、俺は今日の昼食を無難にやり過ごすために作戦を練っていたのだが、量が多いというのはこの作戦では致命的になりかねない。

「そういうタカシも結構な量の弁当持ってるじゃねぇか。」

「あ、いやこれは気にしなくていいぞ。」

 俺は手に持っていた弁当を背後に隠す。

「近藤くん! おはよう。」

 今度は柳原さんが来たようだ。
 柳原さんもルコと同じように目の下にクマを作っていた。

「ルコさん、今日は負けないからね!」

「柳原さん、私も負けませんわ!」

 朝っぱらから火花を散らす2人を見てうんざりしていると

「おい! もうホームルーム1分前だぞ!」

 マサはそう言うと教室へ走り出し、俺たちもマサへついていった。

ーーー

『キーンコーンカーンコーン』

 昨日と同じ時間にまったく同じ音色が教室内にこだまする。
 だが、今、俺が座っている席から半径2メートル以内は昨日とはまったく異なる雰囲気をかもし出している。
 各々が自分が作った弁当を机の上に置いてその時を待っているが、この2人は「待て」ができないようだ。

「タカシさん!」

「近藤くん!」

「はひぃ!」

 もちろんその2人はルコと柳原さんだ。
 俺はその2人の覇気に情けない声を上げる。

「「さぁ、どちらのお弁当を食べますの?」」

 ルコと柳原さんは息ぴったりで俺に聞いてくる。
 この2人は打ち解ければ仲良しになれそうな気がしてくるのだが。

「わ、わかったよ。でも……」

 俺の前にはルコと柳原さんの作った弁当が2つ並んでいる。
 いや、これは弁当と呼べる代物なのだろうか、弁当に対して失礼な気もする。

「「……」」

 2人の視線が痛いほど俺に突き刺さってくる。

「と、とりあえずちょっと味見していいかな?」

「「どちらから味見しますの?」」

 味見をする順番ですら競い合う必要があるらしい。
 右利きである俺は右手に箸を持っている。
 空いた左手に近い弁当は俺の左の席に座る柳原さんの弁当だ。
 左手で柳原さんの弁当へ手を伸ばした瞬間。

『ドキッ!』

 ルコからの視線が殺気に変わったことで、命の危険を察知した俺の心臓が跳ね上がった。
 これでは味見すらままならない。

「それじゃあ公平に2人でじゃんけんして……」

 ただ昼飯をくうだけなのだが、なぜこんなにも俺はぐったりと疲れているのだろうか。

 結局、じゃんけんは柳原さんが勝利し、俺は柳原さんの弁当から味見することにした。

「い、いただきます。」

 なにやらハンバーグらしいそれを俺は箸でつまみ上げた。
 だが、それは重力に耐えることができず粉々になって弁当箱に再び帰っていった。

「あ、あれ? おかしいわね? ちゃんとつなぎにデンプン糊を使ったのだけど。」

 なぜあのアプリを使って材料にデンプン糊が出てくるのだ。
 俺の命は今日までかもしれない。

「あはは、そうなんだ。俺の箸の使い方が悪かったのかな? 次は慎重につまんでみるよ。」

 俺はそういうと、時限爆弾の導火線をハサミできるかのように慎重に箸でそれをつまみ上げた。
 緊張感で手が震えてしまい、早く口に入れなければまた崩れてしまいそうだ。
 意を決してそれを口の中に放り込む。

「あ、あれ? おいしい?」

 確かに食感はハンバーグではない。
 だが、この少し噛んだらホロホロと崩れてしまうそれはなんとも言えない食感なのだ。
 しかも、味付けもそこまでは悪くない。

「や、やったわ!」

 柳原さんは早くもガッツポーズを決め込んでいる。

「ま、まだですわ! タカシさん私のも早く食べてください!」

「あ、ああ。」

 俺はルコの弁当に視線を向ける。
 そこには深い闇が広がっていた。
 ただただ広がる黒、黒、黒……。

「い、いただきます。」

 弁当箱の内部が黒で埋め尽くされており、どこに何があるのかすらわからない。
 しばらく箸を動かしていると先端に何かが当たった。

「こ、これは!?」

 全く何かわからない。
 それはしっとりと黒光りしている。
 意を決してそれを口に放り込む。

「!?」

 口に入れた瞬間、口の中に黒酢独特の風味が広がった。
 これはおそらく黒酢酢豚だろう。
 見た目はともかく味は大丈夫かもしれない。
 そして、俺は咀嚼するためにそれに歯を立てた。

『ガリッ!』

 次の瞬間、俺の視界はルコの弁当のように深い闇に飲み込まれていった。

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