世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-9 スズの思い出とルコ⑨
「う……うわーーーー! な、なんでーーー!? 俺の、俺の、俺の腕腕腕!?」
気づいたら腕がないなんて、普通の神経の人間ならパニックになって当然だ。
「腕がぁ! あれ? でもなんで!? 痛くない……?」
パニックにより痛覚が遮断されたのだろうか、痛みは感じなかった。
「だ、大丈夫ですの?」
「あぁ。なんだか痛みはないんだけど感覚が……」
『タカシちゃん、大丈夫よぉ。そいつは思い出の中のタカシちゃんの一部を食っただけだから致命傷にはなってないはずよぉ。ただ神経が切り離された感覚が脳に刻まれちゃったから結構なリハビリが必要そうねぇ。』
「そ、それって大丈夫って言わないです!」
『あらぁ。でも悠長にそんなことしてていいのぉ?』
気づけばルコが涙目で心配そうに残った俺の右手を握っていた。
「あっ! いつまで握ってますの!? 大丈夫そうですわね。心配して損しましたわ。」
俺が握っていたわけではないのだが。
「いやあんまり大丈夫じゃ、って後ろ!」
『キシャー!』
『ズシャ!』
ルコはふり返りざまに飛びかかってきた子クモなぎ払った。
空中にいてはかわすこともできなかったのだろう。
子グモは真っ二つになり、直後灰と化し空中に消えていった。
「や、やりましたわ! タカシさん見ましたか!? 私やりましたよ!」
「あぁ。ありがとう。まだいるかもしれないから気をつけて行こう。」
まぐれで当たったかのようにはしゃぐルコに少し不安を覚えつつも先を急ぐことにした。
その後、ルコは慣れてきたのか襲ってくる子グモをテンポよくなぎ払っては灰にしていく。
もう夕暮れを迎え、辺りが暗くなってきた。
「タカシさん! まだ妹さんのいる場所を思い出せませんの? 猫目だからと言っても暗くなると不利ですわよ!」
「いや、何年も前の思い出みたいでどうも思い出せないんだよ。」
「それでも妹を最愛とする兄ですの?」
「くそっ! そう言われると自信がなくなってくる。ってまたっ!」
「え!? 間に合わなっ、きゃ!」
『キュー!』
俺は残された右手で現れた子グモを全力で殴りつけた。
子グモは生き絶えたのか灰になって消えていったが、殴りつけた時に俺の右手の先に噛み付いたようで右手の指が全てなくなってしまっていた。
ルコも反動で転んでしまい、膝に怪我をしてしまったようだ。
「ルコ! 膝擦りむいてる! 大丈夫か!?」
「ど、どうして。 タカシさんの方が大怪我なのになぜ私をそこまでかばうのです!?」
「なぜって、おまえは俺の妹だからな。お兄ちゃんが妹を守って何が悪いんだ?」
その言葉を聞いたルコは驚いたように目を見開いたが、直後ルコの瞳は潤んでいた。
「タカシ……さん。わたくしは何てくだらないことを考えていたのでしょう。そうですよね。私もタカシさんの妹なのですから。」
「ルコ? 何を言って……」
ルコの潤んだ瞳は俺の目をまっすぐに見てくる。
自分の不甲斐なさが悔しい。
その瞳からはそんな思いが感じられた。
ルコは、その瞳をゆっくりと閉じて唇を俺に近づけてくる。
だが、俺はルコのその反応が何を意味しているかに意識は向かなかった。
その瞳を見た瞬間、俺の中に眠っていた思い出が蘇ってきたのだから。
「そ、その瞳は!?」
「えっ!?」
ルコは閉じていた目を見開きオロオロとしている。
俺はそんなルコの手を取り力任せに起き上がらせる。
「ひっ! きゅ、急になんですの!?」
「俺、思い出したんだ!」
「な、なにをです!?」
俺はルコの手を引き走りながら返答する。
「スズの居場所がわかったんだ!」
「……」
その言葉を聞いた途端、ルコは俺の手を乱暴に振りほどき、むすっとした顔でそっぽを向いてしまった。
こないだまでのルコに逆戻りしたようだ。
「ルコ!? どうしたんだ?」
「知りません!」
ルコがなぜ怒っているのかは分からなかったが、ようやく目的地の目の前まで来たところで。
『ギュジャーー!』
「お前、また出会っちまったな。」
そこには子グモと比べようもない咆哮をあげる、最初に出会ったあの親グモがいた。
「くそっ! やっと思い出しったってのにこれかよ。」
「タカシさん! 行ってください。 ここは私が引き止めます。」
「いや無茶だろ! あんなやつ勝てっこ……」
「嫌なんです! わたくしお姉さんだから、あの2人の見本にならないといけないの。それに……わたくしだってお兄ちゃんの役に立ちたいですわ!」
「おい、待て! 無茶だ!」
ルコは親グモへ怯むことなく突っ込んでいった。
そんなルコの様子を親グモはじっくり観察し、前足をゆっくり頭上へ上げる。
「やめろーー!!」
『ズシャ!』
親グモは俺の目には見えないほどの速さで前足を高速にスウィングさせた。
ルコは避けることもできず、その前足に胸を貫かれる。
「ルコーーーーー!!」
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