世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-5 スズの思い出とルコ⑤
「なんでこんなことに……」
俺は何もない真っ暗な自分の部屋で布団に入ってルコを待っている。
ちなみに、俺が世界の再構築者として覚醒した際に部屋の家具はツキの同族により全て撤去されたため、ベッドは無く床に直接布団を敷いている。
先ほどの件で汗だくになってしまったのでシャワーを浴びてきたのだが、緊張からまた汗ばんでくる。
臭くないだろうかとTシャツの襟首を持ち上げてにおいを嗅いでみたが、とりあえずは変なにおいはしない。
そもそも、自分のにおいなんて他人しかわからないのだろうが。
そんなことを繰り返してあれから1時間は経っただろうか、まだルコは来ない。
いったん落ち着こうと真っ暗な部屋に慣れた目で天井を見てシミでも数えようかと思ったが、築年数が少ない家の天井にはシミなど一つもなかった。
当てが外れてしまいただ天井を眺めていると、静かな部屋に時計のチクタクという小さな音がこだまして、その音を聴くと余計にルコを意識してしまう。
これから俺の布団でルコと一緒に寝る。
そう思うと、また心臓の鼓動が高まり、落ち着こうとすればするほど体が興奮状態になってしまう。
明かりをつけて一息つこうと起き上がろうとしたその時。
『ガチャ……』
ついに部屋のドアが開いた。
起き上がろうとしていたところで不意打ちをくらい体をビクつかせてしまう。
「タ、タカシさん? 起きてますの?」
「……」
反射的に黙ってしまった。
まずい、なんだか起きてるって言いにくい空気だ。
でも、ルコは恥ずかしさを少しでも減らすために俺が寝るまで待っていたのかもしれない。
ルコのためにも寝ていることにしておいた方がよいのだろうか。
そう考えていると、ドアを閉める音が聞こえた。
これはもう寝たふりを貫くしかなさそうだ。
目を閉じているため音しか聞こえない。
「……」
ルコは俺を起こさないようにと静かに歩き出したようだ。
トテトテと軽い音を立ててゆっくりと俺の布団へと近づいてくる音が聞こえる。
以前マサがこの部屋に遊びにきた時には大きな音を立てて歩いていたが、それとは比べようも無いほどに軽い足音だ。
そんなルコの軽い足音さえも、今の俺にとっては非日常感を高める大きな要素となってしまい、理性とは裏腹に心拍数が上昇していく。
ルコはようやく俺の布団の横にたどり着いたようだ。
ルコは戸惑っているのだろうか、俺の横に立って微動だにしない。
なんだかじらされているようでヤキモキしてしまう。
殺すならひと思いに楽にしてほしいと言う気持ちが今なら分かる気がする。
しばらく沈黙が漂ったのち、俺は首元に違和感を感じた。
なんだか、首元に風が当たっているのだ。
部屋は締め切っているので外から風が入ることはない。
そして、この部屋には俺とルコしかいないはずだ。
なのに、俺の首元に風が当たるのはなぜだろう。
そう思っていると、音が聞こえた。
『クンクン』
(ちょっと待てーー!)
これって、まさかルコが俺のにおいを嗅いでいるんじゃないだろうか。
さきほどから俺の首元に当たっていた風は、きっとルコの息なのだろう。
やっぱり俺が臭くて、俺の布団に入るのを躊躇していたんだ。
こんなことならスズのボディソープ借りとくんだった。
あれすごくいい香りがするんだよな。
そんなことを考えていると首に当たる風が止む。
きっと今日は俺の体臭が原因で思い出の共有は失敗に終わる。
だが逆に失敗という言葉でホッとしてしまった。
安堵を覚えるということは俺もルコと同様に心の準備ができていなかったのだろう。
なんというヘタレだ。
「し、失礼しますわ。」
ルコは小さな声でそうつぶやき、その後入口の方向へと歩く音が聞こえた。
うんざりして部屋から失礼するという意味なのだろう。
もう人の体臭嗅いでる時点でだいぶ失礼だよと言いたかったが、そこはぐっとこらえて次までにもっと男と体を磨いて見返してやるぞと決意していると。
『もぞもぞ』
俺は下半身に違和感を感じた。
明らかに俺以外のなにかが布団の中でうごめいている。
この部屋には俺以外にはルコしかいない。
ということはルコが俺の布団に入り込んでいるのか。
でもなんで俺の足元から入ってきてるんだよ。
「んっしょ。あれこっちかな?」
俺は脚を開いて仰向けに寝ているため、足元から布団に入ると早々に道が3つ分岐している。
開いている脚の両外側を進めば、いずれ俺の腹の横を通り左右どちらかの腕まで到達できるだろう。
だが、真ん中の道は決して進んではならない。
そこは行き止まりになっているどころか、それ以上にまずいトラップが待ち受けているのだから。
そして、ルコはもちろん悩んだ末に真ん中の道を進んでいる。
(ダメだ! ルコ! その道を進んではいけない!)
「んっしょ。んっしょ。」
(気づいてくれ!)
「あれ、なんだか狭くなって……」
次の瞬間。
「きゃーー!」
俺はその感触に悲鳴をあげて飛び起きてしまった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?