世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 4-10 スズの思い出とルコ⑩(★)
親グモは前足にぶら下がってピクリとも動かないルコをいちべつすると、その足をなぎ払いルコを草むらへと投げ捨てた。
「く、くそぉおおお!!」
その一瞬をついて俺は目の前にある目的地へと残る力を振り絞り走り出した。
一刻も早くルコの元へ駆け寄りたかったが、それはこの一瞬の隙を作ってくれたルコの好意を裏切ることになる。
その様子を見た親グモは俺が思い出の核へ近づいている事に気がついたのか、俺の後を追って動き出す。
全速力で走っている俺の背後から、地鳴りのような足音が猛烈なスピードで近づいてくるのがわかった。
だが、もう目的地は目の前だ。
「あと、少し。」
肺がひっくりがえって口から出てくるんじゃないかというぐらいに息が上がっていたが、そんな事はどうでもいい。
最愛の妹スズのために、新たな妹ルコのために、その意識だけが俺の足を前へ進めていた。
目的地は、俺とスズの秘密基地。
それは、以前ここへ来た際にスズと辺りを探検して見つけた使われなくなった小屋だ。
そう、思い出の核であるスズはここに隠れている。
「スズ!」
俺は小屋のドアを勢いよく開けて中に飛び込んだ。
『バキバキバキ!』
親グモは狭くて入ってこれないのか、入り口を破壊して小屋に入ろうとしている。
もう2秒と持たないだろう。
俺はスズがいたであろう場所に急いで視線を向けると、そこにはスズではなく虹色にかがやく球体が浮いていた。
これが思い出の核なのだろうと直感的に理解した。
『ギュジュァアアアア!!!』
木製の入り口は秒で破壊され、ルコを貫いた前足が俺に迫ってくる。
だが、それより早く俺は無い左腕の感覚と、喰われて指がひとつも残っていない右腕でその核を優しく抱きしめた。
次の瞬間、親グモの前足は俺の首元に突き刺さる寸前で動きを止めた。
それと同時に、思い出の核から白い煙が吹き出し辺り一面を白く染めた。
『ギョエェェ!!』
その煙に包まれた親グモは思い出の核に近い前足から徐々に灰と化して白い煙に飲み込まれていった。
親グモが消滅し、白い煙が漂う空間に俺だけが取り残された。
だが、この煙には何か優しさのようなものを感じる。
まるで、目の前で誰かが俺を見守ってくれているような。
「スズ? そこにいるのか?」
その誰かの気配を確認しようとするも、俺の意識は薄れ白い煙の中へと消えてしまった。
◇
「お兄ちゃん! ちゃんと持っててよ!」
「わかってるって! ほらちゃんと漕げよ!」
俺は妹が漕ぎだすと同時に自転車から静かに手を離した。
「わっ! わっ!」
『ガシャン!』
まだ手を離すには早かったようで、妹は盛大に転んでしまう。
「お兄ちゃんの嘘つき! ちゃんと持ってるっていったのに!」
「持ったままだったら、いつまでもひとりで漕げないだろ。」
スズの膝に血が滲んでいる。
転んだときに膝をすりむいてしまったようだ。
だが、妹はケガなどどうでも良いように地面に座ったまま涙目で俺を見る。
自分の不甲斐なさが悔しい。
その瞳からはそんな思いが感じられた。
「お兄ちゃんの教え方が悪いからいつまでたってもひとりで自転車に乗れないんだもん!」
「なんで俺のせいにするんだよ! スズが運動音痴なのが悪いんだろ!」
「お兄ちゃんのバカ! 嫌い! 」
「ああ! 俺もスズが嫌いだよ!」
この時、俺はなんでスズの心をわかってやれなかったんだろう。
スズはただ俺に八つ当たりがしたかっただけなんだと。
褒められたことではないけど、兄が妹のそんな想いを受け止めてやれず跳ね返してしまってどうする。
その後、そんなスズを置いて俺はひとり部屋に戻りふて腐れて寝てしまっていた。
「タカシ? スズを見なかった? もう日が暮れるのに帰ってきてないのよ。」
母親にそんなことを言われて起こされた。
「え? 外で自転車の練習してるんじゃないの?」
「それが、いないのよ。ちょっと探してくるわ。」
それを聞いたら、もういても立ってもいられなかった。
「母さん! 俺も行く!」
「もう暗くなるからタカシは留守番してなさい。」
そう言って母は部屋のドアを閉めた。
「俺のせいだ。妹に何かあったら俺が全部悪いんだ。」
落ち込んでいる暇なんてない。
頭より体が早く動いて、気づいたら窓から外に出ていた。
もちろん靴なんて履いてないけど、足の痛みなんてこの胸の痛みに比べたらどうでもよかった。
「スズが行きそうなところ。」
すぐに思いついた。
去年、ここに来た時にスズと探検して見つけた秘密基地。
そう、ここは毎年夏休みに家族で来ている祖父の田舎だ。
きっと秘密基地に違いない。
俺は全速力で秘密基地に向かう。
「はぁ、はぁ。やっぱり。」
秘密基地の小屋の前に練習すると田舎まで持ってきた女の子用の自転車が置いてある。
俺は、小屋の扉をゆっくりと開けて妹の名前を呼んだ。
「スズ。遅くなってごめんな。迎えにきたよ。」
「お兄ちゃん!」
扉を開けたと同時に、俺の妹が飛んで抱きついてきた。
そう、赤髪の猫耳の生えた俺の妹……あれ?
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