世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 2-8 3匹+α①
「は!?」
俺は目を覚まし反射的に上体を起こすと、自分の家のソファーに寝ていたことに気づいた。
ひどい頭痛と吐き気に見舞われる。
気絶してからかなりの時間が経っていることを月の光に教えられた。
はっきりしない頭が先程の出来事を夢であったかのように錯覚させる。
「いったい何があったんだ? 本当に夢だったのか?」
全て夢であればそれでいい。
夢から覚めれば全てが元通りになるのだから。
「そんなわけないでしょぅ?」
そんな希望も虚しく、先程の気を失う前に聞いた声がその希望を打ち砕く。
目の前の暗がりから、ゆっくりと窓から差し込む月明かりの前に長い髪をなびかせて、その女は現れた。
声からも想像できた通りその女は妖艶な大人の魅力を漂わせている。
見た目も俺より幾分か年上に見えるが、その艶っぽい唇が容赦なく俺の鼓動を高鳴らせた。
だが、服装が奇妙である。
自分の少ない知識の中から似ている服装を上げるならば巫女服が近しいが、それとは色が全く異なる。
それは深紫よりも黒く、見ていると吸い込まれそうな色だった。
更に目を引くのは、両肩から胸元にかけて露わになった美しい肌だ。
その肌は、月明かりに照らされ白く輝いている。
胸元には深い谷間が刻まれており、豊満な胸をよりはっきりと主張させる。
男なら目線が固定されてしまうことは避けられない。
俺はその姿をただただ呆けて眺めることしかできなかった。
「あらぁ? そんなにマジマジと女性を見るものでなくてよぉ?」
「ご、ごめんなさい……」
思わず謝てしまった。
そもそも自分の家に知らない人間がいるということ自体が異常なのだ。
だが、女はさも当たり前のように彼女はそこに佇んでいる。
なんだかそれが当然かのように思えてしまい、ただ女の言葉に反射的な返答しかできなかった。
「うふふっ、あまりにも目を覚まさないものだから、殺してしまったかと思ったわぁ?」
(こ、殺してしまう?)
その言葉はあたかも俺を気絶させたかのような口ぶりである。
だが、女を問いただすこともままならない。
先程から女の姿を見ていると麻痺したように体も口も動かないからだ。
女は、そんな俺を見つめると、目尻と口元を緩ませた。
そして、あたかも俺の心を見透かしているかのように話しかけてくる。
「あらぁ? 気絶させたのはお前かって聞きたくてしょうがない顔をしているわねぇ。」
「!?」
その図星の言葉に、明らかに動揺してしまった。
「いいわぁ。その恐怖と不安が入り乱れた顔。たまんないわぁ。」
女の顔は、まさに悪女という言葉がそのまま具現化されたようであった。
だが、その悪は持ち前の美しさにより上書きされて、ただただ美だけを相手に突きつけてくる。
そんな暴力的な美で武装した顔を、俺の耳元までずいっと近づけると。
「あっ、たっ、りっ。」
「ひっ!」
「私があなたを気絶させてここまで運んできたのっ。」
耳元をかする吐息の感触と、その言葉を理解したことによる恐怖の二通りの意味で体が震えた。
それと同時に、俺の体の麻痺は解け、とっさに耳元を抑えて顔を伏せる。
女を見たらまた身体が硬直してしまうかもしれないからだ。
「あら、あら、驚かせてしまったかしらぁ?」
女は俺の反応を楽しんでいるかのようにクスクスと笑っている。
俺がうずくまってると、ドアの開く音とともに新たな声が聞こえた。
「お母様! どういうことですの!?」
その声は女の声とは対照的に、幼さが残るが気品ある声だった。
(お母様?)
なんだか、話がややこしくなってきそうだ。
「話が違う。なぜそいつを連れて行く?」
また違う少女が部屋に入ってきたようである。
冷たく冷静な声で淡々と母親を糾弾している。
「そいつ?」
そいつとは、俺のことなのだろうか。
「わ……私たち……頑張って……準備……してたのに……」
更にもう1人いるようだ。
その声は途切れ途切れで自信が感じられずおどおどとしていた。
「準備?」
つまりは、新たに現れた3人は俺を対象として何か準備をしていたが、この母親が勝手に俺を気絶させてここまで連れてきた。
ということなのだろうか。
「もうバレちゃったのぉ? あぁもぅ。興が削がれちゃったじゃなぁい。せっかくこのままいいところまで行こうと思ったのにぃ」
いいところってどこなのか、少し教えて欲しかった気もしたが、先程の緊迫した空気はどこへやら、急にポップな感じになってしまい、気づけば体も自由に動く。
「お前ら誰なんだ! 人ん家でいったい何やってんだー!」
やっとの思いで疑問を吐き出すことができた。
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