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世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 3-10 新たな生活③

「み、みんな? どうしたんだ?」

『……』

 クラス内の様子が先ほどとは明らかに変わっていた。
 そんな沈黙の中、思わぬ方向から強い口調の声が飛んでくる。

「ところでタカシさん。いつまでその手を握ってらっしゃるの? それにそこの女も、いつまでもタカシさんの手を握ってないで離しなさい!」

 ルコだ。
 なぜか憤っている。

「あっ! 柳原さんごめん!」

 反射的に俺は柳原さんに握られた手を離そうとしたが。

『ぎゅぅ』

「あ、あれ?」

 その手は柳原さんに強く握り返されてしまい、見たこともない顔で柳原さんはルコを睨んでいる。

「どなたか存じませんが、あなたはなぜ私に命令をするのですか? 私が近藤くんの手を握ろうが私の勝手ですよ?」

「痛ででででっ!」

 そう言った柳原さんはルコに強い視線を向けると、更に俺の手を強く握った。
 この人はこんなにも強気な人だっただろうか。

「なっ! なんですの? この女は!?」

 ルコと柳原さんはそのまま睨み合いになり、今にも火花が飛び散りそうだ。
 意図せず完全によくない方向へ事が突き進んでいる。

「それにあなた方は近藤くんのご兄妹なのですよね? 私が近藤くんと仲良くしたところでなぜ口出しするんですか?」

「そ、それは。」

 その言葉にルコは口ごもってしまった。
 一方、柳原さんは勝ち誇ったような顔をしている。

「いいかげん離れて。」

 いつの間に移動したのか、俺の右側に並んで立っているキキョウが、柳原さんと握り合っている手の上に自分の手を置いた。

『するっ』

 おそらくまた何らかの妖術を使ったのだろう。
 強く握られていたはずのその手は滑るように離れていった。

「あ、あれっ?」

 柳原さんは何が起こったかもわからず困惑している。

「お兄ちゃん……大丈夫?」

 今度は俺の左側にリオンが並び、柳原さんに強く握られて少しジンジンする手をさすり出した。

「うわっ! 大丈夫! 大丈夫!」

 突然手をさすられたことに驚いて、思わず手を引っ込める。
 それにしてもリオンから、以前まで聞き慣れていた久々のワードが何の前触れもなく飛び出していた。

「お、お兄ちゃんって。タカシさん? いつからリオンにそう呼ばれていましたの?」

 ルコもそれに驚いていたようで俺にひそひそと聞いてくるが、俺もリオンには初めてそう呼ばれたのだから首を振ってみせるしかできなかった。

「お兄ちゃんには、あなたなんかより虫がお似合い。」

 いったいどうなっている。
 あのキキョウですら俺のことをお兄ちゃんと呼びだした。
 虫がお似合いって逆に俺を貶めている気もするのだが。
 それにしても女の子に言われる「お兄ちゃん」とは何度聞いても良い響きだ。
 だが、そんな甘美な呪文に浸っている場合じゃない。
 そもそも俺がこの3人にデレてしまってはツキに殺されかねないのだ。

「2人とも、どうしましたの?」

 ルコがこの状況を飲み込めていないようで、キキョウとリオンを交互に見てあたふたとしている。
 そして、2人にアイコンタクトを送られたのかはわからないが意を決したように。

「そ、そうですわ。お、お兄ちゃんは私たちのものですわ。」

「そこまでは言ってない。」

「……」

 キキョウがすかさずツッコミを入れ、ルコの顔が髪と同じ色に染まっていく。

「ず、ずいぶん仲が良いご兄妹ですね……」

「あ、あぁ、ありがとう。」

「でも、やっぱりご兄妹には越えられない壁がありますからね。」

 柳原さんはそう言うと胸を張る。
 柳原さんのそんな体勢は今まで見たことがなかったため気づかなかったが、2つの膨らみが大きく強調されていた。
 胸が結構あるんだなとつい思ってしまう。
 ルコはその様子を見るや、追い込まれた猫のように反撃に出る。

「確かに私たちはタカシさんとは兄妹ですわ。」

 どういう理由か、ルコは自信満々に柳原さんへ対抗するかのように胸を張った。
 ツキ譲りなのか相変わらず年齢にしては成長しているその胸にはやはり迫力がある。
 だが、次の一言に俺は耳を疑った。

「ただし、『義理』の兄妹ですが。」

 俺の記憶と何かが明らかにズレている。

「な、なに!? ちょっと待て! ルコ! それはおかしいぞ!」

 先日、俺が修正した家系図でも俺はツキの子となっていたはずだ。
 つまり、この3人とは血縁関係にあるはずである。
 
「おかしくないですわよ、お母様から渡された家系図を見るとタカシさんは義兄となっていましたよ。」

 ルコはどこから取り出したのか、以前見た簡易的な家系図を俺に差し出してくる。

「……」

 さらに複雑になった家系図を見て俺は言葉を失った。
 これを見ると俺はツキの前夫の連れ子ということになり、3人とは血縁関係がないことになる。
 つまり、兄妹の越えられない壁がいつのまにか無くなってしまったのだ。

 俺が修正を加えた後に、こっそりとツキが修正したものと考えられる。
 理由は当然「このほうが面白いから」だろう。
 あの人は本当に世界を救おうとしているのだろうか。

 柳原さんも家系図を横から覗いていたようで、顔は引きつったまま固まっている。
 公言してしまったからにはもう修正はできない。
 柳原さんどころか、この真実ではない事実がクラス内の全員の耳に入ってしまったようなのだ。

「なんだって!? タカシの裏切り者!」

 俺がいつ誰を裏切ったというのだ。
 むしろ裏切られているのは俺ではないのか。
 それをきっかけに、クラス内から俺へ罵声が飛び交い出した。

「そんな可愛い女の子がしかも3人も! 兄妹だって言うだけで羨ましいってのに義理って!? 」

「柳原さんから告白してもらっても飽き足らず、さらにそのめっちゃ可愛い義妹にも手を出す気か!」

「こ、告白? 何の事!?」

 柳原さんはその声に我に返ったのか、明らかな動揺を見せて真っ赤な顔で反論している。
 その態度が余計に誤解を生むとも気づかずに。
 そして、クラスによくいるお調子者だろうか、そいつが更に煽り出す。

「ずっと近藤くんのことばっかり考えてたの。」

「ひぇっ!?」

 そのお調子者は身振り手振りを交えて柳原さんの真似をすると、うわずった声が柳原さんの口から漏れた。
 そして俺はクラス内の男子からの視線が嫉妬の視線であることにようやく気づいた。
 どうやら先ほどはこの視線が原因で空気が変わったようだ。
 だが、空気が更に重くなった原因は別にもあったようで。

「タカシさん! その超可愛らしい3人が義妹ですって!?」

「義理妹!? なんてうらやまし……いえ、なんて危険な設定なの!?」

「あんたみたいな女ったらしの側にその子たちはおいておけないわ!」

 男子だけならまだしも女子からの視線も嫉妬で埋め尽くされていたのだ。

「ちょ、ちょっと待てよみんな! さっきまで……あんなに……」

 俺はクラスに受け入れられたんじゃなかったのか。

『……』

 とりあえず昨日の問題はなんとかなったが、別な問題が新たに発生したようだ。

「え、えーと、大丈夫かな。それじゃぁホームルームの時間も過ぎているので、簡単に自己紹介だけお願いします。」

「近藤縷紅(コンドウルコ)ですわ」

「近藤桔梗(コンドウキキョウ)」

「近藤りおん(コンドウリオン)……です。」

 3人が自己紹介を終えると、クラス内の生徒の思い思いの心の声が言葉となって漏れ出していた。

「私、リオンちゃんが妹になって欲しいなぁ。あのリボンなんかもう超かわいい。毎日撫で撫でしたいなぁ。」

「いや、ああ見えてキキョウちゃんが一番ギャップ萌えの要素がありそうだよ。あの感じで急に甘えられた日には……ぶはっ!」

「ルコちゃんはお姉さんて感じだよな、あぁこんな哀れな俺を叱って欲しいなぁ。」

「「「ルコちゃん、キキョウちゃん、リオンちゃん。タカシに何かされたらすぐに言うんだぞ!」」」

 思い思いに思い過ぎだろと言いたいが、3人がみんなに嫌われるよりはマシかと自分を納得させる。
 ほっとかれていた担任が早くホームルームを終わらせたいのか、呆れ顔で無理矢理進行する。
 
「それじゃ、座席だけど、タカシくんが植松くんと柳原さんの間の席が空いてるからそこで、ルコさん、キキョウさん、リオンさんはそのひとつ前の列の3つの席についてください。もう時間も押してるのでこのまま1限目を始めます。」

 こうして、俺の新たな学園生活は最悪な幕開けとなりあっという間に昼休みへと突入した。
 もちろんそこでも一悶着あるのだが……。

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