世界の再構築者は3匹の猫耳少女に殺される!? 3-8 新たな生活①
「あ゛ぁ、ねむいぃ。」
「ちょっとタカシさん! 登校初日なんだからシャキッとしてくださいます?」
「だらしない虫。」
「たかし……さん……ふぁいと……です!」
昨晩、俺は彼女たち3人にここ1ヶ月分の授業内容を叩き込んでいた。
幸い飲み込みが早く、全てではないが1ヶ月分の要点を3人はすらすらと吸収してくれた。
なんだか、そういったところからもやっぱり人間とは違うのかなと思ってしまう。
じゃなきゃ、必至に授業についていっている俺は自信を無くしそうだ。
「お前らなんで眠くないんだよ。」
「あなた方よりわたくしは3倍優れていますからね!」
「嘘はつかない方が良い。」
キキョウはそう言ってルコの目の下を素早く指でなぞる。
そうすると目の下にクマが現れた。
「な! 何しますの!? せっかくごまかしていたのに!」
「妖術の無駄遣いは良くない。」
まったく、その便利な妖術とやらはもっとマシなことに使えないのだろうか。
「わたし……たちも……ねむ………………。」
「わ! 黄色、じゃないリオン! 立ったまま寝ないで!」
もともと黄色と呼ばれていたリオンは器用に立ったまま寝ている。
この3人の名前はルコ、キキョウ、リオン。
俺がつけた名前で、その時からこの3人は俺と家族になった。
徐々に馴染んでいければ良いのだが。
「まだ慣れない。」
「でも……すてきな……なまえ。」
「そうね、わ、悪くはないですわ。」
「気に入っている。」
「「「!?」」」
「ど、どうしましたの? キキョウ! 今日は熱でもあるんじゃ。」
「うるさい。率直な意見を述べたまで。それに虫を気に入っているわけではない。」
最後のは余計なひと言なのだが。
「そ、そう。」
「ききょうちゃんは……すなおじゃ……ないから。」
『ズゴ!』
キキョウのチョップがリオンの頭部に炸裂する。
「ふぇ……」
「バカ言ってないで行く。」
キキョウはそう言って先頭を早足で歩いて行く。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
なんだか、本当に仲が良いんだなと思えてくる微笑ましい光景だ。
「それに。」
今、彼女たちはもともと俺が通っていた学校の制服を着ている。
髪色と猫耳が相まって、その姿はなんとも可愛らしいのだ。
さらにスカートの下からは尻尾も出ていて楽しそうに左右に揺れている。
まったく俺好みでけしからん……?
「って! ちょっと待てーーぃ!!」
「な! なんですのいきなり叫んだりして!?」
「近所迷惑。」
「たかし……さん?」
「すっかり馴染んでたけど、お前らのその猫耳はやばいだろ! あと尻尾もあったのか!?」
「あら? いけないかしら?」
「意味不明。」
「タカシさん……私たちの耳……好き……ですよね?」
「いや好きだよ? どちらかというと大好物ってちがぁう! 」
「大好物ってなんですの? 耳を見せた時にそんなこと考えてましたの!?」
「やっぱりウジ虫。」
「な、何言ってんだよ、そんなわけないだろ!」
今となってはその事について、ちょっと後ろめたかったりする。
「昨日もスズさんに聞かれましたわよ。人間にはこれがそんなに珍しいものですの?」
リコはそう言って不思議そうに猫耳をひょこひょこと動かしている。
「なんだって。」
非常にまずい。
昨日の時点で猫耳はもう既にスズにはバレているようだ。
どう説明したものかと、いまさら頭を抱える。
「ですが『かわいいでしょ?』と返しましたら、その後特に何も聞かれませんでしたわよ?」
「あぁ。それはきっと猫耳カチューシャでもつけているのだと思われたのだろ。でも、もし怪しんでいたら面倒になりかねないから、あとで誤解を解いておこう。」
「そんなに神経質になる必要がありますの?」
「心配性。」
「だめ……ですか?」
「俺はともかく、学校のやつら、それだけじゃない、一般の人から見たら大事になりかねないんだよ。それに学校だと猫耳カチューシャの言い訳は通用しなさそうだし、そもそも担任が没収するとか言い出しそうだ。」
彼女たちは勉学は教わってきたものの、その辺りの人間に関する一般常識が欠如しているのだろう。
「そうですの?」
「気にしすぎ。」
「じゃあ……隠す?」
リオンはそう言うと自分の猫耳を両手で撫でてみせた。
するとどうだろう、猫耳の根元から撫で始めて、撫でたところから徐々に猫耳が見えなくなる。
なんだかそれは、大事なものを失って行く様を見せられているようで、「あぁ」と声に出しそうな喪失感が胸に生まれた。
猫耳が完全に隠れると、次は尻尾を同じように隠していく。
「これで……いい……ですかね?」
「あ、ああ。それならバレないだろう。」
リコとキキョウはリオンの様子を見ると、同じように猫耳と尻尾を隠していく。
「あぁ。」
その堪え難い光景を見てついに声が出てしまった。
「なんでさっきからそんなに悲しそうな顔をしてますの?」
「気持ち悪い。」
「たかし……さん……また帰ったら……見せて……あげますから。」
つい顔にも出てしまっていたようだ。
「いや、俺の事はいいんだ。そっとしておいてくれ。」
そんなやりとりをして、俺たちは学校に向かっていった。
その学校に試練が待ち受けている事も知らず。
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