クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル
【過去の演奏会より】
日時:2023年12月9日(土)
場所:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
・クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)
【演目】
ショパン:夜想曲 第2番 変ホ長調 op. 9-2
夜想曲 第5番 嬰へ長調 op. 15-2
夜想曲 第16番 変ホ長調 op. 55-2
夜想曲 第18番 ホ長調 op. 62-2
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送」op. 35
ドビュッシー:版画
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 op. 10
(アンコール)
ラフマニノフ 前奏曲 32-12
ラフマニノフ 前奏曲 23-4
以前、ピアニストの中村紘子さん(2016年没)が何かの番組で『もうバックハウスとかリヒテルとかのような、巨匠と呼べるピアニストはいなくなっちゃったわね』の話されていた。若くて優秀で技術だけでなく音楽性や品格まで身につけているピアニストが国際コンクールのたびに湧き出ている、ということだったのかもしれない。
なるほど氾濫している動画を見ても技術的に呆れるほど高く、難曲をこともなげに弾くのを見てしまうとそう思わざるを得ない。
しかしあえて現代ピアニストの巨匠と呼べる人を挙げると、私はマルタ・アルゲリッチ、マウリツィオ・ポリーニ、そして今日のクリスチャン・ツィメルマンだと思う。そんな人が西宮にやってくる。
しかも芸文のピアノはイマイチかなと思っていたので、ピアノを分解・組み立てができるほどピアノを知り尽くしているピアニストが、どう攻略するのか。とても楽しみだった。
舞台の上のピアノはスタインウェイ。もしかしたら持ち込みかもしれない。アナウンスで『ピアノ自体の写真撮影も厳禁』を繰り返して、撮った人には消去を求めていた。
ピアノ椅子は座ると膝がつきそうなくらいの高め、楽譜をめくりながらの演奏だったが、見ている風ではなかった。
初めの曲、名曲ノクターン9-2から"ショパンはこう弾くべし、ピアノはこう弾くべし"と高次元でのお手本的。完璧という言葉ではなく"突き詰めるとそうなる"といった演奏だった。音量ではなく音楽性に圧倒された。
手の指の形が常にきれいに力が抜けていて、それがレガートや強弱など、あらゆる表現が可能にしているようだった。特別の誇張もない自然な表現で、まさにピアニストの横綱といった風格。ため息しか出なかった。感情に任せて体を振ることもなく冷静で、演奏姿勢も見事だった。
ホール的には強奏時に少し響き過ぎのような気もしたが、ペダルを細かく踏み換えて、響きを作っていた。
後半のドビュッシーはペダルはもちろん、一本一本の指の落とし方までコントロールされているようで、それがとても自然だった。特にペダルが絶妙。こんな弾き方ができる人がいるんだ。
最後のシマノフスキは迫力ある打鍵で、力強い響きと超絶技巧。この難曲をもはやミスタッチとかの次元ではなく音楽を突き詰めた結果のようだった。
ステージマナーも堂々たるもの。礼儀正しい好人物を感じさせ、燕尾服の着こなしや白髪や髭の身だしなみもダンディで、余裕すら感じさせた。
彼のステージはすべてが極めて自然で、何も足すものも引くものもない境地に達している感があった。まさに現代の巨匠であり、本当に素晴らしい演奏会だった。