通りすがりの魚屋さん外伝【クリスマス特別編&新たなる戦い】 #パルプアドベントカレンダー2019
海底の珊瑚玉座に鎮座す超常の存在。人間女性に似た五体を持つが魚にも海月にも軟体動物のようにも見える。
彼女の呼び名は古今東西数あまたあるがここではある人物が用いる『姫』という呼称を用いよう。
『姫』はふわりと立ち上がり、超自然の思念波で語りかける。
『……人の子の暦といえど不思議な力があるわ。信じる者には時に理を書き換えるほどの奇跡をもたらす』
『あらあら……どうやらその時が近づいているようね』
『……そして、新たなる戦いが始まろうとしています……』
――――――――――――
12/24、とある町で。
「魚ー、魚ー、ぴちぴち新鮮なお魚よー」
台車を引きながら魚を売る女性の姿があった。サンタ衣装にミニスカート、黒のニーハイソックスという姿である。清水のように蒼く輝く髪と神秘的な紅い瞳、衣装の隙間から見える白い肌が美しい。
彼女の売る魚は常に新鮮で、町の住民にも人気があった。
「カニ4匹ください」「2匹で十分でしょ?」「彼女が家に泊まりに来るんですよ」「4匹ね」
カニを買いに来たのはこの町のお巡りさんである。今は私服だ。
彼の話によると今年も彼女なしにクリスマスを過ごすところだったが、偶然飲み屋で出会った女性と意気投合し……という事らしい。
この町は牧歌的な雰囲気が強く、幸いな事にヤクザ・コーポの魔手もまだ届いていない。ひとえに彼の実直で正義感の強い人柄故だろう。
「ほらぁー、早く買い出し終わらせてお家に行こぉ?」
ふと声が聞こえた。
見るとお巡りさんの彼女と思しき毛皮コートの美しい女性の姿……しかしその瞳は何処か酷薄さを感じさせる。
魚売りは訝ったが、しばらく様子を見る事にした。何故なら、次の客が来たからである。しかもどうやら町の住民ではないようだ。
「あの、すみません……帰り方がわからなくなって」
年の頃大学生程の青年といった所だろうか。かなり憔悴している。
「あのねぇ、わたしは魚屋さんでお巡りさんじゃないんだから……あぁーっ!!」
魚売りが青年の肩越しに見たのは、件のお巡りさんが毛皮コートの女性といちゃつきながら遠くへと去っていく姿だった。
(これわたしが何とかしないといけないやつね……)
かすかに雨が降り始めていた。
(クリスマス期間にかこつけて)店を早じまいした魚売りは(ミニスカサンタ服のまま)定宿に青年を連れ込み状況説明させていた。
「そもそも名前は?」「……駄目だ思い出せない」
「出身どこ?」「……島……戻らないと」
「島?」「港に向かった所までは覚えている……」
「つまり、あれね?連絡船とかそういう」「……多分、そうだ」
しかしこの町には小さな漁港こそあるものの、連絡船などの大型船は発着していない。つまり彼の言う港はこの町には存在しないと魚売りは推理した。
(……記憶障害の類?否、もしかしたら……)
魚売りは壁に掛かっているカレンダーを見る。12/24。もう少しで12/25だ。
彼女は『姫』から聞いたある物語を思い起こしていた。もし事実なら……。青年の目を見つめて魚売りは優しく話しかける。
「いい、よく聞いて?大事なことよ」
「……はい」
「あなたはここで何かを成し遂げるために来た……それが何かに気付けば、記憶も戻るはず」
「成し遂げる……わかった、考えてみる」
「わたしはちょっと用事があるから部屋で待っててね」
胸騒ぎがする。魚売りは宿を飛び出しクリスマス・イヴの夜闇へと消えた。
何時しか雨は雪へと変わっていた。
一方、こちらはお巡りさんの自宅。
「いやぁ、新鮮なカニはやっぱり美味しかったですね!」
「でも4匹はさすがに多かったかなぁ?1匹残っちゃったね」
「冷凍しておけばいいですよ!」
お巡りさんは彼女……今はコートを脱ぎ銀糸刺繍の和服に身を包んでいる……と二人でカニに舌鼓を打った後、旧知の仲のように談笑している。
Pi!
不意に響く電子音。女性がエアコンの暖房をOFFしたのだ。
「ちょっとちょっと!流石にそれは駄目ですよ、外雪降ってますよ!?」
だが彼女はお巡りさんの抗議に動じない。ベッドに座り込み、流れるように胸元をはだける。そのバストは豊満だ。
「あらぁ、そんなの一緒にベッドに入ればすぐ温まるわよぉ。大丈夫」
彼女が誘うように手招きする。
「そう、ですね……」お巡りさんもついこの言い分に納得してしまった。
やがてお巡りさんも女性の隣に座ると、彼にしなだれかかった女性が肩に腕を回してくる。
彼女が顔を近付けると、露わになった胸が自然に押し付けられる形だ。
「……大胆……なんですね」
「ふふっ」
女性が彼の耳元に軽く息を吹きかけた……その時!
「アアァーッ冷たい!!」
お巡りさんが悲鳴を上げる!突如として凄まじい冷気が彼を襲ったのだ!その証拠に髪の毛は既に霜の如き氷晶で覆われている。
そして……何たる事か!その冷気はかの和服女性の肢体から放たれているのだ!!
「あんた、そういう馬鹿正直なとこがダメなのよね」
「どどどどういう……ことで……」
「物分かりが悪いわねぇ。あんたには死んで貰って、ここらの治安維持はヤクザ・コーポが引き継ぐ」
「……ヤ、ヤクザ・コーポ……」
おお、何たる悍ましき事象であろうか!
この女性はヤクザ・コーポの異能暗殺者であり、邪魔者たる彼を消してこの町の利権を手に入れる足掛かりにする腹積もりである!!
彼は逃れようとするが、体温を奪われもはや肩に回された細腕を振り払うほどの力もない。女の眼差しが一層酷薄さを増す。
「……アアア……助けて……」
「ダメ。チャンスは何度でもあったのに……もう、遅いの」
霜が彼の衣服を、肌を包み込んでいく!!
ジーザス・クライスト!聖夜にこのような非道極まる涜神的行為がまかり通ってよいものであろうか!?
降り積もる雪は辺り一面を銀世界に変えていた。
「……アッアッ……」
「大人しく私たちの傘下に入れば寒さに凍えることもなかったのよ。上の方には暖房を忘れて居眠りした事による凍死って報告するから安心しなさい」
「そうはさせない!!」
おお、セント・ニコラス!赤と白のあの特徴的な衣服は聖夜の守護者にして施しの戦士に他ならない!!
「純粋な男心を利用して聖夜を血に染めようとした罪は償ってもらうわよ」蒼白く輝く髪が風になびく。両手に携えたノコギリザメで窓を破砕し突入したのだ!
「……魚屋……さん?」その一言を残し意識を失うお巡りさん。
「あなたの悪巧みは全部把握しているわ、絶対に許すわけにはいかない!」
「あんたこそどこの鉄砲玉!?名ぁ名乗りなさい!!」
銀糸刺繍和服女性はお巡りさんから跳び離れ、蒼髪ミニスカサンタと睨み合って啖呵を切り合う。
「人に名乗れって言うならまず先に名乗りなさいよ」
「別にいいわよ。コードネーム:スノードレイク……あんたは?」
「……コードネーム:ホーリーナイト!!」
「面白い冗談ね、氷漬けにして冷凍チャンバーに飾ってあげるわ!!」
スノードレイクの周囲で激しい冷気と氷晶が渦巻く!
「行けぇーっ!!」
ホーリーナイトのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!それと共に背後から何らかの飛来物が複数出現、矢のようにスノードレイクに襲いかかる!
銀色に輝くそれは……殺人サンマだ!槍の如く鋭利な口先がスノードレイクの心臓を貫通……しない!
「ハアーッ!」
凍てつくように冷徹なシャウトと共に密集した氷晶が盾となり殺人サンマによる刺殺を防いだのだ。床にカラカラと冷凍魚の転がる音が聞こえる。
しかしホーリーナイトは攻撃の手を緩めない!
「ルリャーッ!」
ラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウトと共にスケートめいて間合いを詰め、右のノコギリザメを振るう!
「ハアーッ!」
スノードレイクは氷の盾で防御!しかし殺人サンマを受け止めた傷が塞ぎ切れていない!大きなクラックが入り……。
CLASH!!
盾が破砕する!!ホーリーナイトは瞬時に左のノコギリザメを逆袈裟に振り上げた……がスノードレイクに届かぬ!
「ハアーッ!」「ルリャー!」
剣の如く鋭利な……いや、剣そのものの氷柱に受け止められたのだ。
スノードレイクはそのまま隙を見て押し切ろうとするが、ホーリーナイトはノコギリザメをソードブレイカーめいて用い武器破壊を狙う!
「ハアァーッ!!」「ルリャーッ!!」CLASH!!
鍔迫り合いを制するはホーリーナイト!スノードレイクの氷柱剣が折れる!「くっ……ここじゃちょっと狭いわ、続きは外でしましょう!」
「こらちょっと、待ちなさい!!」
窓から外に飛び出すスノードレイク。ホーリーナイトもそれを追う!
<ちょっと邪魔が入ったわ。コードネーム:ヴェスタ、合流できる?>
<コードネーム:スノードレイクね?こっちは一仕事終わったからOK>
一方、青年がいる宿では。
「「「大変だ!あちこちで火事が……放火だって皆が噂してる!!」」」
数人の住民がビラを手に宿に駆け込んできた。青年もそれを覗き込む。
<貴方の隣に放火魔がいるかもしれません>
<怪しいと思ったら以下の番号へ情報提供を>
<広域重大犯罪捜査課より>
「お巡りさんいつ来てくれるんだ……!」「早く犯人を見つけないと!!」
疑心暗鬼に駆られる住民をよそに、青年は何かに思い至っていた。
(((あなたはここで何かを成し遂げるために来た……)))
彼は立ち上がり、入り口の扉を開け放つ!
「俺に心当たりがある」
「なら通報を……」
「いや、これは俺の問題だ。それに……」
「それに、何だ?」
青年は一息置くと、覚悟を決めた眼差しで皆を見返す。
「俺は彼女……魚屋さんに助けられた。今度はこっちが助けになる番だ」
そう言い残し夜闇に消えていった彼に反論する者は、誰もなかった。
家々から上がる炎が雪が降り積もった夜を照らしている。
ホーリーナイトとスノードレイクの戦いは屋根の上に場所を移しなおも続く!「ルリャーッ!」「ハアーッ!」
ホーリーナイトが殺人サンマ6尾を一斉射出すれば、スノードレイクは虚空から手裏剣にも似たフラクタル六角形氷晶を6枚射出!致命的な飛び道具が殺人サンマを二枚おろしにしながらホーリーナイトに迫る!
「ルリャーッ!」
ホーリーナイトは手にしたノコギリザメでこれを切り払い、再び間合いを詰める!接近戦の構え!
「ハアーッ!」
スノードレイクはまたも氷柱剣でノコギリザメを受け止める!悍ましき事に折れたはずの刃は元通りに復元しているのだ!
だがこの程度の防御はホーリーナイトの想定内、急所を切り裂かんともう片手のノコギリザメを死角から繰り出す!
「ルリャーッ!!」
一撃は確かに首筋に入ったが、肉を斬った感触がない。飛び散ったのは微細な氷片のみ……ホーリーナイトは一旦跳び離れ、状況確認する。
よく見ればスノードレイクは氷晶が幾重にも重なった鎖帷子めいた超常の防具を纏っている。屋内で戦っていた時には違ったはずだが、それが口元近くまで守っているのだ。
「あらぁ、面白い技を使うと思ったけど……この程度かしら?」
(……さて、どうする……)
ホーリーナイトはスノードレイクの挑発に乗らず、次の策を練る……その時!!
「キャハーッ!!」「ルリャーッ!!」
嬌声めいた狂気を孕んだシャウトと共に松明めいた火の玉が飛来する!奇襲を察知したホーリーナイトはこれを回避!
空中には漆黒の流麗なボディに溶岩流じみたパワーラインを走らす機械鎧が翼じみた推進器から炎を噴出し滞空する!
「やっぱ避けられちゃったかあ。コードネーム:ヴェスタです、あはは!」
「あの火事はあなたの仕業ね?」ホーリーナイトが片手で炎上する家屋を、もう片手でヴェスタを指して問う。
「きゃはは!ばれちゃった?仕方ないね、きみも焼いちゃう!!」狂人!!
「言っとくけど私の獲物よ。焦がさないで」スノードレイクが口を開く。
「増援が来る前に決着したかったけど、やってやるわ!」
ホーリーナイトが身構える!スノードレイクの周囲に氷晶が集まり、ヴェスタのパワーラインが赤熱!
「ルリャーッ!」「ハアーッ!」「キャハーッ!」
粉雪と火の粉が入り混じる町の中を、青年は駆ける。
(((……為すべき事……戦うべき敵……そうだ、俺は……!)))
ホーリーナイトは有効打を見出せずにいた。
どちらも守りは堅牢で、攻撃能力も高い。一方を崩そうとすれば、もう一方から致命打を受ける事になる。
「ハアーッ!」スノードレイクが危険な氷晶手裏剣を6枚射出!
「ルリャーッ!」ホーリーナイトはノコギリザメでこれを切り払うが……。
CLASH!!
ノコギリザメのノコギリ部分が破砕!冷気による凍結が不可逆劣化を生じさせていたのだ!氷晶手裏剣の1枚が耳のすぐ横を通り抜けると、ホーリーナイトの蒼い髪が切り飛ばされ風に飛んだ。
「キャハーッ!」そこにヴェスタが空中から火炎弾で追撃!ホーリーナイトは横跳び回避し直撃を免れるが、熱風からは逃れられぬ!!
「……ルリャー!」空中のヴェスタに凍結したノコギリザメを投擲し牽制!ヴェスタはヒートハチェットで軽く叩き落すがホーリーナイトは殺人サンマ飽和攻撃に移らんとす!
「ルリャーッ!」「ハアーッ!」しかし攻勢に出られず屋根を転がって回避!スノードレイクの氷晶手裏剣援護射撃だ!
屋根の両端に陣取ったホーリーナイトと異能暗殺者二人が睨み合う。戦況は依然ホーリーナイトが不利だ。
「大人しく投稿なさい。苦しめずに綺麗な氷像にしてあげるわ」
「きゃはは!いいザマだよね、きみさ」
嘲笑する二人にホーリーナイトが啖呵を切る。
「最後まで……わたしは諦めない!」
「そう……なら、凍えて死になさい」「待って、何か来る!」
「お前らの好きにはさせない!!」
家にかかっていた梯子を足場に屋根の上……ホーリーナイトの隣に跳躍したのは、紛れもなくかの青年である!!
「全部思い出した……俺の名はイカリ……」
「海藤碇だ!!」
ホーリーナイトはそれさえ聞けば十分といった顔で手を差し伸べる。そして碇は手を握り返した。
「ああもうまだるっこしい!キャハーッ!!」ヴェスタが空気を読まず火炎弾攻撃!しかし紺碧の光が迸り、炎を悉くかき消す!!
「何なのよ、これ……」スノードレイクも息を呑む。
「わたしもね、海の民の力を使えるのよ」ホーリーナイトは碇に儀式用短剣じみたアイテムを手渡す。
「わたしはホーリーナイト。あなたは?」碇がそれを手にすると展開し、錨(アンカー)を思わせる形状に変形、力が解き放たれる!!
「神海戦士!エルマーレ!!」
光が晴れた時立っていたのは、蒼く輝く体に回遊魚じみた流線形のヘルム、エメラルドグリーンの目を持つ戦士の姿だった。
「燃えてる奴は俺がなんとかする!ホーリーナイトさんは冷たい方を!」
「わかったわ、まず二人の連携を切るわよ!」
これで2対2!最初に動いたのはヴェスタだ!
「生意気ね!キャハーッ!!」両腕から火炎弾を乱射!しかしエルマーレは怯まず前進!
「トゥリャリャリャー!!」手にした『マーレアンカー』からカトラスめいた水の剣を生み出し、火炎弾を次々切り払う!「うっそ……!?」
「トゥオリャーッ!!」「アァーッ!?」ヴェスタの眼前まで肉薄したエルマーレの飛び蹴りが機械鎧を軋ませ、内部にまで衝撃を与えた!
一方ホーリーナイトとスノードレイクの交戦状況にも変化が生じつつあった。「ハアーッ!」「ルリャーッ!」
スノードレイクが氷晶手裏剣を放つも、超常の水面から現れた巨大タコの触手に阻まれる!
「こんな事もできるのよ?ところで仰々しいもの飛ばしてるけど、一発も当たってないわね……」
「言ったわね!本気を出せばあんたを一瞬で氷像にできるのよ!」
スノードレイクの両手に莫大な冷気が集まる!「ハアァーッ!!」
「マーレタイダルブレイク!!」「アーッ!飛行ギアが!!」
エルマーレは必殺の斬撃でヴェスタの機械飛行翼を破壊!屋根に着地したヴェスタは怒りに震え、パワーラインを尚赤熱させる。
「アハハ、もう許さないよ……キャハァーッ!!」胸部の何らかの内蔵武装にエネルギーが収束!
「ハアーッ!」「ルリャーッ!」
凄まじい冷気がホーリーナイトに向け放たれる!超自然の水面を展開し身を守るホーリーナイト!視界が白く染まる……そして残されたのは、氷の壁のみ。「私の勝ちね、ざまあ見なさい!」
「わたしはこっちよ!」ホーリーナイトの声はスノードレイクの背後から!またも冷気が放たれる!しかし結果は同じ!
何時しかスノードレイクの周囲を氷のドームが囲む……超自然水面を曲面状にしたためだ。しかも足元には氷晶の槍衾が霜柱めいて!
氷の壁に遮られた場所で冷気を大量放出したスノードレイクの判断ミス!
「ハアッ!」スノードレイクは手近な氷壁を破砕し視界と射線を確保するが、それは相手の射線も通すことを意味する!
「ルリャーッ!!」ホーリーナイトが放つは鈍く黒光りする物体……肉体に鉄の鱗を備えた巻貝、スケーリーフットだ!直撃するごとに超常の氷晶の守りを削り取っていく。鋼克氷、属性相性の基本である!
ヴェスタは機械鎧の胸部装甲を展開、忌まわしい炎を湛えた砲口を露出させた!エルマーレも水のカトラス剣を掲げると、紺碧の光が集まる!
「きゃははは!これなら炭も残らないよっ!!」
「破壊のための炎なんて、俺が全部消してやる!!」
ヴェスタの砲口から光と熱が溢れ、熱線として放たれるのとエルマーレが振り下ろした剣先が紺碧の奔流となるのはほぼ同時!
「《ヴェスタドライブ・ブレイジングバースト》!!」
「マーレカトラスシュート!!」
紅蓮と紺碧の奔流は互いに衝突相殺し拮抗……否、エルマーレが少しずつ着実に押している。水克火、属性相性の基本である!
「ルリャリャリャーッ!!」
ホーリーナイトはスケーリーフットを機関砲の如く連射!次第にスノードレイクの氷晶が剥ぎ取られ……遂に鎖帷子めいた超常の防具が断裂!その隙間から和服が露出する。
「コードネーム:ヴェスタ、援護を……」「それどころじゃアァーッ!!」
DOOOM!!!!
爆発音と共に紺碧の光が迸り、ヴェスタがくの字になって吹き飛ぶ!その方向にはスノードレイクが!
「「ンアアァーッ!?」」両者激突し膝をつく!スノードレイクは身を守る鎧を失い、ヴェスタも戦闘の要である機械鎧は大破し火花を上げている。
好機!!
「いくわよ!」「勿論だぜ!!」
エルマーレの両脚に紺碧の光が宿る!スノードレイクとヴェスタも体勢を立て直し反撃を試みるが、遅い!!
「マーレ・スプラッシュサーフェス!!!!」
夜闇を切り裂く凄まじい水面蹴りから青い三日月の衝撃波が放たれ、二人を捉えた!紺碧の光が辺りを包む……。
KABOOOM!!!!
爆発と共にスクラップと氷片が飛び散る。
スノードレイクとヴェスタは吹き飛ばされて地面に落ちたようだ。まだ生きているが、継戦は困難だ。
「家の中に人がいるの、あなたは彼を助けて」
「わかった。ホーリーナイトさん、あなたは……」
「わたしは、ここでやり残したことをやる」
エルマーレが家の中からお巡りさんを抱えて走り出したのを見届けると、ホーリーナイトも屋根から飛び降りた。
「どういう風の吹き回し?」「お気に入りのパワードスーツーっ!!」
ホーリーナイトは二人の女性と睨み合っていた。片方はぼろぼろの和服姿……スノードレイク。もう片方はオレンジ色の圧着型ボディスーツ……あの重装備からは信じがたいが、ヴェスタである。
「あなた達ヤクザ・コーポの手先にも蕩けるようなクリスマスを過ごしてほしいと思ってね。一応ホーリーナイト名乗ってるわけだし」
ホーリーナイトはどこからか袋のような物体を取り出すと地面に置く。人が余裕で入れる大きさだ。
「あんたこれ何が入ってるのよ」スノードレイクが困惑した様子で問う。
「何も入ってないわ」ホーリーナイトは平然と返す。
その時袋の口がひとりでに花めいて開き、無数の触手が伸びる!……そう、これは巨大なイソギンチャクだったのだ!!
「キャアーッ!あたし海の奴苦手ぇ!!」ヴェスタが発作的に指に炎を灯しイソギンチャクを焼かんとする!パイロキネシス!
「ヒャアーッ!……アッ……ア?」しかし炎は儚く消える。手に絡みついた触手から麻痺毒が回ったのだ。体の自由が利かぬヴェスタは蠢く触手の只中に沈む!
根源的恐怖に駆られたスノードレイクはホーリーナイトに背を向け逃走を図る。しかし足が思うように動かぬ!
「あら、ちゃんと二人で入れるのを用意したのよ?」
「アアア……アアアアアッ……」
こちらへ伸びた触手が裂けた服の隙間から脚に絡みついているのだ!力なくその場に倒れこむスノードレイク。ヴェスタは既にイソギンチャクの体内に胸まで収まっている。
「仲良くクリスマスを過ごしてね」
手近な壁に寄りかかりながらホーリーナイトはそう言葉をかけた。
――――――――――――
「エクスキューション・ウェーブ!!」
エルマーレがマーレアンカーから渦めいた光を放つと、燃え上がる炎が次々鎮火していく。そこに現れたのはホーリーナイトだ。
「やってるやってる!お巡りさんの容態はどうなの?」
「軽い低体温と凍傷だって。あったかいとこであったかい物食べてりゃ大丈夫らしい……ところであいつらは」
「わたしが責任もって何とかしといたから大丈夫。今頃二人仲良く蕩けるようなクリスマスを過ごしているはず」物理的に、という所は言わないでおく。
「ところで、あなたに言っておきたい事があるの」
ここは町の漁港。エルマーレ……否、変身を解いた今は海藤碇だ……とホーリーナイトが長椅子に並んで座っている。
「碇くん、きみという奇跡があったからわたしは勝つことができた」
「俺が……奇跡……!?」
「ほんとは全部わかってるんでしょ?もう」
「……ああ、俺には大事な場所がある。戦わなきゃいけない敵も」
「……帰ったらわたしの事も忘れてしまうでしょうね。奇跡はたまに起きるから奇跡なのよ」
「それは自信がない」
碇とホーリーナイトが顔を見合わせる。ふとホーリーナイトは懐から何かを取り出す……小箱のようだ。碇が怪訝な顔をする。
「それはいったい何だ?」
「これはね、あなたへの贈り物よ」
ホーリーナイトが小箱を開けると、中に入っていたのは指輪……いぶし銀の地金に透き通った青い石がはめ込まれた指輪だった。
石を覗き込むとさざ波の如く輝きが変わり続けている。
「これは……!!」
「聖夜の奇跡を記念して、ホーリーナイトからのプレゼント」
「あっ……ああありがとうございます……」
「緊張しすぎよ」
寒さかはたまた感情的なものか、顔が真っ赤になった碇の手を取ってホーリーナイトが指輪をはめる……。
メリー・クリスマス!!
碇が目を覚ましたのは、寒風吹きすさぶフェリー乗り場の長椅子であった。
時間は真昼。もしも夜間ならば目を覚ますことはなかっただろう。
「不味い、居眠りしちまった……しかし妙な夢だったぜ。まだフェリー間に合うか……!?」
腕時計を確かめる碇。その手にはあの青い石の指輪が確かに輝いていた。
【クリスマス特別編:完】
――――――――――――
『……そして、新たなる戦いが始まろうとしています……』
【神海戦士エルマーレ】
2020 Coming soon……
▼こちらの企画の参加作品です!▼
あとがき
ニイノミさんからバトンを受け取ってアンカー(本作にも登場した用語ね)はこのわたし!無銘お姉さんよ!!
……といつものように大見得切りたいんだけどもう体力の限界が近づいてます。
というのも年末進行で電撃的に一日潰れるようなスケジュールねじ込まれて……何とか早めに上がれたけど疲労は抜けてないし。
おまけに最終日担当なんて落としたら桃之字さんに顔向けできないわ!
……愚痴はこれくらいにして、何とかなったので作品の話。
本作はわたしの代表作的な扱いとなっている「通りすがりの魚屋さん」の外伝作品となっているわ。
いつもの「通り魚」の空気感を維持しつつ劇場版的ミラクルを起こせないか……いたわ、適任!!
逆噴射小説大賞2019では惜しくも選考突破を逃すも連載ロードマップが決定済みの彼!!
エルマーレですよ!!
早い話が、新ヒーローの先行登場ですね。別に「通り魚」終わる訳じゃないけど。
エルマーレ=海藤碇を無理なく登場させるために最初はイレギュラーな感じで出てきて途中で覚醒する方式にしたわ。多くは語らないけど、一応正規の変身条件を満たしてます。
戦闘描写も濃くしてみたけどそのせいで本編9000オーバーしちゃったのはちょっとやりすぎかな?
クリスマス要素はホーリーナイトでカバーしました……ずっとミニスカサンタ。スノードレイクとの戦いはニンジャスレイヤー意識したわ。
スノードレイクに相棒が必要だったので炎使いのヴェスタを配置。
ラストについては多くを語らないわ。神海戦士エルマーレの連載に期待してね!!
さて、楽しい #パルプアドベントカレンダー2019 も今日でおしまいね。
……あっニイノミさんシャケねじ込む暇ありませんでした!!
アンカー作法わかんないから一旦桃之字さんに返すわ!またね!!