神海戦士エルマーレ プロローグ #エルマーレ
――AD 1908、中央シベリア。
天にあり赤く燃えるものは太陽にあらず。巨大な炎が地に落ちようとしているのだ。
それに立ち向かうは、たった一組の男女。
空が燃え上がり大気が震える中、二人が手を握る。
(((大地が、海が、あなた達の力となります)))
それは星の意思であった。
紺碧の光が二人を中心に沸き上がり、天の炎を押し留める。
やがてそれは轟音と共に上空で爆ぜ散り……。
後には、焼け野原だけが残った。
同日、世界各地で謎の流星が観測されたという。
そして此処、龍仙島でも――
「……おお……西の空が燃えておる……」「燃え落ちる星……凶兆なり!!」
深夜にも関わらず西の空は明るく輝き、赤く燃える流星が長い尾を引く。
それだけではない。恐るべき事に、かの流星は勢いを些かも減じず近海への落下軌道を描いていた!
その只中、海辺の祠に向かい一心に祈る女性が一人。
「このままでは島が……海神様、どうか私達をお護り下さい……!」
火矢の如く島の目と鼻の先まで飛来した不吉なる星。だがそれが災厄をもたらす事はなかった。
おお……彼女の祈りが通じたか、祠から一条の光が海面に迸り、そこから紺碧の光が燃える星を包み込むように輝く!
「……なんて美しい……」
そして光が収まった時には、空も海も平穏を取り戻していた。
――時は流れ、現在。
「そしてその封じられた星が後に“焔岩”となったと言われておる」
「焔岩って沖の方にある小島みたいなあれでしょ。海底火山が噴火してできたんじゃないの?」
海の見える素朴な一軒家で言葉を交わすのは、老人とその孫と思しき若い女性。
「奈海よ、かの焔星の言い伝えは『日本諸島風土記』にも記されておる。不吉なる火の星が天から降ったのは紛れもない事実じゃ」
「辰五郎お爺ちゃんを疑ってる訳じゃないよ。ただ……」
老人……辰五郎は奈海と呼ばれた女性の言葉の続きを待つ。その顔の皴は深い。
「島に星が落ちたと言われてるのと同じ日に、桜島にも隕石が落ちた……そして大規模な噴火も同時に」奈海の眼差しが真剣になる。
「まさか……!!」
辰五郎も彼女の言わんとしている事を察し、顔色を変えた。
「……本当ならただの言い伝えじゃない、何かが」
彼女が続きを口にしようとしたその時。
家を……否、島全体を激しい地鳴りが襲ったのである!
「これは……焔岩の方から!?」
奈海は確かに何かを感じ取った。邪な力の胎動と、それを押しとどめるもの。
(((……再び……災いが……)))
「胸騒ぎがします!辰五郎お爺ちゃん、守り神様の祠を確かめに行ってもいいですか」
普段は柔和で大人しい奈海の表情とは違うものが其処にはあった。
「……奈海がそこまで言うなら仕方あるまい」
「ちょっと行ってくる!」「もう日が落ちておる、早めに帰るのじゃぞ!」
宵の帳に消えていく奈海の背を目に辰五郎は物思う。
(やはり“彼女”の血筋……ということかの)
この時何が起ころうとしていたのか、まだ誰も知らなかった。
神海戦士エルマーレ
第0話「海神の島」
【第1話へ続く】