職員室の内側21-推薦入試の課題を考える -
東京都内では高校入試が始まった。都立高校では推薦入試が実施され、2月には学力選抜が行われることになる。都立高校全体への志願者は減っているが、推薦入試は人気があり、普通科の多くの学校では志願倍率は2倍をこえてくる。中には4倍をこえる学校もある。
この推薦入試に関して、私は2つの課題を感じている。
1つ目は教員の負担である。推薦入試への出願が現在オンラインで行われるようになったが、登録された情報はダウンロードして紙に印刷する必要がある。印刷した志願票と中学校から送られてくる調査書のデータをシートに入力しなければならない。入力したものに誤りがないか、多くの教員を動員して幾重にもチェックする。また入試担当者は志願者が確定した段階で、入試前の作業、入試当日の動き、入試終了後についてすべての教員の動きを盛り込んだマニュアルを完成させなければならない。
これ以外にも備品の準備などこまごまとした作業があるが、誤りがあってはならない高度の緊張を有する作業を授業の合間に行うことはかなりの負担である。そして、入試当日は通常より早く勤務は開始する。多くの教員は朝暗い時間に自宅を出てくる。
推薦入試では小論文と面接がある。小論文は採点基準の作成に手間がかかり、当然採点業務も慎重かつ手間のかかる作業である。面接において面接官となる教員は多くの受験生を面接して公正に評価しなければならない。推薦入試では教員の主観を如何に客観化して公正に評価するか難しい。きちんとしたルーブリックで評価している学校は少なく、教員のこれまでの経験に基づく評価が多いのではないか。教員も特別に訓練や研修を受けていないので、負担の大きい仕事となっている。
選考が終了したら、合否決定の作業に入る。調査書点・面接点・小論文点を入力し、間違いがないかの点検作業をした上で合格者を決定する。この作業も慎重に進めなければならない。合格発表はオンラインと校内掲示となる。
さらに合格者に渡す書類の準備や制服等の業者との打ち合わせなどの業務が続いていく。入試前、入試当日、合格発表まで入試業務は全て授業の合間に行われていく。教員にとって仕事の負担感を感じる時期である。
2つ目は入試方法と評価に課題がある。小論文の問題は校内作成する。これも教員の大きな負担である。問題の内容も生徒の測りたい能力と問題の整合性や採点の適切さをどう確保するか大きな問題である。
面接試験は個人面接が主流だが、集団討論を行う学校もある。面接の質問項目には制約があるので、その範囲で受験生の資質や意欲を如何に評価するかむずかしい。受験生も中学校において面接トレーニングを十分に行ってくるので、回答内容にあまり大きな差はつかない。集団討論は5~6人の受験生にひとつのテーマについて討論させるものである。受験当日、初めてあった受験生同士が討論することは難易度が高い。集団討論は大学入試や就職選考でもあるが、大人であっても自分の力を十分に発揮することは難しいのではないか。うまく討論に参加できない受験生をどう評価するか、個人面接と評価とどのように整合性を持たせるか課題がある。
このように入試業務は教員に大きな負担を強いている。これも教員の無償の労働に依存しているひとつの例である。推薦入試を実施する意義はあると思うが、もう少し授業や通常の業務をしている教員の負担を軽減するか、外部への委託を検討すべきと考えている。