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コンビニ人間をオーディオブックで聴きました。面白かったです。

本の感想

『コンビニ人間』というはちゃめちゃドッカンおもしろ小説をご存じだろうか。
Audibleで聴いた後に知ったことだが、どうやら芥川賞を受賞しており、有識者から高い評価を受けているらしい。
そういったことで、今さら素人がレビューしたところでどうということもないが、どうしても気持ちを抑えられなくて感想を書くことにした。

ちなみにあらすじは書かない。文章を書くのが苦手だからだ。

※以下、ネタバレを含みます!






二つの感情

主人公であるコンビニ人間に対して、二つの感情が起こる。
ひとつは共感。思春期において、"常識・普通"と"自我・感情"のギャップに苦しまない人はいない。

みんなはかわいそうって言ってるけどそう思わない。自業自得じゃない?

ちょっとした悪口にそんなに真面目に怒ること?

それをやってはいけないってどこに書いてあるんですか?

これらのギャップは大人になるにつれ、さまざな経験を経て矯正されていくものだが、腑に落ちてない人もいる。そういう人にとって、コンビニ人間の『よく分かりませんが、どうやら私が間違ってるらしいので、みなさんの反応に合わせてます。』という態度に共感できるだろう。

もうひとつはドン引き。
それでも、コンビニ人間の常軌の逸し方にはドン引きである。
死んだ可愛い小鳥を拾う⇒お父さんが大好きな焼き鳥にしよう!⇒あれ?お母さんが喜んでない⇒もっと殺して量を増やさなきゃ!
完全にイカれている。

また、コンビニ人間の家族・友人の反応もまた現代日本ではなかなかお目にかかれないほどのステレオタイプであり、ハリウッドザコシショウではないが、「誇張しすぎた現代社会」を見ているようだった。

コンビニという妙

”一部共感できるドン引き主人公” VS ”誇張しすぎた現代社会”という非現実的な対立が大筋であるにも関わらず、はちゃめちゃドッカンおもしろのはなぜか。
例えば、この主人公がコンビニ店員ではなくハイパー・メディア・クリエイターだとどうだろうか。"なんかすごい人" VS "衆愚"という典型的な面白くない自伝に落ち着いてしまいそうだ。

この小説の妙は、舞台をコンビニにすることで主人公に対立する”常識・普通”に共感できるようにしたことだ。
中終盤においてコンビニ人間としてのアイデンティティを失いかけて、コンビニ人間を引退するとき、知らずのうち引退を応援する側で聴いていた。

普段は訳知り顔で「職業に貴賎はない。どんな職業もお金をもらっていれば立派なプロだ」と建前を偉そうに語っていても、「コンビニアルバイトよりも東証プライム上場企業社員や官僚のほうがエライ」という自身の醜い偏見をさらけ出される。そして、そのような職業差別を自覚してなお、コンビニ人間の生き方を全力で肯定することはできない。

コンビニ人間が羨ましい という気持ち

著名な芸術家や起業家への憧れを語り、夢に向かって邁進する若者たちは言いようのないダサさがあり、往々にして周囲に迷惑をかける。それでも価値を生み出すからこそ社会はその存在を肯定するが、勤勉なコンビニ人間の存在を肯定する者はいない。

誰にも肯定されない彼女は今の生き方が「良い生き方」だからそうしてるのではなく、「そうしなくては生きていけない」からそうしてるだけだ。
にもかかわらず、読了すると不思議とコンビニ人間の生き方が羨ましい気持ちになるが、一晩寝ると熱は冷める。

最後に

『コンビニ人間』は説教臭い小説ではない。
今までの人生が逆転するような教訓はないだろうし、コンビニ店員に優しくしよう!というテーマでもない。
それでも、語りたくなる気持ちを抑えられないパワーがあるおもしろ小説でした。


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