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五年ぶりのミスドで、女子中学生に励まされた日記

高校時代散々お世話になったミスタードーナツにいる。年度末でそれなりに皆が仕事に追われているというのに、月曜日から午後半休をとって、昼間から出かけてみた。もともと予定があったわけじゃなく、なんだか休みたいから休むという自堕落ぶり。このところこころがぼやっとして、頭もあんまり働かなくなっている気がしたから思い切って休んでしまった。

ここは、映画を観るとなると電車で二駅、学校帰りにも隠れて寄り道した駅だった。実家の最寄駅にあったミスドも結構前に潰れてしまって、あの懐かしいポンデリングを食べるにはここしか無くなってしまったのだ。

よく友人とドーナツ二つでおしゃべりし倒した二階席を久しぶりに訪れる。多分最後に来てからも五年ぶりくらいだと思う。勉強や仕事は×。そうポスターが貼られていて、本を読むにも少し肩身が狭い。一人でゆっくりと時間を潰すのにも、昔はよく使っていたことを思い出す。たいていは想定よりドーナツを多く食べてしまって、後から後悔したっけ。

今でも制服姿の高校生が顔を近づけあって何か話している。そのあどけない頬やさらさらの黒髪が、まっすぐ幸せですようにと思う。すっかりお節介なアラサーである。

あの頃、私の頭は友達関係か部活のことでいっぱいいっぱいだった。未来のことを考えるって言ったって次の合宿はどれくらい辛いかとか、いかに雨を降らせてランニングがなくならないかとか、そんなことばかりだったと思う。まさに一喜一憂。中高一貫の女子校で恋愛はからっきしだったけど、あれは今思うと青春だった。そんな青春を、ドーナツは何でもないような顔で彩ってくれていた。

今では、ミスドで特に意味もなくドリンクが頼めるようになった。烏龍茶とドーナツ二つ。高校生の時には、いかにドーナツを多く頼むかを考えていたのに、今じゃ無料のお水じゃなくて烏龍茶だと。それでも安いなあと思っているんだから、私も立派に社会人になってしまった。まだタクシーを使う大人にはならないぞ、と別に関係ないのに思う。

そういえば、ドーナツってなんだかおすましな言い方だなあ。私は子供の頃から、この食べ物はドーナッツって呼んできた。弾ける感じ。ドーナッツ。ドーナツは、自然派なイメージがある。油で揚げてない焼いているやつとか、綺麗なお姉さんが差し入れでくれるみたいな。でもドーナッツだと山盛りの輪っかと、チョコがたっぷりかかったやつのように聞こえる。なんかの絵本か何かの影響だろうか。

そんなどうでもいい脳内会議をしていたら、横の席で女の子たちが一時間の食べ放題をし始めた。中学生らしい三人組で、他の誰かの言葉に被せるように矢継ぎ早に続く会話が懐かしい。ドーナツは熱々のようで、作戦会議を立てている。「時間がかかるから二週目からは頼まない」「でも別のやつ頼んでる時に同時にあっためて貰えばいいんじゃない」「ゆきちゃん十二個すごくない」「ポンデリングばっかだと計画性ないよ」「あたし計画性とかない、無理」

おいおいゆきちゃん、すごすぎるよ。私は一日与えられても十二個は食べ切れないよ。十二個も食べられたら、大自慢である。中学生の女の子たちの会話は、私にさらに老いを実感させてきた。

どうやら三人のクラスメイトであるゆきちゃんは、一つ五分で食べるらしい。それを超えることを裏目標にしているらしい彼女は、ちゃんとしょっぱい口直しのグラタンパイまで用意があるそうだ。可愛らしいにもほどがある。ていうか、給食食べてらっしゃって、こんなにオシャレだけど小学生って可能性すら浮上している。

おそらく給食が出るタイプの中学校なんだろうと思う。彼女たちが結局いくつ食べられたのかはわからない。私の方が待ち合わせのために席を変えてしまったから。でも遠くから眺めている限り、ゆきちゃんに追いついたとは到底思えないスピードだった。本人たちは残念だったかもしれない。でもアラサーが横から聞いている限り、とても幸福な食べ放題だったと思う。これがちょっとした非日常のお出かけだなんて、中学生っていいな。

そう言えば昔は、ディズニーランドなんていったら今の海外旅行くらい大ごとだった。計画するだけでわくわくして、いつも乗らない電車に乗って、自分の街から出る。彼女たちのスマホやSNSが普及した学生生活にも、そういったお出かけの密度や純度が変わらずに存在すればいいなあ。

さて、そろそろ私も次の予定が近づいている。昔なら帰り際にもお土産を二つほど選んでいたのだろうが、私の胃袋はずいぶんと重たくなってしまった。この調子では夜ご飯すらいらないだろう。

若いスイーツ好きの諸君、スイーツの食べ放題は学生のうちに行きまくってください。(多少お金が入れるようになれば、それがアフタヌーンティーで大満足になる身体に変わっていくから。)彼女たちの早口の会話と食べっぷりは、リモートワークで篭りがちな私に活力を与えてくれた。自分の聖地巡りのようでもあって、きっとあの頃の自分も応援してくれているに違いない。

また明日から頑張りましょう。あー、ポンデリングおいしかった!ご馳走様でした。

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mayu
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