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Maniac Love

その頃、ぼくは離婚したばかりでやさぐれていた。そんなぼくの状態を察してかどうか悪友二人が夜遊びに誘ってくれたのだった。青山にあるクラブに踊りに行こうと言うので車で二人をピックしてから向かった。

9周年アニバーサリーというなんとも中途半端なイベントなのにメチャクチャ混んでいた。客同士が密着してもぞもぞもがいていて、到底踊っていると言えるような状態じゃないのだが、みんな楽しそうだった。ぼくは人酔いして気持ち悪くなってしまい、友達二人ともはぐれて壁に寄りかかり休んでいた。

ほとんど寝ているような状態だったぼくにいわゆるハイヤーセルフみたいなの?がつんつんと突っついた。

ふと我に帰ると、フロアの反対側から誰かがまっすぐぼくの方に向かってくるのが目に入った。どうしてそんな超満員のクラブでそれがわかるかというと、「モーゼの十戒」みたいに人混みがパカーンと割れてくるのが見えたからだ。

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段々とその影が近づいて来るに連れて、全貌が見えてきた。それはこんな奴だったのだ。

ドラァグクィーン


いわゆるドラッグクイーンって人ですね。彼女って言うか彼がぼくの目の前まで寄ってきて顎を支えて顔を上向かせたわけです。
そして、

「大丈夫?」

なんて言いながら思いっきりベロチューです。ぼくはヘロヘロでレイプされても抵抗できないぐらいだったのでなすがままでそのまま沈没しました。完全に一発KO、心の中のセコンドが即タオルを投げ、試合終了のゴングが頭の中で鳴り響いていました。

意識を取り戻すと、友達を置き去りにして一目散に車を走らせました。途中、仲の良い女の子に電話して顛末を話して笑わせ、少し元をとりました。別れた嫁にも電話で話すと、「今からおいでよ、みんなで飲んでるから」と慰めてくれました。ぼくは「行けないよ」と言って、明け方の高速を走りながら声をあげて泣き続けました。情緒不安定だったところにそんなことされて普段ならなんでもないんですけど、もうダムが決壊したみたいになっちゃったわけです。

高速の料金所でおっさんが「兄ちゃん、大丈夫か?」みたいな感じで気遣ってくれたのが印象に残っています。

そのクラブの名前がManiac Love。

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