当日パンフレット
劇団無国籍×三角フラスコ合同公演『ほの暗いお仕事』『暗がりにほうる』
無事に全ステージを終えることができました。
ご来場いただき、誠にありがとうございました。
デジタル記録として、当日パンフレットの文章を公開いたします。
ご挨拶
能登半島地震により被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。
この数ヶ月、概ね月1の頻度で僕は、生田さんとのミーティングを重ねた。
ミーティングと言っても、主には世間話や互いの家庭の由無し事で、作品についても話してはいたが、僕はとにかく笑いをとりたくてオチのある話(あるいはオチを捏造してまで)を必死で繰り出していた。
コロナ禍の3年ほど、演劇に関することが何もできなかった僕は、生田さんという演劇人とお話できるこの状況に酔い痴れた。
そのうち僕はミーティング以外でも生田さんに会いたくなり、度々お宅へも伺うようになった。お宅にはもう一人、夫の鰯くんという演劇人がいらっしゃる 。この家が、探し求めていた僕の居場所であるとすぐにわかった。演劇人として再起するには、この家に溢れる演劇的思考を全身に浴びることが必要だったのだ。何を隠そう、今回の脚本が書き上がったのは、生田さんちである。生田さんちのお蔭なのである。そして僕は、生田さんと鰯くんの美味しい料理をご馳走になりつつ、時にはお子さんたちの遊び相手になり、熱を出せば僕も一緒に熱を出し、すっかり家族の一員として迎えられたと自負している。
合同公演が終わっても、僕は生田さんちの大きめの長男として生きていくつもりでいたが、僕が自宅に戻っていないことに気づいた国久に連れ戻され、今は国久んちの押し入れに監禁されているところです。誰かたすけて。
コロナ禍を経て、手に手を取って復活する二つの劇団の離陸滑走、とくとご覧ください。
この公演に関わる全ての皆様に感謝いたします。
無国籍 益岡礼智
益岡さんとの打ち合わせは楽しい。私たちはたくさん喋る。最近気になっていること、日々のささやかな出来事から、自分のルーツに繋がる家系図の話まで。遠回りを攻めていく。作品の話は全体の1割くらいかしら。「どう?」が言えずに1時間。「進んだ?」と聞かれるのを恐れて1時間。私たちが劇団を旗揚げしたころの、仙台の演劇界の昔話をまた1時間。3時間くらい喋って、益岡さんに「あのこれ」と脚本の書き出し部分を差し出される。しまった気を遣わせてしまった!益岡さんすごいよ!進んでるのに、そんな申し訳なさそうな顔をしないで。
打ち合わせを終えた私は、ふと、どうしても、川原で石を探したくなりその足で行ってみる。石についてはなにも詳しくないし、目指す川原も若いころに芋煮会をした以来だ。ただ、今、すごく惹かれて「今回はこれだ」と焦りにも似た高揚感に襲われる。益岡さんありがとう。いったいなにが、どこでどう結びついているかなんて、本人たちにもわからない。川原に降り立てば足裏が喜ぶ。ごろごろ、ごつごつしている。ぐらぐらしている。明日の筋肉痛は必至だ。泥で景色の全体がしらっぱしい(白っぽい)。でもよく見ると、色々な種類の石であることがわかる。この日からしばらく、暇を見つけて川原に通うようになるが、石の観察イコール脚本を書いているつもりである。私の周囲の人が理解のある人たちでよかった。石ばかり探してないでさっさと書きなさいよなんて言われていたら、きっとこの作品は生まれていなかっただろう。
私にとって書くことは孤独を煮詰めていくような作業だ。なのだけど、隣の部屋で、益岡さんも同じように鍋をぐつぐつとやっているかと思うと面白い。私は命綱の反対側を勝手に益岡さんに括りつけ意識の底に潜り込む。お互いに背中を預け合って、自分たちの歩む道を見つめる。
趣を異にする二つの劇団ですが、同時にお召し上がりいただくとより美味しい仕様になっております。お楽しみいただければ幸いです。
無事公演が迎えられますことを全ての皆様に感謝いたします。
三角フラスコ 生田恵