<3>人類の進歩の正体 〜なぜ自由とリベラルは逆転しつつあるのか〜
世界に激震をもたらした「アメリカのアフガン撤退」をヒントに、「自由とリベラル」に何が起きているのかを解き明かすシリーズも、いよいよ3回めとなりました。
<第1回>
<第2回>
そしていよいよ3回目の今回では、
「なぜこれまで歴史的・文化的に自由やリベラルが発展してきたのに、これから逆転現象が起きるのか」
という謎を解き明かしてみたいと思います。
最初の記事からお話しているように、「自由やリベラルであるほうが得だよね」ということは、あくまでも紳士協定ではあるものの、有益な結論です。
そりゃあ、どんな個人であれ、あるいは国家であれ「殺し合い、奪い合う」よりかは、「互いの命を尊重する」ほうが、得策なのは目に見えているのですが、そこに至るまでは紆余曲折・歴史の積み重ねがあってこそ、ということになります。
ですから、「先進国」のほうが、戦国時代を経験したり、あるいは世界大戦を経験したりした回数が多いので、「自由とリベラル、人権を設定しよう」という気持ちになる成熟度はたしかに上であり、そうではない後進国・途上国ではまだ「戦国時代(私的な利害による殺し合い)」が続いているとも言えます。
日本の場合は、戦国時代 → 天下統一 → 国家転覆(維新)→ 大陸進出 → 大敗戦 → アメリカ統治 という経験を持って、やっとこさ
「自由主義陣営でいるほうが、まあ得策らしい」
ということに気づきましたが、それでも「あさま山荘事件」くらいまでは、いろいろくすぶっていたわけで、なかなか市民や国家というのは成熟しないものなんですね。
アフガニスタンの現状は、日本で言えば「戦国時代」くらいでしょう。まだまだ国家の利益、市民の権利よりも「部族社会の私利私欲」が優先されるので、アメリカ軍の統治や支援は通じなかったようです。
ところで中国においても、市場経済、資本主義的経済が導入されて、ご承知のような経済発展を遂げることができました。まあ、中国の場合は政治思想と経済思想がちょっとズレているので、単純に説明することは難しいのですが、どんな中国人であれ
「金を自由をゲットできることは素晴らしい」
と思っていることは確かだと思います。その意味では「経済的にはリベラル」と呼べる現状が出来ていることと思われます。
しかし、ここに来て中国でも逆転と思える現象が起きていて、中国政府が、かなり経済的に成功している企業に「制限」を加えているニュースが目立ちます。
アリババのジャック・マーを追い落としたり、滴滴を締め付けたり、経済的には逆行と呼べる現象が起きています。
せっかく育った「金の成る木」であっても、中国政府は「つぶす」方向を選んでいるように見えるからです。
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さて、ではここからが解答編です。人類の進歩の方向性は「自由とリベラル」であり「自由な金稼ぎ」であるはずなのに、なぜ逆転・逆行と思える事象が頻発するのか。
そこに人類が抱える、基本的な問題が横たわっているというお話です。
まず、人類は「動物」です。当たり前ですが、他の生物とおなじく、「動物」としてのハードウエアを身にまとっています。
ところが、人類は他の動物とは異なり、高度な文明を築き上げました。これは、何が起きたかというと、特に「人間の脳」は高度に発展して、「新しい脳」(大脳辺縁系)の部分で「知恵」を発展させたことが勝因と思われています。
脳には大別して2つの領域があり、「古い脳」と「新しい脳」があります。古い脳は動物脳で、本能的な部分や感情・感覚を司ります。それに対して新しい脳は、抽象的でクリエイティブなことを司ります。
つまり、人間は、「動物という体・ハードウエアの上に」「新しい脳と知恵というOS(オペレーティングシステム)が乗っている」生き物なのです。
さて、みなさんが知っているだけでコンピュータのOSには「ウインドウズ」とか「マック」「アンドロイド」など、いろんな種類があることはご存知と思います。
そして、それらは頻繁にバージョンアップされて、機能がアップして更新されることもご存知でしょう。
しかし同時に、ハードウエアのほうは、物理的な限界があるので、パーツを追加するくらいしか機能アップの方法はありません。CPUやメモリが古いままで、新しいOSに対応できないなんてことはパソコンやスマホの世界では常識ですね。
人類もこれと同じで、「原始時代からあまり変わっていないヒトというハードウエア」の上に「知能と文化というOS・ソフトウエア」が乗っかっているいるわけです。
そして、コンピュータと同様、「ソフトウエアでできる部分については、かなり頻繁にバージョンアップがなされている」のが人類の文化です。
先進国においては、OSやソフトのアップデートが、かなり進んでいます。イギリスの産業革命以来、技術を使いこなすことを覚えました。フランス革命以来、民主主義がインストールされました。ニーチェではないですが「神を乗り越える」ことも身につけたし、米ソは「科学の発展」に突き進み、原子を操ったり、月へ行ったりすることにも成功しました。
知恵というOSを使って、科学・文化的にアップデートできるところはどこまででもやる、というのが人類の長所です。
その上で「科学や技術に基づいて、経済社会を発展させ、自由とリベラルを尊重して、できるかぎり多くの人の幸せを探す」というのが、いわゆる先進国の共通目標になってきたことは、ご存知の通りだと思います。
ところがよく言われるように、人間の肉体は、今のホモサピエンスになってからあんまり進化していません。なので、肉体の方(古い脳)で考えることと、新しい脳で考えることには、今ではかなりズレがあるのです。
そのわかりやすい例が「男女平等」です。新しい脳が文化的に導き出した結論は、もちろん”男女は平等であるほうがいい”という自由とリベラリズムに準じた発想ですが、しかし実際には古い肉体の方は、全然違います。
「生理も出産も女性にのみあり、男性にはない」
という肉体なので、かならずその部分でズレが生じます。
新しい脳が導き出した理想像と、現実の肉体が違うので、「男女がおなじ形で社会進出すると、出産が減少する」ということが起きたり、「出産を増やすための政策を重視すると、格差が生じる」なんてことが起きます。
(男女とも出産できるように、肉体アップデートできていればよかったのにね)
新しい脳は「原子力の活用」を思いついたけれど、「古い肉体」は「排出されつづける放射線にやられてしまう」ので、「核のゴミ」をどうしていいかわからない、なんかも同じ現象です。
(人間が核に耐えられるように、肉体アップデートできていればよかったのです)
新しい脳は、「どんどん製品を製造して豊かな暮らしをしたい」と考えたけれど、「増える二酸化炭素とそのために変化する環境に肉体は耐えられない」というのも同じです。
(人間が災害に耐えられるボディ・温暖化に耐えられる肉体にアップデートできていればよかったのです。)
このように、現代の社会問題、世界問題の大半は「新しい脳が創り出した理想社会」に対して、「古い肉体や感情が追いついていない」ことが原因であると思われます。
この脳が創り出した理想社会は、そもそも幻想かもしれません。だって、肉体が追いついていないのに、アタマの中だけで「なんとかなる」と判断しただけのものですから、そのために「人権」のような、撃たれたら無意味なよくわからない権利を生み出してしまったりするわけですね。
さて、先進国と呼ばれる国々では、「新しい脳が生み出したモノ」がすでにたくさん蓄積されています。後進国では、それらは「自分で新しい脳をバージョンアップさせて創り出した」わけではありません。
たいていの場合、後進国には「先進国から与えられた文明の利器」が外から流入しています。(アフリカでは電気も通っていないのに、スマホを誰でも所有しているなんてのはその典型ですね)
そうすると、後進国では、新しい脳が自力でバージョンアップしておらず、古い脳、感情的な脳が中心なのに、持っているモノは先進国の利器だったりすることが起きます。
これで一番やってはいけないことは、「武器」が渡ってしまうことです。
さあ、なんとなく話が見えてきたのではないでしょうか?アメリカやソ連などの先進国が、どこで間違えたのか。
そう!歴史的に、そうした大国は「肉体的な感情脳」が優先されている人たちに銃やミサイルを渡してしまったわけです。
とすると、彼らは「感情を優先した状態」でその火器を用います。なので、「高度に発展した国家の成立」のためではなく「部族の抗争」のために銃を用いたりするわけです。
さて、ここでしっかり説明しておかないといけないのは、私がたとえば「後進国の人たちは動物脳だ」と差別的な説明をしているわけではないということです。
まったく違います。私たち先進国人ですら、ベースは感情脳・動物脳で動いているし、肉体はそもそも完全に古い肉体ですから、まったく同じ条件です。私たちですら「動物脳」なのです。
あなたが原子力発電所に勤めているとして、大地震がやってきました。「新しい脳」は知恵があり、知識もあるので、
「やばい、このままでは原子炉がめちゃくちゃになる!」
とわかっています。そのために、圧力弁を操作して、ベント(圧力を排出)しなくてはなりません。
しかし、ベントすれば、放射能を含んだ炉内の空気が外へ出ます。放射能をまき散らすことにもなるのもわかっています。
さあ、どうしますか?
・・・ここで、あなたも私も迷います。絶対迷います。それは、私たちが動物脳・感情脳で動いているからです。
もし、古い脳まで新しくアップデートされている人間なら、瞬時にベントするでしょう。
「放射能が漏れても、爆発するよりマシ」
であることは科学的に明らかだからです。
しかし、たとえば上司に
「おまえ!その操作をして、外に放射能が出たら、責任取れるのか!」
と怒鳴られたら、100人いれば100人が躊躇するでしょう。その次の瞬間に原子炉は爆発するわけですが。
だから、先進国の人間であっても「動物脳・感情脳」には支配されているのです。後進国の人たちとまったく同じです。
その最も良い例が「新型コロナウイルス」での日本人の対応です。
「マスクをしないで出歩く」
「ワクチンを拒否する」
「会食や集いを行ってしまう」
のは、科学的な予想や判断よりも
”感情・感覚”
を優先してしまう人たちが、たぶん半分くらいいる、という事実なのです。
結論から言えば、私たちは動物脳・感情脳に支配されているのですが、「科学の発展や知識の蓄積」という”外側の新しい脳”が持っている力で、それを抑え込んだりコントロールしているのが現実です。
しかし、国家や組織であっても、感情脳が優先される場合が多々あります。
オリンピックを実行してしまったり、甲子園を開催してしまったりします。
古い教えや伝統に基づいた支配のほうが望ましいと思ったり、IT企業が勝手に成長するのは、党にとってアブナイ・許せないことだと思ってしまったりするのです。
平和が大好きな日本人の私たちであっても、どこかの沿岸部にでもミサイルを打ち込まれたら、「あいつらぶっ殺してやる」とすぐに古い脳が全開になることは目に見えています。
「古い脳、動物の感情、動物的肉体」と「新しい脳、科学技術と文化」が常にせめぎあっている。できるなら新しい脳を優先させたいと思っているが、実は古いハードウエアから逃れられない。
人類はそういう存在なのです。
いくら科学や文化文明が発達しても「人は感情には勝てない」のが限界なのです。
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