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「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」を読む (詳細版)


2022年12月27日 厚生労働省発表の「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」詳細版を読み込んでゆきます。


<概要>

https://www.mhlw.go.jp/content/221227_01.pdf

<Q&A>
https://www.mhlw.go.jp/content/221227_02.pdf


<都道府県・市町村への通知>
https://www.mhlw.go.jp/content/221227_03.pdf


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■ 問1−1 児童虐待に当たるかは宗教関係かどうかで違いがあるのか

→ 信仰上のものであっても他の「児童虐待」に該当する状況であれば、一時保護等を含めて対応すべき。児童の権利条約に基づき「児童の思想・良心・信教の自由」を尊重するが「本人の自由意志で親の宗教を信じているかは限らない」ことをふまえる。

→ 児童虐待に該当する行為が疑われたら対応。機械的にあてはめず、状況を勘案すること。

(信仰上の如何に問わず、虐待に該当するものは拾い上げるというスタンスが見て取れる。本人の自由意志ではない可能性に言及しているのがポイント)


■ 問1−2 宗教関係者から保護者が支持等されて虐待を行っている場合は?

→ 虐待行為が刑法に触れる場合、共同正犯・幇助など、同罪扱いでみてゆく。児童相談所は躊躇なく警察に告発せよ。

(虐待を刑法犯罪とみなして、警察につなげること。その場合宗教と保護者はほぼ同罪扱い)



■ 問2−1 体罰による宗教活動への強制は虐待か?

→ 身体に外傷が生じるあるいは体罰は誰がなんと言おうと身体的虐待。参加の強制も許されない。

■ 問2−2 宗教行事参加時における体罰は虐待か?

→ 叩く、ムチで打つなど、全部虐待。

■ 問2−3 宗教活動にかかわり長時間に渡る特定の動きの強要、深夜までの参加は虐待か?

→ 当然。また、就学に支障が出るもの、発育に影響があるもの、養育に不適切なものはネグレクトに相当する。

(エホバの証人における”鞭”などはもとより、集会参加の時間帯なども虐待に相当する可能性が出てきた。子どもの健全な発育を妨げるものはネグレクトと定義)


■ 問3−1 布教活動への参加強制、叱責や霊感的な言葉での脅し、恐怖の刷り込みは虐待か?逆に消極的であることで当人を拒絶するような姿勢についてはどうか。

→ 地獄に落ちる、滅ぼされるなどの言葉、映像、資料。無視や嫌がらせなどによって、進路選択の自由を奪うなどは心理的虐待もしくはネグレクト。

■ 問3−2 宗教を信仰しない友達との交友を禁じたり、結婚などの制限、誕生日などの一般的行事への参加を禁じるなどは虐待か?

→ 社会通念上一般的と思われる交友を制限したり、社会性を損なうような行為はネグレクト。宗教外の人を「敵」「サタン」と呼ぶなど恐怖心を与えることも虐待。

■ 問3−3 アニメ・漫画・ゲームなどを禁止する行為は虐待か?あるいは宗教団体が認めたもの以外に触れさせないことは?

→ 娯楽などに寄り過ぎないように制限することが直接アウトではないが、社会通念上子どもの年齢に相応と認められるものなどを一律に禁止する行為は心理的虐待である。
 教育上の配慮として合理的でなければ、たとえ信仰上の理由であっても自由意志を損ねる行為として心理的虐待に相当する。

(終末思想に関わる教義を持つ教団にとっては、教義の内容にまで踏み込んだ攻めた指針となっている。たとえそうした教えがあっても、子どもの自由意志が尊重される、というスタンスをはっきりさせた内容。
 社会通念上という考え方は一般社会ではごく自然だが、一部の宗教にとっては、自分たち以外は悪である、とみなしており、対立構造にある。その場合でも子どもに寄り添った内容となっており、評価できる)


■ 問3−4 該当宗教を信仰している旨を他者の前で告白・証言させる行為は?

→ 信仰していないにもかかわらず宣言させる行為や、他人に知られたくないのに他者に明らかにさせる行為は心理的虐待。特定のグッズを身に着けさせるなどもアウト。

(この部分は、宗教によっては「自らの意思でそうしている」と言うようにそそのかされる、そそのかされている場合があるので、注意が必要。特に、親がそばにいる場合は、「本当は嫌だ」とは言いづらいだろう。保護や対面時にかなり配慮が必要と思われる)


■ 問3−5 布教活動に参加させられることは児童虐待もしくは児童労働か?

→ 布教活動に参加させるために暴行するなどは警察案件で一発アウト。宗教上の奉仕の位置づけで労働活動に当たる行為を行っている場合は、個々の事情を勘案する。労働に該当する場合は、児童相談所・警察・労基署の連携によって対応。

(労働に該当するか等は、グレー扱いな印象。この部分については、今回はあまり強く踏み込んでいないが、個々の事例が上がってくれば今後発展するかもしれない)


■ 問4ー1 社会正当性を逸脱する教義を有する宗教に強制的に入信させるような行為は虐待か?

→ 宗教行為の強制、社会的相等性を逸脱する行動の強制は虐待であり、そうした状況を防止するように保護者が動かないことはネグレクト。

■ 問4ー2 宗教上の寄付等の金銭の使い込みで、家庭や養育環境に不備が生じ、衣類や食事が提供されない、登校や進学など教育機会に支障がある場合は虐待か?

→ すべてネグレクト。上級学校への進学を希望しており、合理的な理由なく宗教等の教義を理由として認めない行為は、ネグレクトもしくは心理的虐待。子どもの自立を損ね、心情を傷つける行為

 子どもの保護者に対する扶養請求権の保全と、いわゆる被害者救済新法における取消権などを行使する場合、本来なら子どもの保護者が訴えを起こす形が旧来だが、子ども本人が訴えの意思を持てば弁護士や特別代理人が代行できるシステムを構築している。

(従来の考え方では成人しない子どもの管理監督権は保護者にあり、訴訟を起こす場合も保護者が代理人として機能した。しかし、宗教虐待に関しては、子どもの意思に基づき、特別代理人や弁護士がバックにつくことで、保護者に対しての権利の行使を訴える形が実現している)


■ 問4ー3 信仰によって上級学校への進学を認めないことは?

→ 前項同様。大学進学に必要な「保護者の同意書」へのサインを拒否するなどについても心理的虐待に当たる可能性。
 「地獄に落ちる」「世界は破滅するので進学は無駄」などの言説も心理的虐待。

(これも教義の内容にまで言及した攻めた指針である。いわゆるエホバの証人における終末思想「ハルマゲドン」を(その教義自体を否定していないが)用いて子どもの進路、生活・行動を制限しようとすることは心理的虐待と定義した)


■ 問4ー4 子どもがアルバイト等で得た収入を吸い上げることはどうか?

→ アルバイト収入、貸与された奨学金などを「子どもの将来につながらない」目的に消費することは心理的虐待であり、子どもの財産を侵害した不法行為。無断で親が子どもの財産を寄付した場合は「直接損害賠償」を請求できる。

(いわゆる救済新法では、お金の面に対して手厚い方策が講じられているが、この項はそれに関わるもの。逆に言えば救済新法ではお金の事しか手当てできなかったので、補完的に当ガイドラインが整備された経緯がある)


■ 問4ー5 信仰上の理由で治療や輸血を受けさせないことはどうか?

→ 理由の如何に関わらず、適切な医療を受けさせないことはネグレクト。子どもに対して輸血拒否カードをもたせることすらアウト。
 必要に応じて一時保護や親権停止も。

(従来は「信仰の自由」を盾に輸血拒否は一定の理解を求められる状況だったが、少なくとも子どもに関してはその枠組みから脱出させている。大人は信仰の自由により、輸血拒否しても構わないが、子どもはそれを強制されるものではない、という一種の切り分けが行われている)


■ 問4ー6 信仰上の理由で子どもが学校行事等に参加できないことについては児童虐待か?

→ 子ども本人が希望しているにも関わらず、また子どもの養育、教育機会の確保を考慮せず制限することは、心理的虐待やネグレクト

(この部分は学校現場実務で真っ先に該当児童生徒の宗教環境が明らかになる部分で、文言は平易だが実務上は課題が多い。「先生、僕は校歌を歌えません」と教師が言われた瞬間に、虐待事例への初動が発動するからである。初動以降の動き、連携が想定されていないと、現場は狼狽するだろう)


■ 問4ー7 奉仕活動や宣教活動、修練会やセミナーなどを背景として、子どもの養育がおろそかになることは児童虐待か?

→ 宗教団体が「そうしなさい」と命令したり推奨したりしたとしても、保護者本人によるネグレクトに当たる。

(これも文言は平易だが、実はかなりキツいことを言っている。宗教や教団がそう指導していても、直接的には保護者の責任だ、ということと。奉仕活動や会への参加について子どもを参加させることや、それによって子どもをほったらかしにすることなどをネグレクトであると牽制している)


 ■ 問4ー8 進路の強制について

→ 既に述べた回答と類似するが、進学や就職を教義によって、あるいは「地獄に落ちる」などの脅しで制限することなどは、すべて心理的虐待。


■ 問4ー9 宗教施設や内外での行事において子どもへの暴力・威圧などが行われているにも関わらず、保護者が特段の手当てを講じない場合は児童虐待か?

→ そうした行為を知りながら、子どもの安全を図る対応を怠った場合はネグレクト

■ 問4ー10 なんらかの被害で妊娠した子どもが、中絶を希望しているにも関わらず教義を理由として保護者が同意しないことはどうか?

→ 当人が中絶を明確に希望しており、あるいは母胎の健康に関わるものであるのに保護者が同意しないことはネグレクトに当たる。
 親権停止・保全などの措置も含めて対応すること

(中絶問題に触れたことは、日本政府としてのスタンスを明確にしたことと受け止める。実際にこの問題はアメリカ国内を二分する議論になっていて、キリスト教の考え方において「中絶を許さない」という考え方が一定の賛同を得ているからである。国内ではそうした分断は起きていないが、だからこそ宗教教義を理由としてのこの問題に、今触れておくとの意味は大きい)



■ 問5ー1 宗教の教義に関わり、性的な表現を含んだ資料や説明・指導は児童虐待か?

→ セックス、マスターベーションなど性的表現を含んだ資料・映像・説明などはすべて性的虐待に相当する。

■ 問5ー2 宗教活動において団体の関係者に性体験について話すことを強制するのはどうか?

→ 子どもが自身の性に関する経験を他者に開示することを強制する行為は性的虐待に相当する。またそれに対して防止手段を取らないこともアウト。

(エホバの証人の内部では、マスターベーションの禁止や、性交に関する非推奨事項などの教義伝達のため、よく性的な話が登場する。あるいは教義に反したかどうかの審議のために、長老(グループの長)らに対して、性的体験を告白する場合があるが、そうした行為を禁じたもの)


■ 問6ー1 宗教事案として注意すべきことは何か?

→ 宗教は子どもの心の内部にまで入り込んでいることがあり、「教義に基づく考えや価値観の影響を受けている」ことから、自分の置かれている状況を把握できていない場合がある。
 児童虐待の定義、当てはまる場合などは当ガイドラインで一定の明示をしているので、本人や保護者に説明・指導を行うことが必要。
 改善が期待できない場合、教団からの圧力が想定される場合などは、躊躇なく一時保護。

(子ども本人の意思に基づく行為なのか、あるいは本当は宗教活動を望まないのか、など自立できていない子どもの場合、意思を明確に自覚するのが難しい場合が多い。そのためにも「児童虐待」の定義に基づいて、該当行為への対処をしてゆくという考え方も重要)


■ 問6ー2 児童虐待に当たる行為はないが、保護者の行為や子ども本人がそれらに強い不安を抱いている場合はどうしたらよいか。

→ 子ども本人からの相談に対してはどのような理由でも丁寧に聞き取る。家庭からの分離に対しても、状況を確認の上一時保護。
 親との接触で子どもに危害が生じることも懸念し、保護の解除などには十分に調査等配慮されたし。

(宗教2世当事者の実例として、実際に親元から脱出を試みた例、警察などに相談した例を多数見聞きする。そうした場合にこれまではほぼ門前払いされていたことを考えると、大きな進歩であると評価する)


■ 問6ー3 児童相談所に対しての、18歳以上の者からの相談についてはどうか?

→ 家庭からの分離を前提に支援する場合、児童相談所・自立援助ホームなどの紹介等、対処する。18歳以上であることを理由に消極的な対応はしない。法テラス・福祉事務所など関係機関へつなぐ。

(よく文面を読み込むとわかるが、「18歳以上の者が児童相談所にやってきた場合は?」となっている。つまり、自分の意思で、どこかに相談するという動きがなければ、自動的に事例を拾ってもらえるわけではない。なぜなら18歳以上であれば、前提として自らの意思で宗教活動を行っているもの、と大きな枠組みでは規定されてしまうからだろう。
 しかし実際には、18歳未満の時から、多大な宗教的影響を受けて当人の生活や行動が成立しているのだから、特段の配慮が必要と思われる)



■ 問6ー4 ひとつひとつの行為の影響が軽微である場合は?

→ 宗教等に関係なく、児童虐待に相当するかは総合的に判断すべき。一つ一つが軽微であっても、総合的に「虐待に該当する」ことも十分あり得る。


■ 問6ー5 公的支援として想定されるものは?

 → 支援機関について、略 一覧はQ&A原本に記載。


 ■ 問7ー1 養子縁組の先で、子どもが宗教における児童虐待に遭っている場合はどうするのか?

→ 養子であろうが、実子であろうが、児童虐待への対応は同じ。

 ■ 問7ー2 里親等の場合は?

→ 里親・ファミリーホーム・児童擁護施設等を含めて、社会的養護の観点から公的責任で保護養育するものであるから、指導、助言、相談を含めて、連携すること。


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<総合的な評価>

 次回、別途記事にて詳述します。


(つづく)





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