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パズルと「動き」

この記事はペンシルパズルI Advent Calendar 2020十二日目の記事です

まだ深夜29時なのでセーフだと思いたい。

 アドベントカレンダーで何か自分だからこそ文章にできるものはないかなぁと色々考えたものの、手筋などはwikiの見やすい場所にしっかりまとめたい上に既に知ってるものは殆ど書いてしまっている・・・  だったら何か人に見せるにしても書く場所に悩むテーマを、ということで自分がパズルを解く/作るの両方で意識している「動き」についてあれこれ書いてみよう、という思い付きの記事です。(もっと言えばパズル以外の様々な場面でも常に使っている考え方だったりしますが。)


「動き」と「展開」​

 ここで私の言う「動き」がどんな単語に一番近いか、理解しやすいか、というと難しいですが、「展開」が一番近いと思います。ただし、私の思う「展開」という言葉はパズル自体に主眼が置かれており、実際にそれを解く人がどのように感じるか、ということからは少し遠い言葉であるため、ここで言う「動き」とは別物です。私の考え方としては「パズルがどのような順番で、どのような考えで解けるか」ということが「展開」だと思っていますが、それは作者と解き手で一致するとは限りません。ここでいう「動き」は「パズルのルールによる盤面の決まり方」よりも「ある一個人がどのように目の前のパズルの盤面に向き合うか」に主眼を置いた言葉になります。

 「展開」という言葉が本当に解き手の感じ方からは遠いものか?ということを考えるのであれば、入口が見えないパズル、作者にしか解き方が見えないパズル、というものをイメージするのがよい気がします。ネットの海にはそういったわけのわからないものが大量に転がっているので伝わる気がしますが、これらのうち多くは作者であれば  解き方の流れ=展開  が見えているはずです(作者にすらよくわからない闇ももちろんあります)。しかし、その展開が解き手にも見えるものとは限りません。場合によっては解き手が想定と全く違う解き方をすることもあるでしょう。ある解き手が「このパズルの展開はよかった」といった時、その「展開」は自分から見たそのパズルの決まり方に対しての発言で、極端な言い方ですが作者の想定と一致しているかは気にせず、勝手にそのパズルを規定しているようにすら感じます。(もしそうでない方、「自分は自分個人の解いた感覚に対して展開という言葉を使っているぞ!」という方がいればここではすみませんとしか言えないですが・・・) 

 誰から見ても解き方、展開の捉え方が一致しそうなパズル、というのはもちろんあって、例えばこちらのらくらくぬりみさきは恐らく誰が解いてもほぼ同じ順番で解かれる気がします。一方でこちらのおてごろか怪しいぬりみさきは人によって埋める順番はかなり違う気がします。難易度が上がる/盤面が大きくなる/そもそもルールや解き方になじみがない、など様々な要因がありますが、不確定要素が増えると、人によって「展開」という言葉を使えば少しずつずれていくものではないでしょうか?人によってずれた見方をしているのに同じものを見ているような想定をしていないでしょうか?


 そんなことを考えた経緯があるので、この記事では

パズルの盤面と一人の解き手の相互作用 = パズルの盤面がその解き手に何を見せて、見えたものに対してその解き手は何を感じるのか、何を考えるのか、どのように盤面を埋めるのか

といったことをまとめて「動き」と呼び、「展開」とは分けて考えます。

 なおこの先では今書いた要素以外にも様々なものをまとめて「動き」と呼ぶせいでかなりゴチャゴチャして見える可能性しかありません。読者が色々察してくれることを期待します。

多様な「動き」の具体例

 とはいえこのままでは「結局動きって何?」となってしまうので例を出していきます。

 下の図の線を見て、どちらの線に「動き」を感じますか?

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これだけで判断するのはちょっと難しいかもしれないですね。ただ個人的には右のほうが少しだけ動きを感じます。Aの方が形の変化が少ないのに対してBは曲がりくねっている分だけ動きを感じます。

 では下の問題二つはどちらに動きを感じますか?(どちらも数秒レベルで解ける小サイズらくらくなので安心してください)

   ナンバーリンクA          ナンバーリンクB




 解答盤面は前の図と同じはずですが、単に図を見るのとはまた少し違った感覚があるのではないでしょうか? 

 Aは盤面から答えが見えて同じ線を5回伸ばす解き方になるでしょうか。

 Bの方は壁と接している1(or 3)が遠回りして盤面の分断を避けるといった考え方で解けます。それ以外にも「Aが図と同じだからBも前に見た図と同じではないか?」と咄嗟に思いついてそれを試してうまくいったかもしれませんし、角を埋めるユニークネス手筋で解いたかもしれません。

 図だけを見た時には見た目としての形の動きだけを捉えましたが、ナンバーリンクとして解いたときには頭の中での考え方の動きも捉えることになります。そして頭の中の動きも①理詰め②閃き③手筋(ここではナンリン特有のユニークネス)と違いがあります。もっと言えばなぜその考え方に至ったか、という経緯も①②③でそれぞれ全く違うでしょう。

 もちろん違いはまだありますね。盤面を埋める際の手の動き盤面を見る目線の動きも違います。

 Aを解く際、線を長く伸ばしているので単なる図で解答盤面を見るのと比べて動きを感じたかもしれません。

 Bでユニークネスを使うなど少しずつ線を伸ばす埋め方をした場合にはAよりも動きを感じにくいかもしれません。具体的にはナンリンBで角を埋めるユニークネスで解くとこんな感じでしょうか。

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この場合、手も目線も埋めている箇所付近で小刻みに動くと思います。

 先に見ていた図と同じ形と見抜いたり、数字を線が避ける形が最初から見えて一本ずつまとめて引いた場合にはこんな感じでしょうか。

無題

この場合は数字から数字に向けて(左上1→中央1→左上2→右下2→中央3→右下3)目線が動き、手は目線よりも少しうねりのある動き、ふくらみのある動きをしていると思います。

 比べてみるとユニークネスを使った場合よりも形が見えて一本ずつ引いた場合の方が動きを感じられるのではないでしょうか。

 たったこれだけの小さく簡単なパズルの盤面を見るだけでも、人によって様々なものを感じ取って解くという、動きの幅があります。

 形・考え方・手・目線というここまでで示した動きのパターンのうち、どれが自分の好みか、ということは人によって違うでしょう。ただ、これらの動きがパズルを解く楽しさの源泉にある場合は多いのではないでしょうか?動きというよくわからない概念をわざわざ持ち出している大きな理由がここにあります。

 (結局ここで言っていることは、一個パズルを用意した時、自分の意図した通りの解き方と感じ方をさせるのは難しい、という多くの人が実感している割と当たり前の話にも通じます。)


「動き」を感じられる条件

1.ヒント配置の動きを感じる条件

下の図のヒント配置を見て、どちらの配置に「動き」を感じますか?

無題

Aの配置はランダムに近く、Bの配置は輪っかのような形に収まっています。

これだけだとあまり差はないかもしれませんが、私の場合はどちらかと言われればBに動きを感じます。

ではこちらはどうでしょうか?先ほどのBと同じ配置で矢印の向きを加えました。

無題2

Aはランダムな方向に矢印が向き、Bは輪っかの方向に沿って矢印が向いています。

こちらの場合Bに明確な「動き」を感じます(大体の人がそう感じるということにしておきます)。

 基本的に人間の感覚は物事に規則性を見出そうとし、何か規則があればそこにつながりを感じるようにできていると思います。先ほどの盤面では輪っかの配置と矢印の向きという二つのつながりがあるためにそこに動きを感じられたと言えるでしょう。

 パズル以外のもう少し分かりやすい例で言うと、例えばGoogle画像検索で「ベクトル場」と調べるとどの画像にも動きを感じられると思います。何ならパズルに持ち込みたい、持ち込めそうな見た目をしていませんか?

 そう、ナンバーリンクです。ナンバーリンクというパズルはこのベクトル場に感じるような「動き」を完成盤面や解き筋から感じられる素晴らしいパズルなので皆さんやりましょう(宣伝)。

 本題に戻ります。このようにヒント配置を線で順番に結んだときの曲率が小さかったり、内容の近しい要素が並んでいたりすると「動き」を感じられます。

 解き筋だけにしか興味がなければ見た目の動きは重要性が落ちますが、視覚的に解くペンシルパズルを好む人の多くはパズルの初期盤面の見た目も意識するのではないでしょうか。


2.解き筋の動きを感じる条件

 ヒント配置で考えた動き(≒つながり)という要素は解き筋にも同じようなことが言えるのではないでしょうか? ヒント配置ではランダムよりは関連のある要素の並びに動きを感じる、ということでした。同じようにランダムな場所が少しずつ埋まるよりは、ヒントや確定した箇所の付近から次の確定がある方が動き(≒展開)を感じる、同じ手筋の連続適用があると動きを感じられる、そういった経験はあると思います。「テーマ」という言葉で表現されることが多いですね。

 もちろん盤面の埋まる場所と手筋の両方がつながっていないと動きを感じられないということではなく、片方が同じだけでも十分つながりを感じられる場合が多いでしょう。(例題を出したいのですがいい問題が作れないのでこのあたりの内容は読者の経験による想像にお任せします。)

 また、盤面に手筋を適用するという話をしましたが、そもそも前提となる手筋の知識がなければ手筋は使えません。知識の有無だけで動きを感じられるかどうかは変わります。

 これは当たり前ですが重要なポイントなので触れておきます。


 解き筋についてはつながりだけから動きを感じるわけではありません。

 閃き、思考の飛躍があるとき、飛躍前から飛躍後の脳内の状態に大きな変化があります。この場合はつながりがなくとも大きな動きを感じられます。モヤモヤして分からない状態からパッと解法が思いつく、パズルの根底にある何かしらの理を見抜いてパズルを解く見通しが変わる、という頭の中の動きです。

(思考の飛躍に動きを感じられる理由をこじつけるとすれば、頭の中では考えている状態が連続しているお陰で大きな飛躍があっても微分係数のようなものを感じられるのかなと思います。)


パズルのルールによる盤面内の「動き」

 ※これから書く話は私が好きなパズル、橋をかけろ、ぬりみさき、ナンバーリンク、Castle Wall、最近話題になっている川へやわけなどが好きな理由そのものだったりします。そんなこんなで内容の趣味っぽい毛色が更に強くなります。


 パズルのルールによる動きとは?というのは実際の盤面での決まり方を見た方が説明しやすいので順番に図で見ていきます。

 ヤジリンなど、盤面全体で一つのループを作るループパズルでは、小ループ禁で小部屋から抜け出すように線が決まることがあります。

無題2

 囲まれたエリアに引かれる線が小ループ禁を避けて囲まれた領域から抜け出すように線が決まる、というのはよく見る形ですね。ここでは全体でループの線をつなげる原動力や決まり方を「動き」とします。オレンジ色の矢印部分のイメージです。

 ひとつながりを原動力とした動きも見てみます。

無題2

左がへやわけ、中央がぬりみさき、右が橋をかけろ、それぞれでの決まり方のイメージです。

 このように全体ひとつながりのルールがあるパズルでは、ひとつながりを原動力とする白マスや線の動き、いわばひとつながりの流れのようなものが生まれます。上に示した図では局所的な孤立回避だけを考えて決まりますが、難しい問題になると全体に複雑な流れが絡み合っていきます。

 例えば昨今話題のへやわけ(川)は小さい問題でもかなり複雑な動きが見られます。この問題では入口となる左上の7の部屋を埋めると以下のような白マスの動き/流れ/ベクトル場のようなものが盤面全体にあることが分かります。

無題2

 いずれ川へやわけについて解説がアドベントカレンダーで上がってくると思いますので具体的な川へやわけの考え方や解き方はここでは触れずにおきます。


 ひとつながりの動きを使う考え方はマス単位で確定できることもありますが、大雑把な形しか決まらないことも多いです。そこから具体的に確定マスを追っていくには、つなげ方の場合分けと先読みが必要になることもしばしば。ただ、通常は全探索をしないと決まらないような箇所でも筋の良い考え方であっさり先読みレベルで決まることが多いので強力です。

 殆ど盤面が決まっていない状態でも盤面全体でひとつながりの動きが見えて、その動きに合わせて盤面を決めていく。そんなひとつながりを感じ取る楽しさがたくさんの人に伝わるといいな、なんてことも考えつつこの記事を書いています。


パズルを作る際の「動き」の考え方・使い方

 「作意が伝わらない」「自分の感じる面白さが伝わらない」という悩みはよくあるものです。(特に難易度の高い問題では。)例えば先ほど示した川へやわけの作意と熱弁した面白さは殆どの人には伝わっていないと思います。ではなぜそうなってしまうのでしょうか?ここまで見てきた「動き」の話を踏まえて考えてみます。

 「作意や面白さが伝わらない」ということは、作者の想定した解き筋≒展開がそのパズルにあったとしても、想定した展開と同じようなパズルとの相互作用=動きは生まれていないということになります。動きのパターンや動きを感じる条件を思い出して考えると、

・完成形、解くまでの考え方、盤面を埋める手の動き、目線の動き、など動きのパターンが解き手の好みにそもそも合っていない、足りていない

・決まる場所や決まり方につながりがないために想定した動きを感じられなかった

・そもそも動きに必要な知識が解き手にない

・解くための閃き・思考の飛躍が生まれなかった(二つ目の決まり方につながりがない、という項目と中身は近い気がします。)

といったことが原因と考えられます。

 好みだけが原因であれば多少は仕方ないとは思いますが、自分の好み以外の動きも盛り込むことで改善される可能性があります。

 決まる場所や決まり方について、作問者であれば全てを見通しているためにつながりを感じるられるかもしれませんが、そのような神の視点を捨てて実際の解き手の視点ではパズルとどのような相互作用が生まれるかを考えると改善点が見えるかもしれません。

 解き手の知識不足について、ネットの環境が整っているの現代であれば知識を記事にして広めたり、問題投稿時にコメントに書くことで知識の差を埋められるかもしれません。

 閃きについては難しいですが、そもそもの飛躍の激しさを抑える=つながりのある動きに少しでも近付けることが考えられます。たとえば閃きに至るきっかけや手掛かりを盛り込むことが考えられます。


 



「動き」についてのまとめ

途中脱線気味なところもありましたが、ここまでの内容をまとめます。

・動きとはパズルの盤面と解き手と相互作用と、相互作用の結果を指す

・動きには様々なパターンがあり、その組み合わさり方がパズルの面白さに影響している。

・動きを感じるためには条件がある

・パズルを作る時に、動き=パズルと解き手の相互作用 を考えることでパズルをより解き手に伝わるものにできる


かなり長くなってしまいましたが、以上にしたいと思います。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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