『反転するエンドロール』再演記念!初演キャスト対談(前編)
映画館に併設されたカフェバー。けれどその中には、壁を隔てて二つの世界が存在する。
観客が主要な登場人物を担うという、非常に挑戦的な形態を実現するムケイチョウコクのイマーシブシアター。大好評だった『反転するエンドロール』の再演が決定した。
再演には、初演出演キャスト全員の続投が決まっている。
再演に向けて稽古の始まる前、ムケイチョウコク コアメンバーの内山智絵、『反転するエンドロール』初演時の出演者、監督役の市川真也、助監督役の生田麻里菜、カフェ店員役の手島沙樹に、全3回に渡って話を聞いた。
前編の今回は、【ムケイチョウコクのイマーシブシアターについて】。
まだまだ馴染みのない人も多い「イマーシブシアター」とはどんなものなのか、また参加した人を驚かせるムケイチョウコク作品の特色について語ってもらった。
ムケイチョウコク
イマーシブシアターを独自の目線で探求するクリエイションチーム。
2022年、美木マサオ・今井夢子・内山智絵をコアメンバーとして発足し、『OneRoom⇔dramaS―落下する記憶―』『反転するエンドロール』を
制作。発足したばかりのカンパニーにもかかわらず、
熱狂的なファンを多く獲得し、今後を注目されている。
2022年秋の『反転するエンドロール』初演は瞬く間にチケットが完売。
多くの参加者から殺到した要望に応え、2023年春の再演が決定した。
初演と同じ東中野ポレポレ坐にて上演する。
公式サイト
公式アカウント
LINEオープンチャット「ムケイチョウコク connect」にて
先行&限定情報を配信中。
初演キャスト対談(前編)【ムケイチョウコクのイマーシブシアターについて】
《イマーシブシアターって、何?》
——初演『反転するエンドロール』(以下『反転エンド』と表記)への参加以前に、イマーシブシアターってご存じでしたか?
市川:知らなかった!
手島:知ってました!
生田:知らなかったです。
手島:ここにいる知ってた人、私だけですね(笑)。『スリープ・ノー・モア』※1を観に行きたかったんですが、コロナで海外に行けない時期だったんです。でもイマーシブシアターは絶対遊びたいと思ってて、それでUSJの『ホテル・アルバート』※2に。
内山:あ、一緒に行ったね
手島:そうですそうです、あれが私のイマーシブシアター初体験でした。でもそれも2作目にはなんとか参加できたんですが、1作目には参加できなくて、「くそぉ~」ってなってたんです。
※1『スリープ・ノー・モア』:ロンドンの劇団Punchdrunkの制作した作品。ホテル一棟を使い、マクベスをベースにしたストーリーがホテルの至る所で同時多発的に進行するのを、観客が追いかけていくという上演スタイル。イマーシブシアターの草分け的作品で、現在はニューヨークと上海で上演されている。
※2『ホテル・アルバート』:USJにてハロウィンイベントとして開催された体験型ホラーアトラクション。2018年の初開催時はリピーターが殺到、連日チケット完売となり、2019年に続編として「ホテル・アルバート2~レクイエム~」が開催された。
——日本でもイマーシブシアターを上演するカンパニーが増えてきましたね。「イマーシブ」は「体験型」「没入型」と訳されることが多いですが、実際上演している形態はカンパニーによってかなり違うようですし、「イマーシブシアターって何?」って思っている方、そもそも言葉自体も知らないという方も、まだまだ多いように感じます。
生田:そうだと思います。
内山:東京だとお台場のヴィーナスフォートで、ダンスカンパニー「DAZZLE」の常設イマーシブシアターも話題になっていたけど、あれは言葉を使わずに身体表現で物語が進行していくタイプの作品で、『スリープ・ノー・モア』に近い形態だよね。言葉を喋るタイプのだと謎解きとかゲーム性の強いものもあるし、同じ「イマーシブシアター」を名乗っていても本当に色々。『ホテル・アルバート』は演劇というよりも“アトラクション”として公開されていたし。「体験型」「参加型」「没入型」と、訳される言葉によっても微妙にニュアンスが違うから、上演するカンパニーが「イマーシブ」をどう捉えているかで、かなり変わってくるんだろうなって思う。ムケチョはその中でも、“演劇たる”ことに特化してると思うんだ。
手島:うんうん。
《ムケイチョウコクのイマーシブシアター》
——ムケイチョウコクで自分がイマーシブシアターをやることになったときは、どう思われましたか?
手島:私はもともとイマーシブに近いものはやってたので、不安とかはそんなになかったんですが、「より芝居寄りのイマーシブシアターってなんぞや?」って思ってました。
生田:私は「イマーシブシアターってなんなんだろう?」って思ってました。それでずっと、ふわふわしたまま参加してましたね(笑)。
——よくわからなくても出演を決めたのには、何か理由があったんですか?
生田:この公演にお声がけいただく前から、智絵さんと夢子さんのことは何となくではありましたが存じ上げていたんです。それで、お二人がいるならきっと素敵だろうって思って。「わかんないけど行っちゃえ~」って行っちゃったら、めっちゃ楽しかったです。
——ムケチョに関わる人って「わかんないけど行っちゃえ」っていう方、多いですね。
内山:フィーリングが合う人しか誘ってないし、ご一緒した皆さんは実際にフィーリングが合ってるからありがたいです(笑)
皆:(笑)
市川:僕はマサオプション(美木マサオの主宰するパフォーマンスユニット)のメンバーなので、美木さんから「ムケチョのメンバーとイマーシブ作りたいからちょっと稽古手伝ってくれる?」って言われたんです。それが初めてイマーシブシアターを知ったとき。
内山:いっちばんさいしょの稽古だよね、ムケチョがまだムケチョとも名乗ってなかった頃。「イマーシブシアターみたいなものやりたいからとりあえず稽古してみよう」ってやってみたときの、ほんとにさいしょの一回目。2021年の終わり頃だったかな。
市川:そうそう。すんごく狭い稽古場で。智絵さんと夢子さんに会ったのもそのときが初めてでした。あのときは僕、メンバーが言ってる言葉が何もわかんなかった。
内山:あはは。そうだよね、その場で作ってたから。
市川:ムケチョの一回目の公演(『OneRoom⇔dramaS―落下する記憶―』以下『ORDS』と表記)で、僕は出演はしていないけど音楽として関わっていて、それもあってお客さん役として稽古に行ってたんです。だから僕のイマーシブシアターの観客としての初体験もムケチョだし、なんだったら僕、まだ他のイマーシブシアターどれも体験してないから、イマーシブシアターはムケイチョウコクしか知らない(笑)。
——初演を観にいらしたお客様や、再演に初めていらっしゃる方の中には、そういう方も多いと思います。私もムケイチョウコクがイマーシブシアター初体験でした。
最初は「”お客さんが登場人物になる”ってどういうこと?」「二つの世界があるって何?」と、よく分からないことだらけでした。でも結局、全貌は今も分かっていません(笑)
内山:多分ね、ちゃんとぜんぶわかっている人はまだいないと思う。
市川:あはは。
手島:そうですね、ほんと。登場人物役13役全部やって、傍観者でキャスト8人を追いかけたら、全貌が分かったってことになります?※3
内山:それすごいね(笑)。でももしそれをやったとしても、その日その日で起こっていることは全然違うだろうからなぁ。傍観者の楽しみ方には「キャストを追いかける」っていう方法もあるだろうけど、自由に観て回った足取りで見えてくる物語もそれぞれにあるから‥‥もう無限だよね。
手島:ですね(笑)
※3:『反転エンド』のチケットは二種類。
ひとつが《登場人物チケット》。作中の主要な登場人物になってその役の物語を体験する。
もうひとつが《傍観者チケット》。作中の人物たちには『見えない存在』として、黒いケープと黒いマスクをまとい、会場内を自由に観て回ることができる。
——21人の物語が同時進行している、ということに驚愕しました。
手島:しかもキャストは8人しかいない。残りの13人はお客さん。
生田:すごいよね(笑)
——でもそういえば、初めて『反転エンド』に参加したとき、そのことをすっかり忘れていました。どのお客様もその登場人物になりきっていて、後から「あれ、あの役の方ってお客さんだったの⁉」と、更に驚愕しました。
内山:登場人物チケットのお客さんは、当日その場で配役されて、キャラクターシートを渡される。そこにはその役の設定(名前、誰とどんな関係なのか、用意された小道具の説明等)が書かれてるんだけど、物語が始まってキャストや他の登場人物役との会話で更に色んな事がわかってきたり、事件が起きたりする。
——皆さん「この役を演じよう」としなくても、流れに身を任せているだけで「自然にその役になっていく」んですよね。それがムケイチョウコクの「イマーシブ《没入》の解釈」なのかなと思いました。
市川:すごいことやってるよね~。
内山:いや、それしんちゃん(市川のニックネーム)がやってるんだよ?
手島・生田:(笑いながら頷く)
《台本とも言えない台本》
——『反転エンド』の初演稽古前、キャストの皆さんには「台本とも言えない台本が配られた」って聞いています
市川:うんうん。
手島:ね、ですよね、あれはね。
——どんなことが書いてあったんですか?
市川:キャラクターシートとプロット(構成)ですね。プロットというか、シーンの流れ、みたいな。そこに夢ちゃん的に絶対やってほしいタスクが書かれてて。ただそのタスクをどういう風に辿っていけるかはわからない、夢ちゃんもわかってない状態だから、それを現場で作っていく。
手島:「どうしたらここに行けるかなぁ」って言いながらやってましたよね
市川:そうそう。「このときはそこでこの人と話してるのに、なんで今ここでこいつと喋るんかなぁ」って(笑)
内山:喋りたい話、伝えたい内容があって着席する人もいるけど、「この登場人物役が今暇しちゃってるから、このとき手が空いてるこのキャストが接待して!」みたいなタイムテーブルの使い方もあったもんね。
手島:ありましたね~。
内山:その時その場所で相応しい話題をそのキャストが考えて、その登場人物役をおもてなしするっていう…。
——そんな複雑な‥‥。
内山:よくみんなあれを読み解いてくれました。というか、よくあれから立ち上げてくれたなぁと思う(笑)。
手島:あれは形態的には、テレビのバラエティ番組とかの構成台本に似てるなって思ってて。
市川:あー。
手島:だから読み解くというよりは、なんでしょう、もうただ、読んで、更に詳しい内容は自分たちで作るんだな、みたいな感じでした。ゴールだけ決めてあれば、そこにたどり着く過程は自分たちで作るんだろうなって思ってたので、「なるほど、ふむふむ。」って思いながら読んでました。
——さすが、冷静に読んでらっしゃいますね。
手島:そうですね。なんか、へんな台本渡されること多いので、慣れちゃったって言うのはありますね(笑)。
内山:しまさき(手島のニックネーム)と私は、もともと即興芝居をつくる現場で一緒になったの。彼女は台詞を自分で考えて喋ることができる人だし、『ORDS』のテストプレイにも2回来てもらってて。
手島:お客さん役やって、智絵さんにすっごい長文の感想LINEを送り付けましたよね。
内山:がっつり芝居してくれてたので、楽しんでくれたんだろうなとは思ってたんだけど、その長文の感想来て、「ありがとう、ありがとう」ってなった(笑)
手島:「ここ、どうなんですか?」「あれ、なんですか?」っていう質問もめっちゃしてた記憶があります。何度か話した人にあのとき何が起こってたのかとか、あのときなんか意味深な感じしたんだけどとか、あのときあの場所では何かあったらしいとか。複数人の物語が同時進行していく中にいると、あんな感じになるんですね(笑)
市川:そりゃリピートしたくなるよね。
生田:ですよね。
内山:『反転エンド』で「しまさきを誘いたいんだけど」ってコアメンバーに言ったら、「あー!あの子ね、めっちゃいいね!」って反応だった。
《タイムキーパー・アリサと、裏側の死活問題》
市川:結局、『反転エンド』での表側の支配者はしまさきだったもんね。
手島:あはは。
——表というのは、壁を隔てて二つの空間がある内の、現実世界の方ですね。
市川:はい。アリサ(カフェ店員の名)の二人に、表側はほんとにおんぶにだっこだったんじゃなかろうかと。
内山:アリサがどのテーブルにいるのか、どこに行くかがきっかけで結構いろんなことが動き出すから、みかし(手島と同役の山本美佳のニックネーム)としまさきがタイムマネジメントをやってくれてた。
——なるほど。観客の目には、当然のように進んでいくように見えていたんですが、考えてみれば、タイミングがずれることだって起こりうるんですものね。
手島:はい。キャストも登場人物役のお客さんも含めて、「あれ。あの人が来ないよ⁉」とか「え、どこにいるのあの人⁉」ってことが結構起きます。
市川:あるね~あったね~。
手島:アリサのポジションが一番何やっても許される、というか、最悪失敗しても「あはは」って言っておけば何とかなる子だったので
皆:(笑)
手島:だから結果的にそうなってたところはありますね。他のキャストだと役柄的にそういうのがなかなか難しかったので。それに裏は裏で綿密に組まれてるじゃないですか。一個の事象をみんなでやることが多かったから大変そうだなと思って、個別対応が必要だなと思うと「アリサ、やりますか?」みたいな感じになってました。
——同じ空間の中でもそういうことがあるのに、更に壁を隔ててもう一つの別の世界があるから、なんと言うか…、
手島:ほんと、すごい構成ですよね。
市川:だよね。それに僕ら裏側からすると、アリサがタイムキーパーしててくれるっていうのは、結構死活問題でさ(笑)。
——死活問題、ですか?
市川:はい。裏は表側からキャストがこっちに来ることで物語が進行するんです。つまり、そのキャストが来ない限り、僕ら裏側のキャストだけでは何も生み出せない!
皆:(爆笑)
内山:「ずっと場を繋ぎ続けている」って言ってたよね。
市川:そう!場を繋ぐにしても、核心を言うこともできないし、無関係な話もできない。だってお客さんは僕らが喋っている言葉は台詞だと思ってくれてるから、「これは重要な何かかもしれない」って思わせちゃってもダメなわけで。だからもう必死!色々喋ってるように見えるだろうけど「早く来てぇ!早く来てくれぇ!」としか思ってなかった(笑)
——初演初日の前半がまさにそれだったと聞いています。
市川:そうなんですよ!「このときキャストが来なかったら、この話題までは提供しよう」みたいなことを裏チームでは決めてたんです。でも初日は、それまでの稽古で無事に来ることが普通になってたから「あれ、このとき何て言うことになってたっけ」「何で場繋ぎするんだっけ」ってなって。
内山:うんうん。
市川:それでもなんとか思い出して、ようやく場繋ぎモードになった頃に来るんですよキャストが。だから「なにこの空気」みたくなってましたね。もう笑っちゃった。
内山:本当にキャストの皆さんの力に、おんぶにだっこでございます。
——複雑な構成を、緻密に作っていく必要があったんですね。
21人の物語が同時進行していく『反転するエンドロール』。では、それを実現していくためにどんな稽古を重ねていたのか。
次回の中編は、【初演『反転するエンドロール』の稽古について】。
お楽しみに!
どなたでも無料で参加できるムケイチョウコクLINEオープンチャット「connect」では、ムケイチョウコクの創作のリアルタイムが覗けます。
3/11のチケット一般発売に先駆けて、3/4(土)〜3/6(月)23:59 connect先行のチケット抽選も!
ムケチョが気になった方は、ぜひ参加ください♪
【再演『反転するエンドロール2023』公演情報】
『反転するエンドロール』2023
構成:今井夢子
ムーブメント:美木マサオ
演出:ムケイチョウコク(美木マサオ.今井夢子.内山智絵)&all cast
【会場】
Space&Cafe ポレポレ坐(東中野駅より徒歩1分)
東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル1F
【チケット発売】
3/11(土)正午より:チケット購入はこちら
connect先行(抽選):3/4(土)〜6(月)23:59:connect参加はこちら
【チケット】
当公演にはチケットが2種類ございます。
★登場人物チケット:7,500円
あなたは物語の登場人物です。
ひとりひとりに名前が与えられ、出演者はあなたに直接話しかけてきます。
登場人物として物語の中を生きることで、あなただけのドラマを体験することができます。
★傍観者チケット:5,500円
あなたは物語の傍観者です。
目に見えない存在として空間の中を移動しながら、
登場人物たちが繰り広げる物語を、自由な視点で楽しむことができます。
※それぞれのチケットに別途ドリンク代500円がかかります。
【Cast】
AGATA(Project UZU)
生田麻里菜(キャラメルボックス)
池田レゴ(ClownCrown)
市川真也(マサオプション)
大塚由祈子(アマヤドリ)
窪田道聡(劇団5454)
小島啓寿
小林未往(合同会社flipper)
佐野功
塚越光
手島沙樹
藤田祥
村上ヨウ(豪勢堂GLove)
望月 光(疾駆猿)
山本美佳
遊佐邦博(大統領師匠)
※ 各回8名が出演
【公演日程】
4/21(金)
4/22(土)
4/26(水)
4/29(土)
5/2(火)
5/6(土)
5/11(木)
5/13(土)
各回
19:00〜19:10 登場人物チケット 受付開始
19:10〜19:20 傍観者チケット 受付開始
登場人物と傍観者それぞれの物語の楽しみ方をご案内したのち、開演となります。
終演は21:15を予定。
終演後30分程度、会場内にてドリンクを飲みながらおくつろぎいただけます。
【ステージ別出演者】
下記画像をご参照ください。