技術によるトランスフォーメンションを進めるとは

昨今、DXはデジタルよりトランスフォーメーションに重きがあるという発言がなされている。また、トランスフォーメーションの難しさについての発言もあるが、やや何をトランスフォーメーションするのか抽象度の高い議論が多いという印象である。
ここでトランスフォーメーションしなくてはならないのは、おそらく「戦略とその実践(ビジネスモデルといってもよい?)」のことだと言いたいのではないだろうか?

実は、外部環境の変化が激しい時代に競争優位をいかに維持するかについては古く(30年ぐらい前)から活発な議論がある。その一つにダイナミックケイパビリティ(dynamic capabilities)の研究がある。
ダイナミックケイパビリティについては、やや定義に混乱があるのだが、「経営環境の変化に対して資源(やケイパビリティ:ordinary capabilities)を再構築する能力」を論じた理論である。簡単に言ってしまえば、環境変化に対して競争優位が持続する企業はどのような変化をしているのか、その特徴を捉える研究である。
ここでケイパビリティとは、「ある望ましい結果を得るために、資源を配置し組織プロセスに組み合せることでもたらされる能力」のこと言うので、環境変化があると、資源の配置方法や組み合わせ方を変える必要がある。ダイナミックケイパビリティは望ましい組み合わせを変化をさせる組織プロセスとも言い換えられる。

では、ダイナミックケイパビリティはどのような組織プロセスや能力に分解されるのだろうか。ここでは多くの研究論文が参照するTeece(2007)を参照したい。
Teece(2007)によると、ダイナミックケイパビリティは、事業機会や脅威を察知する能力(sensing)、そして事業機会として捉える能力(seizing)、さらに資源や能力を再構成する能力(reconfiguring)として示している。最後の”reconfiguring”については、“transforming”と呼ばれることもある。

DXの話に戻すと、本理論からすると、戦略やビジネスモデルの変化は”reconfiguring”から始められないことがわかる。つまり”sensing”していないと空虚な取り組みになってしまうのである(もちろん”seizing”も重要で組織内での意思決定プロセスとかがそれに相当する)。DXにおいて、”sensing”しなくてはならない一つにITもしくはデジタル技術があるのであろう。技術を機会として捉える活動(例えば技術の探索や検証)をしない限りトランスフォーメーションはできない。やや、このような組織プロセスに対する議論が抜けているし、実際にITやデジタルをうまく活用している企業は、”sensing”のいい組織プロセスに組み込まれているのではなないか?
世の中を変えるのは技術である。

参考文献
Teece, D. J. (2007). Explicating dynamic capabilities: the nature and microfoundations of (sustainable) enterprise performance. Strategic management journal, 28(13), 1319-1350.

いいなと思ったら応援しよう!