鬱で休職5ヶ月目②社長が面談を申し出てきた
ドクターストップ中の社員に、会社は接触してはいけないという法律があるが、そんなものは易々と超えてくるのが私の社長だ。ちなみにこれは2日前の出来事。
社長は女性で年齢は50代半ば位。総白髪の美女でスタイルも抜群。いつ見ても全身エルメス等のフランスのハイブランドのシンプルで上質な服を纏い、ダイヤや大きな石の付いたポメラートなどのイタリアのハイブランドのハイジュエリーをセット使いしている。
靴やバックもシャネルやヴィトンやディオール、エルメスばかり。一体靴と鞄をいくつ持ってるんだろう。
見惚れるほど美しい人で、しかも性格もかなり良いと思う。
親から相続した会社を何倍にも大きくし、資産を増やしたビジネスウーマンで、夫は大統領のお抱え弁護士の内のひとり。絵に描いたようなパワーピープルである。
悪い点は、拝金主義が過ぎて不法就労させ多額の脱税をしたり、我こそが法律と言わんばかりに大胆に法を破る所。家族経営あるある。
あくまでも自分のビジネス感覚が第一で、法律のおかしい所は守らなくても良い、というブレないスタンス。
私は幸運にも消音モードにしていて、社長からの電話に気付かなかった。気付いたら即座に取ってしまったと断言できる。心臓が止まるほど驚き条件反射で取って、会う事になり相当落ち込んだに違いない。
留守電にメッセージが残してあった。『あなたの身に起こった事には心を痛めている。長い間ドクターストップだけど今どんな感じなのか聞きたい。あなたの今後の仕事に対するビジョンについても話し合いたいので、近いうち会社に来てね』との事。
社畜マインドの私はすぐさま社長に電話しなければマズイと思った。……いや待て、これ社長はやっちゃいけない事なんじゃなかったっけ…?
疲れがドッと出てソファに寝転ぶと、心臓がドキドキしていた。久々にパニック発作が出そうだった。社長は私を解雇したいに違いない。数々の社員をクビにしてきたのを知っている。ドクターストップなんて私のビジネスの邪魔よ、大嫌いという人だ。
とっても恵まれている事に、私はその日の午後に精神科医Bの診察があった。なんてラッキーなの、命拾いした。
精神科医Bはアッサリと「あぁもう、そんなの全然ダメだよ。無視して。」と呆れて言い放った。怯える私にチッチッチと舌を鳴らし首を横に振るジェスチャーもくれた。
念の為ネットで法律を調べ、私にPCの画面を見せてくれた。
“体調を気遣う為にコンタクトを取る事のみオッケー。それ以上は一切やっちゃダメ。”と明記されていた。はぁぁ良かった…。
「ほら何も心配いらない。この国ではこんな事有り得ないから。完全に無視で良いからね。」と精神科医Bは相手にもしてない様子。
しかし私は超気が小さいので、昨日一応メールで返事をした。もしかしたら善意で電話くれたかもしれないし。
…そんな訳ないかー。こういう所が私の育ち故の弱点で、他人の善悪の基準が曖昧だ。支配的で過干渉な父親に私がどう感じるべきか強制され、ずれるとお前がそう感じるのはおかしいと責められた。今でも自分の感覚に自信がない。いつも悩んでしまうから、誰かに教えて欲しい位。
『長い間休んで心苦しい限り。まだ医者以外と話す事は難しいのでメールにて失敬。病状は鬱と解離で治ってない。いつ治るのか誰にもわからないし、将来の事もわからない。今後はすぐに返信出来ないかもしれないので先に謝っておきます。良い1日を。』
という内容をフォーマルに婉曲に、しかも怒らせない様に。何度も推敲し書くのに2時間以上掛かった上に、精神的な負担も相当でかかった。
本当に法で禁止されてるだけあるよな。絶対やっちゃダメだわ。社長のせいで心がすごく乱れたし、回復も遠のくわ。今後は全て無視しようと思った。
社長もメールだと証拠が残るので、下手な事は書けないから直接会って話したかったはずだ。現在昔の社員に訴えられていて法廷闘争中だから(経営者に勝ち目なし)もう多額の賠償金は嫌なはず。
もうこれであの会社に復職は100%ないなと吹っ切れて良かった。そしてあの社長が相手でも自分の健康を優先し、自分を守れた事で少し自信が付いた。