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『陽の家』に暮らすように泊まる旅のかたち

無印良品の平屋『陽の家』が建ち並ぶ、まるで小さな村のような宿泊施設『高嶺の森のコテージ』が誕生しました。富士山に見守られながらひっそりと産声を上げたその場所へ、MUJI HOUSEのふたりが訪ねました。『高嶺の森のコテージ』をめぐる人々のお話をお届けします。

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株式会社M’ADICAL(マディカル)
『高嶺の森のコテージ』企画・運営。自主映画製作のほか、『高嶺の森のキャンプ場』、『高嶺の森のゴルフクラブ』なども営む。

神田 知子(写真左)
御殿場生まれの御殿場育ち。『高嶺の森のコテージ』の企画・運営をマルチにこなす。しなやかな求心力とぶれない美意識が、場づくりの仲間たちを引き寄せる。学芸員、図書館司書、司書教諭の資格も持つ。

橘 慎太郎(写真右)
『高嶺の森のコテージ』の企画・運営をマルチにこなす。確かな推進力で、ものづくり・場づくりをかたちにする。鍼灸師としての顔も持つ。

川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE取締役/「無印良品の家」住空間事業部開発部長/一級建築士
無印良品が考える感じ良い暮らしをかたちにすべく、新築注文住宅から、マンション、リノベーションまであらゆる「住まいのかたち」づくりに関わる。

千葉 胤亮
無印良品の家 東京有明センター店長/二級建築士
お客様ひとりひとりに本当に最適な住まいをお届けするために、イエスマンにはならないと決めている。高嶺の森のコテージ開発では営業統括を担う。

今回のお話の舞台『高嶺の森のコテージ』

静岡県御殿場市、富士山麓に広がる『高嶺の森のコテージ』。美しくカーブを描く小道沿いに10棟の無印良品の家 平屋建て『陽の家』が並ぶ宿泊施設だ。ゲストは、一棟貸し切りで暮らすように『陽の家』を体験できる。

2021年11月のオープンに向けて、大切に育まれてきた『高嶺の森のコテージ』は、不思議と仲間を呼ぶ場となった。磁石のように人を引き寄せ、集まった知恵と情熱が場を編み広げていく。御殿場の星空の下、その中心にいるおふたりに思いを聞いた。

『陽の家』のコテージができるまで

左から、橘さん、神田さん、MUJI HOUSE 川内、千葉

川内:
今日は、『高嶺の森のコテージ』が誕生するまでの経緯をたどりながら、この場所をこれからどうしていきたいかといったところをざっくばらんにお話できれば思います。まず、マディカルのおふたりとMUJI HOUSEの出会いですが。

千葉:
マディカルさんと初めてお会いしたのは、私が御殿場で担当させていただいた、無印良品の家のお客様の地鎮祭の日でしたね。2018年の秋のことです。地鎮祭のあとで、無印良品の家について紹介してもらいたいとお声がけをいただきました。

当時はまだふわっとした計画段階で、御殿場の土地に宿泊施設を建設したいというお話でしたが、MUJI HOUSEではそれまでは基本的に個人住宅のみの扱いだったので、会社に持ち帰って確認しますというお話をさせていただきました。

川内さんに相談をして「面白そうじゃん、やろうよ!」となって、そこから怒涛の開発プロジェクトが始まりました。

川内:
MUJI HOUSEにお声がけいただいたのは、どういった経緯だったのですか?

神田さん(以下、敬称略):
プロジェクトの出発地点には「みんなが喜んでくれる夢のある街をつくりたい」というマディカルの思いがあってスタートしたものです。

それをどうかたちにするかというところで、もともと私たちふたりが個人的に無印良品が大好きというのがあって、以前都内の公園で展示されているのを拝見したことがある、木の『無印良品の小屋』に注目したんです。

橘さん(以下、敬称略):
黒い小屋です。あれが商品化されていると思っていたんですよね。

川内:
MUJI HUT』ですね。2015年に東京ミッドタウンでいくつかの小屋のプロトプランの展示イベントを行いました。その当時はまだ商品化していませんでした。

神田:
私たちのプロジェクトとしては平屋がいいなというイメージがあって、それならばあの無印良品の小屋がいいと思ったんです。

川内:
『高嶺の森のコテージ』の開発にあたって、最初は一室空間の『木の家』をベースに提案をさせていただいたのですよね。でも、計画の枠組みが変わって考え直すことになり、『陽の家』をご提案することにしたんです。

そのとき『陽の家』はまだ世に出ていませんでしたが、2019年4月のリリースに向けて設計図はできあがっている段階で、僕のなかでは「これは『陽の家』しかないな」と思っていました。

神田:
川内さんから「素敵なものを見せられるから待っててね」と言っていただいて、初めて『陽の家』を見たときには、待っていてよかった! と感激しました。

千葉:
その後、千葉県いすみ市に建設した『陽の家』のモデルハウスを見学に行きましたね。

神田:
『陽の家』の実物を見て、関係者一同「これでいいよね」「これがいいね!」と決定しました。イメージどおりで、ひとめぼれでした。

川内:
『陽の家』をご提案したときに、どういう反応を示してくださるかまったくわからなかったので恐る恐る出したのですが、すごく反応がよかったのでとても嬉しかったです。

『高嶺の森のコテージ』で過ごすひととき

『陽の家』が建ち並ぶ『高嶺の森のコテージ』のまわりには、ビオトープやキャンプ場、そしてショートコースのゴルフ場が広がる。ゲストは、『陽の家』のウッドデッキでバーベキューをしたり、ビオトープをのんびり散策したりと思い思いの時間を過ごす。

レセプション棟の本棚には、スタッフおすすめの書籍が並び、全面のガラス窓から美しいミズナラの樹をのぞむレストランスペースでは、御殿場の野菜をふんだんに使ったオリジナル料理の朝夕食オプションサービスを楽しむこともできる。

川内:
開発にあたっては、10棟の『陽の家』の配置にこだわられましたね。そのほか、施設についてご紹介いただけますか。

神田:
家の配置は、窓からどんな景色が見えるか、木々はどうやって見えるかなど、マディカルのオーナーがこだわり抜きました。

橘:
隣接するビオトープでは、そのまま飲める程のきれいな富士山の地下水が湧き出ています。ビオトープ内の池には今年、鴨がやってきました。運がよければ鹿にばったりなんてこともあります。

橘:
また、看板犬のラブラドールが7匹、敷地内を走り回っていることも。7匹のうち5匹は今年生まれた人懐こい仔犬たちで、犬の訓練士の資格を持つスタッフが訓練中です。

神田:
レセプション棟のレストランスペースでお楽しみいただくお食事は、できるだけ御殿場のお野菜やお米といった地のものを使うと決めています。私たちが調理も担当しています。

橘:
僕が野菜の焼きを担当していて、そのほかの小鉢、デザート、お菓子の調理や味のチェックはすべて彼女が行っています。味噌や豆乳のヴィーガンバターなど自家製にもこだわっています。食事はオプションとなります。

千葉:
基本的には素泊まりプランで、バンガローのように、グランピングな感覚で『陽の家』に泊まることができる施設ということですね。

こころがまるくなる場所をつくりたい

川内:
僕がずっと思ってきたのは、富士山麓の御殿場という素晴らしいロケーションで、『陽の家』を10棟も建てていただいたこの場所に、価値観が共有できる人たちに来ていただきたいし、それも最初だけでなくて継続して来ていただきたいなということです。

『陽の家』は施設をつくるための手段でしかなくて、大切なのはここでどういう風に過ごしてほしいのかというところで、そこはどんな思いですか。

橘:
大きなコンセプトとしては「健康」というものがあります。健康といってもさまざまなレベルがありますが、ここでは、その入り口というかきっかけづくりができればと考えています。

『高嶺の森のコテージ』には、テレビがありません。テレビのない時間を過ごすことで、テレビがなくても暮らせるなと気付いたり、野菜をメインにした食事で、野菜の美味しさや野菜でお腹がいっぱいになる幸せを感じていただきたい。そんなふうに、からだが喜ぶことへの気付きの場所になるといいなと考えています。

橘:
提携の医療機関もあり、一体となって「こころがまるくなる場所」というテーマを掲げて地域活性化にも取り組んでいきます。

神田:
こころをまるくしていただけるように、『高嶺の森のコテージ』にはたくさんの「まる」があります。ロゴマークもそうですし、無印良品さんにつくっていただいた円卓や、その端材でつくった宿泊棟のキーホルダー、各部屋のアートも「まる」で御殿場の自然を表現した作品です。部屋ごとに異なる作品を飾っています。

橘:
疲れてギスギスしたこころも、まるくなってお帰りいただけるようにという思いを込めています。

場づくりという意味では、敷地内のオープンスペースで宿泊者以外の方にも来ていただけるイベントを開催したいと考えています。御殿場や近隣の飲食店さんに参加いただいて、ピアノやアフリカの太鼓演奏を聞きながら、ヨガをしたり、焼きたての窯焼きピザや美味しいパン、珈琲、クラフトビールを楽しんでいただく。僕たちはカレーを提供する予定です。

神田:
この場所には、不思議と人を呼んでくれるちからがあるんです。イベントにご出演いただく予定のアフリカ太鼓奏者のご家族は、もともと無印良品の家に興味があった方たちで、通りがかりにふらりと入ってきてくださったんです。「ここって無印良品の家ですよね?」って。

神田:
私たちのお料理も、私がお客さんとして大好きで通っていたお店のシェフ家族にお願いして、レシピ開発と調理指導をしていただいたところが始まりです。惜しみなくノウハウを授けてくださったことにこころから感謝しています。

それからロゴのデザインとアートを描いてくださったデザイナーさんや、キャッチコピーを考えてくださったコピーライターさんなど、たくさんのクリエイターさんにもお力添えをいただきました。

施設開発にも、MUJI HOUSEさんをはじめとした本当にたくさんの業者さんが関わってくださって、みなさん素敵な方ばかりで。そんな大切な仲間ともいえる方々との出会いとそのご恩に報いたいという思いも強くあります。

川内:
無印良品の価値観を共有している人やお客さんが集まりやすいというのはありますね。どんな体験ができるのかと期待してくださっている。家を建てる部分で、ビジネスとしてはいったん区切りがついてはいますが、これからも僕らにできることはやりますし、お力になりたいと思っています。

神田・橘:
ぜひぜひ!

川内:
本日はありがとうございました。

高嶺の森のコテージ
静岡県御殿場市上小林1506-6
受付営業時間:10:00-18:00
https://takane-cottage.com/