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私たちは、どこで、どのように暮らすのか
無印良品の平屋『陽の家』で一週間暮らしてくださるグループを公募した「ぜんぶ、無印良品で暮らそう‐ワーケーション篇‐」。たくさんご応募いただいた方のなかから、5組のみなさまに『陽の家』でのワーケーションを体験していただきました。
今回は、そのうちの1組で、生涯にわたって住みたいと思える場所を探す旅を続けているパートナーのおふたりに話をうかがいます。
私たちは、どこで、どのように暮らすのか? その答えを探してきたふたり。『陽の家』での体験をとおして心境の変化はあったのでしょうか。MUJI HOUSEの川内浩司が訪ねました。
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金邉 竜也(写真左)
映像作家/フォトグラファー
小倉 茄菜(写真右)
グラフィックデザイナー
川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE取締役/「無印良品の家」住空間事業部開発部長/一級建築士
無印良品が考える感じ良い暮らしをかたちにすべく、新築注文住宅から、マンション、リノベーションまであらゆる「住まいのかたち」づくりに関わる。
今回のお話の舞台 無印良品の家の平屋『陽の家』
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千葉県いすみ市の住宅地を抜けた山の上、林のなかに佇む無印良品の家の平屋『陽の家』。樹齢400年ともいわれる山桜のシンボルツリーが迎えてくれる。同敷地内には、グランピング施設『フォレストリビング』も備える。車で10分ほどの九十九里浜から伸びる海岸線も、魅力のひとつ。
『陽の家』でのワーケーション体験
川内:
このたびは、「ぜんぶ、無印良品で暮らそう‐ワーケーション篇‐」にご参加いただきありがとうございます。
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川内:
MUJI HOUSEでは、今後は家は「暮らす」だけの器ではなく、仕事の場であったり、家族以外の宿泊の場であったりとさらに多様化していくと考えています。
そこで、新しいかたち・場所で「集まって住む」「つながって住む」ことで、より豊かに暮らすことができ、かつ“場”の価値が上がっていく状況を創出することを目指してMUJI VILLAGE プロジェクトをスタートしました。
川内:
おふたりは、一生住みたい場所を探す旅をされているということで、暮らし方についていろいろとおうかがいしたいと思っています。
これまでさまざまな場所で暮らしてこられたとのことなのですが、まず『陽の家』でのワーケーションはいかがでしたか? おふたりともフリーランスとしてお仕事されているんですよね。
小倉さん(以下、敬称略):
はい、そうです。私はグラフィックデザイナー、彼は映像作家・フォトグラファーとして仕事をしています。
期間中、極力この地を楽しみたいという気持ちできていたんですけど、いろいろな仕事の納期と重なってしまって、前半は夜中まで仕事をしていて、それこそ暮らしみたいな感じでした。
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小倉:
この場所を拠点にいろんなところに観光にいくというよりも、仕事をして、朝ご飯を食べて、ちょっと出かけてまたご飯を食べて。そして、そろそろ家に帰ろうかって感じで、ここがまるで自分たちの家のように暮らしていました。
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小倉:
ここは大きな一部屋なんだけど、ふたりのうちどちらかが夜中まで仕事をしているようなときでも、寝室は仕切れるとか、仕事をできる場所がいっぱいあってよかったです。
気分転換にちょっとウッドデッキに出て朝日を浴びるとか、いま住んでいる家よりも気分を変える方法がいくつもあったので、仕事のピークを乗り越えられた気がします。
川内:
この家の家具は、特注でつくったものです。どこにでも座って、いろんなところで本も読める、食事もできるという発想でつくったものだったんですけど、同じパソコンにむかって仕事をするのでも場所を変えることで気分が変わるという効果もありそうですね。
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川内:
家具は、無印良品の家を購入いただいた場合、保証付きの家具をオーダーメイドさせていただいています。家具だけのオーダーメイドだと保証ができないので、家具だけということはできないのですが。
片方がリモート会議という場合は、どうしていたんですか。
小倉:
友人が子供を連れて遊びにきたときに、オンラインミーティングの予定があって、後ろに子供も一緒にいるところでミーティングに参加したということがありました。でも、相手側も子供がいてという状況は多いので、とくに気にはなりませんでした。
この社会的な環境で、物理的に相手の様子が見えにくくなっているなか、オンラインで相手の現状が見られるというのは、相手の理解や共感にもつながり逆に大事だなとも感じます。
今回、とくにひとりにならなきゃいけないというタイミングはなかったんですけど、そういう場合には引き戸をしめて個室にすることはできるし、ウッドデッキでもWi-Fiが使えるという点は可能性がすごくあるなと思います。
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住むところを探す旅の途中
川内:
おふたりの暮らしについてうかがいたいと思います。住むところ探しを始めてから、何ヵ所くらいに住まわれてきたんですか。
小倉:
4年ほどふたりで住むところ探しをしています。これまでに住んだことがあるのは、タイのバンコク、小笠原諸島の父島、神奈川の藤沢、長野の4ヵ所です。藤沢エリア内でいちど引っ越したので、家でいうと5軒の物件で暮らしたことがあります。
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小倉:
藤沢ではトータル2年間くらい家を借りていて、そのうちの1年間は現在の住まいである長野県の根羽村との二拠点生活でした。タイと小笠原は、3ヵ月ちょっとくらいでしたね。ワンシーズンいたかたちです。
川内:
父島に行こうと思ったのは、なぜですか。
金邉さん(以下、敬称略):
父島は、僕の仕事のつながりがあって行きました。
もともと僕が仕事で何回か行ったことがあり、そのときにできた友人関係もあって最終的に仕事の関係で3ヵ月くらい暮らすことになりました。
川内:
いまは長野県ですね。そこに移ったきっかけは、なにかあるんですか。
小倉:
友人がそこに移住したのがきっかけです。
川内:
小笠原にしても長野にしても、なにかしら知縁があって行かれるんですね。
金邉:
ポーンと飛び込むっていうよりは、それまでの友人とのつながりだったり、一回行ったことがあってそこが気に入ってといったケースが多いです。
根羽村というところは、長野と岐阜の県境にある村で、移住したのは一昨年です。友人が仕事で呼んでくれて、農家の方のドキュメンタリームービーをつくるという仕事で、若者たちと知り合ったり飲みに行ったりといろいろお世話になった経験があって、暮らしやすそうだなと。
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川内:
やっぱりどんな人が住んでいるかは大事ですよね。景色がきれいというだけじゃなかなかね。
金邉:
そうですね。そこを知ることができていたというのは、大きかったと思います。最終的には、国の制度である『地域おこし協力隊』として移住することになりました。
主に役場にはいって、村のプロモーション映像の制作などを任せていただいています。
小倉:
私たちのような外部から来た人間が見える村の景色・魅力を伝えるというのが今の仕事です。
村のことを知り尽くしている先輩村民の方たちにも、結構好評です。
根羽村でしか流れないローカルテレビチャンネルで、小学校の運動会を放映したりもしました。コロナ禍で親御さんは運動会には来られないが、テレビで観てもらうことができました。
村での暮らしは、田舎で若い人もいなくて寂しくないのとか言われるんですけど、ある程度同世代で、同じような話題で楽しく話せる人たちがいっぱいいるから、そこに寂しさはあんまり感じていません。
むしろ東京で会う人とはまた違った知識があって、森とか自然にすごく詳しいんです。興味があるので、そういう話を聞けるのがとても楽しいです。
金邉:
暮らしがいいよね。暮らしの知恵がいろいろあるし、暮らしそのものがSDGsを体現している。
小倉:
おばあちゃんたちって、「エシカル」とか「サステナブル」とか絶対知らないんですよ。そんなカタカナは知らなくても、やってるんですよね。
私たちが住まう「場所」の輪郭
川内:
最終的には、どこかに定住しようと思っているのでしょうか。
金邉:
そうですね。「どこに」というのは、候補が膨らむ一方なので、もう決めの問題といった感じですが、5年以内くらいには決めたいかな。
小倉:
5年以内くらいには。でも、10年後でもいいなというのもあったり。
川内:
定住したいっていうのは、どのような思いなのでしょう。
小倉:
移住生活では、どうしても借りてる場所に暮らすことになってしまうので、すべてが自分の好みにできる場所に住みたいってことかな。
家を建てたいとか、家をもちたいとか強い気持ちってこれまでなかったんですけど、今回ここにきて、「家、いいねぇ」って。
川内:
住む「場所」を決めたいというのもあるけど、住む「器」を自分のお気に入りの器にしたいというのがあるということでしょうか。
小倉:
そうです。家をつくるのって楽しそうだなって。用意されている場所を体験するというのもいいですけど、それが自分たちだったらどうするかな、それを実現できるってすごく面白いなって思いました。
川内:
これまで都市部というよりは自然豊かなエリアを選んでこられたように思いますが、定住の場が都市部になることは、あんまり考えられないですか。
金邉:
あんまりないよね。
小倉:
そうそうないですね。都会には帰ってこないと思う。
お互い実家が都心にあって、いざとなったら戻れる場所があるというのもあって、私たちがいるのは都会じゃなくてもいいかなという思いがあります。
川内:
都市部に行くこと自体も、あまりないですか。例えば、最新の映画上映を観たいとか。
小倉:
あります。名古屋や松本に行くよね。根が都会っ子なので、たまにショッピングモールとかいくと、すっごい楽しいです。
金邉:
村に住んでいる人たちと比べると、僕らが都会に出る割合は高いと思います。買い物もそうですし、娯楽を求めていくのもそうですし。住むことはないけど、都会は変わらず大好きです。
川内:
田舎に住んでいて、都市部に遊びに行くという暮らしの方が合っているということですね。
僕はこれまで、田舎に住むって決めたら、ずっと田舎にいなきゃいけないって思っていたんだけど、おふたりの話を聞いているとそんなことはなくて、ぜんぜん無理なことじゃないなと思えてきました。そうはいっても、田舎暮らしでここだけは不便だなとかはありますか。
小倉:
移住した当初は、免許も車も持っていなくて移動が大変でした。でも、東京にいるよりは大変なことは少ないかな。
川内:
東京にいて、大変なことはなんですか。
小倉:
疲れるというか、ほんとうにこれって自分がやりたいことなのかなってなっちゃうことが多いんですよね。余白が少ないと感じちゃう。
川内:
田舎の方が、余白は多いですね。空間的に、余白は多い。空間の余白と、暮らしの余白は、確かにリンクしているかもしれないですね。
小倉:
心の余白にも、つながるかもしれないですね。
暮らしの「器」のかたち
川内:
暮らしの「器」そのもののイメージは何かありますか。
小倉:
根羽村での住まいは集合住宅で、2棟が「く」の字につながっている平屋のログハウスです。デッキがあって庇が深いので朝の日当たりがいまひとつなのと、冬場の朝は窓の結露が凍っているくらい寒いんですが、部屋はいっぱいあるので仕事する部屋、寝る部屋と分けて便利に使っています。
でもね、壁っていらないじゃないかってここにきて思いました。
川内:
そうでしょ。壁がないと広いし、明るいし。なんとなく、気持ちがおおらかになる感じですよね。
ちなみに無印良品の家は、この『陽の家』以外も基本的に壁がありません。住む方が自由に仕切るとか、家具で仕切るとか。そういう暮らし方をずっと提唱してきました。
金邉:
それがいいなと思いますね。必要だったら、仕切りをつけたり出したりすれば十分だなと思いました。
小倉:
彼がそこでテレビを見ていて、私は向こうで本を読んでいてというのでも、個室にいるのと変わらないというか。見える、聞こえるけど、自分の時間と空間は確保されてるという感じがとても心地よかった。いままで意識したことなかったんですけど、そういう暮らしもいいなと。
庭に大きな樹があるというのも、重要なポイントになりました。まわりでどんぐりもたくさん拾えたり。豊かな森なんだなと感じました。そんな、四季を感じられる場所がいいですね。
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小倉:
母の実家が山梨の古民家なんですが、築200年から300年くらいといわれている家で、落ち着くんですよね。子供のころ、親戚のみんなで集まっていたっていう経験もあって。
なので、家を持つとしたら古民家を買って自分たちでなおしてというイメージがあって、新しく建てるというのはお金もかかるし、選択肢としてはあまり現実的ではありませんでした。でも、今回ここを体験したら、その選択肢も生まれたかな。
古民家を買って改修するのと、こういう家を建てるのとどっちがいい? って彼に聞いたら、速攻で「こういう家でしょ」って(笑)
川内:
古い家は、断熱性や耐震性の点で課題のある家が多いですが、『陽の家』は断熱性も耐震性もすごく高い家です。
古民家を改修するというのはロマンチックな話でもあるけれど、快適さや健康、安全などを考えると精神論だけでもたないところがある。うまくバランスがとれるといいなと思っているんですけどね。
古民家といえば、全国的に古い空き家や誰も近寄らない場所というのも問題となっています。ここも、もともとは誰も寄り付かないような雑木林でした。でも、いろいろと工夫して『陽の家』を建てて、こういう企画をやることで人が集まってくるようになった場所です。
今後はもっと人が住まないような郊外とか、人に見捨てられたような場所に注目して、こういうような場づくりを少しずつ広げていきたいなと考えています。
本日は、ありがとうございました。
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