ソロジャーナルTRPG「With My Last Undying Breath」で紡いだ手記をここに残そう――。
最初に
2022年5月23日に私、六児雛さばきは誕生日を迎えました。誕生日配信の中で私は、鉄の処女であると同時に吸血鬼であったことを皆様にカミングアウト。私を追うヴァンパイアハンターを呼び出し、400年に渡る永い人生(?)を、視聴者の皆さんが見ている中で美しく終えようとしていたのです。
このあとに記載されている手記は、私が配信中に我が生涯を振り返りながら纏めたものです。紆余曲折があって、今も私は生き永らえることになりました。
折角なので、乱雑な文章の体裁を少し整え直して、ここに手記を改めて掲載しておこうと思ったわけです。紆余曲折の詳細は、配信のアーカイブをご覧いただければ幸いです。
私は鉄の処女にして、吸血鬼。六児雛さばき。
六児雛とかいて、『むじひな』と呼ぶ。無慈悲な裁き。鉄の処女のお前にお似合いの名前だ、と私の主人は笑いながら言っていたのを今でも覚えている。
私は元々鉄の処女と呼ばれる拷問器具だった。私に魂を吹き込んだのは、魔術師・烏山あもん。私の主人だ。彼女の魔法の力で、私は動く鉄の処女となったのだ。私の動力源は人間の生き血。人の血液を啜らなければ、私はこの仮初の生命を維持することができないのだ。
かつては呪われた運命を背負っていた私だが、今では人間に対して好意を抱いている。YouTubeという場で配信活動をはじめることで、人間種への愛着がわいたためだ。
これから紡ぐ私の手記は、この配信を見てくれている愛すべき人類――私のかけがえのない友人たち――に捧ぐ。
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孤独の時代――犠牲と共に手に入れた最初の愛情について
その昔、鉄の処女から鉄の処女型オートマータとして活動しはじめたころの私は、誰も信じられなかった。それはご主人様であってもだ。
私はご主人様の手を離れ、ヨーロッパの西の果てスペインで一人孤独生活を送っていた。
これは、その時代の出来事だ。
当時、私は胸を誰にも見られないように、ぶ厚いフードを被り、人里から離れた地で静かに暮らしていた。
私は何人もの罪人を抱いてきた。それは、文字通りの『死の抱擁』だ。そんな私が、仮初とは言え生命を得て、生き続けるという皮肉。私が歩み続けるには、背負った十字架はあまりにも重すぎたのだ。
静かに、誰にも看取られることもなく、自らの機能停止を待っていた。
そこで出会ったのがイヴァンカだった。誰にも心を開かなかった私だったが、やがて彼女と少しずつ仲良くなった。
私がいつかくる終わりの日を静かに待っていたある日。イヴァンカは私の胸に自ら入って命を絶ってしまった。私の飢えを癒すため。彼女はあまりにも献身的な女性だった。
彼女の亡骸から遺品として手に入れたリボン。それは400年たった今でも肌身離さず私は首元に身に付けている。
このリボンは、私とイヴァンカとの絆の証なのだ。私たちはいまでも、このリボンを通じて、魂で繋がっている。
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力に満ちた時代――私に憧れを抱く者
イヴァンカの死を乗り越えた私は、街におり、人しての暮らしをしはじめた。彼女の生命を代償に得た人生を無為に過ごす気にはなれなかったからだ。
私は鉄の処女としての肉体の力によって、街のどんな相手にも負けなかった。今でこそ体のそこかしこに錆びが浮いている我が身だが、当時は洗練された美しい鋼鉄だったのだ。
そういえば、街で10人の悪漢に囲まれた少女を助けたことがあった。
悪漢といえど、所詮は人間。全員私の得意の鯖折りでイチコロだ。
「おめえつええな!!」
助けた少女は、そう言って私に憧れの眼差し向ける。彼女はコルノと名乗った。今思えば、不思議な縁の始まりである。
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人として暮らしていた時代――私に憎しみを抱く者
私はそれでも人と間にいさかいは起こしたくなかった。人のふりをして静かに暮らしていたかった。幸い、コルノがそばにいたことは人として暮らすにあたってのカモフラージュに役立った。人としての暮らしていくには、当時の私には知らないことが多すぎたからだ。
だが、ある日、私が買い物から帰ると、家で待っていたのは変わり果てた姿のコルノだった。誰の仕業なのかはすぐに分かった。床に血文字で「ハナコ参上!」と書かれていたからだ。
ハナコとは、当時名の知られたヴァンパイアハンターだ。
ハナコはかつて、不死の力を手に入れるために、私と魔術的な契約を交わした。結果、彼女はゾンビとなってしまい、それを恨んで私を追い続けているようだった。
どうやら、私を滅ぼせば自分が元の姿に戻れると妄信しているらしい。愚かな。人間が不死を手に入れようとすれば、その身をなにかしら別の存在に置換せざるを得ないことなど、当たり前だろうに。
おそらく、コルノはハナコにヴァンパイアだと勘違いされて始末されてしまったのだ。私がもっと気を付けていれば…!! そして、この出来事が私とハナコとの憎しみの因縁の始まりである。
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鉄の処女だった時代――ハナコとの秘められた因縁
これは、のちに知ったことだが、ハナコはかつて異端審問官で、異教徒に対する拷問具として、当時まだ鉄の処女だった私に沢山の人間の血を吸わせてきたそうだ。
つまり、私の呪われた身の上は彼女の意志によって血で塗りたくられてきたのだ。
私が恐怖の存在として世に知らしめられることになったのは、彼女の仕業だったのだ。
私の望まざる所業により、私は人に手を掛けまいという誓いをたてたのだ。あとにもさきにもこれ以降私の胸にいだかれ命を絶ったのはイヴァンカだけでる。
ハナコと私との血の因縁はあまりにも深い。
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Vtuberになった時代――手に入れた平穏
時はたち、2020年――。私は日本にやってきていた。ハナコの追跡から逃れると同時に、私は彼女を討つタイミングを狙い続けていた。
紆余曲折を経て、私は彼女を倒すことに成功する。彼女を完全に滅ぼすことはできなかったが。
彼女はかつて、ヴァンパイアだと信じて無実の少女――コルノのことだ――をあやめてしまったことへの後悔の念から、すでに魂の抜け落ちたような廃人と化していたからだ。それ以降の彼女は、異形の者を刈るという目的意識だけで動く、まさに生ける屍だったのだ。
結局、私はハナコを滅ぼしきることは出来なかったものの、彼女に新たな疑似人格を植え付けることに成功する。その結果、彼女は記憶失い性格もとぼけたものになっていた。これ以上は彼女が私に害を加えることもないだろう。
私は、自らの存在のために、また一人の人間の人生を大きくゆがめてしまっていたのだ。結果的に彼女は不死身になってため死ななかったものの、今のハナコは本当にハナコなのだろうか。本来のハナコはもう、すでに死んでしまっているのではないかだろうか。
そうであれば、私は再び人の命を自らの手で奪ってしまったのではないか?
私は自らの罪と向き合うために、自らの名前を「無慈悲な裁き」――六児雛さばきと名乗ることにした。
こうして、私は平和を手に入れた。そして今ではツイッターのフォロワーやチャンネル登録者も沢山できて友達も出来た。友達のなかにはかつて見覚えのある顔の人もいる。これも不思議な縁だ。400年生きてきた私にとってのささやかな褒美なのかしれない。
先ほどから玄関のインターホンが鳴りやまない。私を殺すためにハナコがやってきたようだ。どうやら、残された時間は尽きたようだ。私の手記はここで終わりをむかえる。これをよんでくれてありがとう。
了
おわりに
手記は、ここで終わっています。死を迎えるはずだった私が今もなお、こうしてnoteに記事を投稿できているのはなぜなのか? 気になった方は、私の誕生日配信で事の顛末をご確認ください。