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Dreamkiller's dream.

高校2年生の時、仲がいい訳ではないけれど休み時間や昼休みなどで連んでいる奴が数人いた。
ヤマキ君(仮名)との始まりは、お互いクラスで話す奴が居ない同士で、何となく余り者たちがくっついたという、はぐれもの同士の消去法だった。
彼とは席替えで前後の席になり、ふとした事から音楽の趣味が合うと分かり、段々と話すようになったのだった。

彼には当時大学生のお兄さんがいて、その影響で僕と同じような洋楽ロック・メタルに詳しかったのだ。
そしてお兄さんの影響で楽器をやっていた。
お兄さんがギターだった為、彼はベースを弾いており、その腕前は意外と凄かった。

そんな夏休みに一度、彼の自宅に行ったことがあった。
僕の最寄駅からいくつか電車で離れた所に住んでいた彼の自宅はとても大きな一軒家で、お兄さんの部屋と自分の部屋が別であり、机や本棚やベッドなどがある中で、楽器やアンプも置いてある広い広い一人部屋だった。
それは、狭い団地暮らしの僕には羨ましさを超えて現実離れしており、場違いなところに来ちゃったような気がして全く落ち着かなかった。
そこで音楽を聴いたりして過ごす中で、僕は彼に、将来ミュージシャンになりたいのかと尋ねた。
ベースの技術が分からない僕ではあったが、学年でも一目置かれてる彼のベースは凄いんだろうな、と思っていたからだ。
それもあるけど、俺は会計士になりたいってのもある、と恥ずかしそうに答えた彼の、意外な一面を見た気がした。

その関係性は緩やかに続き、夏休み後の季節に二人でアメリカのハードロックバンドのライブを見たりもした。
それは、僕が人生で初めて行った武道館のライブだった。
彼に僕のオススメのアルバムを貸したり、逆に彼からアルバムを借りたりして、休み時間は音楽話で盛り上がっていた。
それは、高校に入って暫くずっと友達が出来なかった僕にとって、初めてできた理想の友人関係だった。
音楽のこと以外にも語ることが出来たのも、嬉しい経験だった。

しかし2学期も進むにつれ、段々と気の合わない部分が目立つようになってきた。
彼と僕の決定的に違うのは、僕は人見知りで気が弱く暗いHSPなヤツだったのに対し、彼も人見知りだがボンボン育ちで中学からヤンチャしてきたやつという、生まれ育ちが違う事だった。
だからだんだんと、お互い遠慮や警戒心が解けると、僕の容姿を馬鹿にしたり行動をいじってきたりした。
明らかに馬鹿にしたり、下に見てナメてきているのがわかった。
そして同時期に彼は、別のクラスで楽器をやっている、いわゆる学業やる気ない系不良の奴らとつるむようになっていった。
僕とは段々と距離ができ、彼らとの時間が増えるにつれて、彼の振る舞いは更に調子に乗ってきたのだった。

授業中、僕は結構ノートをしっかり取る方だった。
授業が嫌いじゃなかったし、数学とか化学とかを学ぶことに楽しさを感じていたからだ。
勿論そこまでやる気はないのだが、サボって後で分からなくなるのが嫌だったという理由もあった。
元々友人が少なく、後でノートを借りたり教えてもらえる関係性の人もいない。
そうなるとしっかりノートを取るくらい別に面倒でもなかった。

そうした一見真面目な僕に対して、彼の当たりがキツくなってきた。
しばらくすると彼は、ノートを書いている僕に対して頻繁に邪魔をしてくるようになった。
当時、僕は意外と勉強ができた。
と言っても、中の上くらいで、トップの奴らには全く歯が立たなかった。
(中の上の高校でも、明らかに才能のある奴がいる事を知った)
彼は僕が真面目に授業を受けている事が気に食わないらしかった。
いちいち、真面目にやんなよ、と言ってきた。
「お前が真面目にやってると、俺の成績が下がるだろ」
と意味不明な理屈で邪魔をしてきた。
そしてウォークマンを貸してきて、これ聞いてみ?とか、音楽雑誌を渡して読んでみ?とか言ってきた。
僕が授業は普通に受けたいと言うと、お前の成績を下げるのが俺の役目だ、みたいな事を言ってきた。
どうせ頑張っても俺たちの頭じゃ何にもならねえよ、頑張っても無駄じゃん、というのが彼の口癖だった。
今思えば、彼より勉強のできた自分は、彼にとって目障りだったり、頑張る程に遠くに行くようで嫌だったのだろうと思う。

「ドリームキラー」とは、否定的な言葉や言動で、相手の夢や目標を壊そうとする人たちのことを指す。
人の夢を邪魔することが、彼の夢であるように振る舞う彼に、僕は嫌悪感を抱き始めた。

それはだんだんとエスカレートし、本格的に邪魔をしたり、ノートの文字を消されたりした。
彼としては、ちょっかいを出して遊んでるだけだったが、明らかに迷惑だった。
そして、僕はある時期から一切会話をしなくなった。
休み時間、昼休みも、彼と一緒に過ごさなくなった。
その後席替えもあり、交流は極端に減った。
彼自身も、僕よりも他クラスのやる気無い系バンドマンと連む方が楽しいようで、だんだんと距離ができていった。
そして僕は彼に貸したアルバムを返してくれと言えず、話すこともなくなった。

僕の態度が明らかに変わったことを察知した彼は、ちょっと下手に出てコンタクトしてきた。
帰りに待っていた彼が、自転車置き場で話しかけてきた。
しかし僕は一度苦手意識を持つと再度友情を育むのが難しいタイプで、そっけない態度を取り続けた。

彼はやる気無い系の仲間たちでバンドを組んで楽しそうだった。
学園祭で演奏したり、音楽の時間も皆から一目置かれていた。
僕以外の仲間ができ、僕以外の人から評価されていた。

そんな中、彼らの一人がタバコを吸っていることがバレて問題になった。
彼も吸ってる事は知ってたし、僕はそれがどうにかバレないかなと期待していた。
匿名で密告しようか考えた。
奴が停学になる、最悪の場合退学になる。
そして人生が傾き、ベースも会計士も、あいつの夢が叶わなければいいのに、と願っていた。
いつの間にか、自分も彼と同じドリームキラーになっていた。

夢中なものがなかった、夢を語る仲間がいなかった、親との関係がぎこちなかった。
そんな安定できる場がない自分は、他者を下げて安心するドリームキラーになりやすかったのだろう。

あん時、彼の部屋で2人繰り返し聴いていた、ジョン・サイクスのソロアルバムを覚えている。
サイクスはシン・リジーのギタリストとして活躍し、ホワイトスネイク、ブルーマーダーといったバンドでも人気を博した人物だった。
そのアルバムにある「I don't wanna live my life like you」がめっちゃカッコよかった。
ハードロックなのにパンキッシュで、勢いのあるスピーディーなナンバーだ。
ギターソロは流石のサイクス節で、何度も聴き込んでいた。
「お前みたいな人生を生きたくない」ってタイトルなのに、皮肉なもんだ。
当時の僕は、彼みたいなドリームキラーになっていたのだから。
彼との思い出はそれ以降何もない。
卒業して、交流も無くなった。
今どうしているかもわからない。
でもあの時を思い出すと、お互いに立場の同じ仲間が欲しかったんだろうな、と思う。
始まりは共通点があったけど、上手くその友情を紡げなかった。
あまり後悔は無いけれど、懐かしい曲を聴いたり、あの頃観た映画を観ると思い出す。
お互いに不器用だったんだなぁと。
お互いに若かったんだなぁと。

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