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一周回ってからの同じ景色は ぜんぜんちがうかった 二章

二章 僕そんなんとちゃうねんけど(前編)

 小学校3年生くらいからお父ちゃんが突然、勉強をするようにというようになった。それまでは勉強なんてできなくても気にもとめていなさそうだったし、実際にそれまではなにも言われなかった。もしかするとお父ちゃんはお父ちゃんで、時期が来たら言おうと思ってくれていたのかもしれないけれど。
 ある日、お父ちゃんが僕と弟に向かって聞いてきた「おまえら、これから勉強するんか?せえへんのか?どっちか決めえよ!」突然の2択!!どっちかと聞かれてもそれまで、勉強の「べ」の字もしていなかった僕は、どう答えればよいかがわからなかった。続けてお父ちゃんは「もしこれから、勉強せへんかったら稲葉くんのお父さんみたいにスーツを着て仕事するようなところに勤められへんようになるで!」とか「これからご飯食べられへんようになるで!」と言った。脅すつもりはなかったのかもしれないけれど、悪い例ばかりを聞かされたもんだからそれは大変だと思い、弟と口ぶりを合わせて「勉強する~!!」と答えた。別に「はい!勉強します!」とは思ってないんだけど「勉強する~!!」と言っておかないといけないような感じになってしまった。
 それから急に参考書や色んな本を買ってきて「さあ!やりなさい!」というような感じで生活環境がガラリと変わることになった。公文式、習字、そろばん、などの習い事も行くようになり遊ぶことが出来る日にちが週に1〜2日くらいになってしまった。あまりにも急なお父ちゃんと生活の変わりように、僕は何がなんだかさっぱりわからなくなった。

 ちょうどそのころに、いつも一緒に遊んでいた稲葉くんが転校することになった。同級生の間では喧嘩が一番強いと思われていた彼だ。するとなぜだかわからないのだけれど、稲葉くんが目の敵のように思われていたものが、僕に向けられるようになった。同じ学年にはもう1グループあったのだけれど、そのグループの子たちもなんとなく稲葉くんを意識していて目障りだなと感じていたようだった。実際に喧嘩をしたら負けることは明らかだったからか、稲葉くんがいることで均衡が保たれていたのかもしれない。それまでの僕は別に目の敵にもされていなかったし、恨まれてもなかった。ただいつも稲葉くんと一緒にいるということで同じように思われていたようだった。
 まだ稲葉くんが転校する前のある日、砂場でそのグループの子が「お前、稲葉と離れて俺らのグループ来いよ!」「なんであいつと一緒におんねん?」みたいなことを言ってきた。僕自身は稲葉くんを悪く思っていなかったし、「なんでそんなこというねん!」と心のなかでは思っていたからか態度と表情で伝わってしまい、意図していなかったのだけど対立するような関係になってしまっていた。

 どうやらいつも稲葉くんと一緒にいた僕も喧嘩が強いと思われていたらしく、彼が転校すると、もう1グループの子たちが「学年で一番喧嘩が強いやつ決めよか!」「勝負しよか!」と言いよってきた。僕はなにを言われているのかわからなかった。喧嘩は嫌いだし、理由もなく喧嘩なんてしたくない。「いじめっ子はダメだ」とか思っていたから、なぜそんなことで喧嘩なんてしないといけないんだと思い「そんなんいらんよ!」と言って断った。 その日の下校時に帰ろうとしていたら、その子たちから公民館の裏に来いと呼び出され「さあしょうか!」と言われた。その子には負けるとは思っていなかったんだけど、その子には上級生の子が2人ついてきていて「喧嘩せえ!俺らが見届けたるわ!」と言い迫ってきている。僕は「嫌や!」と断った。別にその子には負けないし喧嘩をしても良かったんだけれど、勝っても絶対にその上級生の2人がかかってくることはわかっているし、そんなふうにボコボコにされるのも嫌だった。だから僕は「喧嘩したら、お父ちゃんに怒られんねん!」と言い逃れをし喧嘩をしなくていいようにした。
 そうすると「こっちの勝ち!」と言い始め僕が逃げたかのように扱われてしまい、めちゃくちゃ悔しかった。悔しくて悔しくてしばらくその場から離れることができなかった。握った拳は爪が手のひらに刺さりそうなくらい握り込まれて、怒りなのかなんなのかわからないけれど肩の震えがおさまらず一人立ち尽くしていた。僕は一人だったし、対立したかったわけでもないのに勝手に対立されてしまって、とにかく悔しかった。全く望んでいない関係性の中、全く望んでいない状況に追い込まれて、自分としても悔いの残る選択をしてしまったこと。その時はただただ悔しくてそんなことは考えもしなかったけれど、誰になにをぶつければよいのかわからない感情に頭がおかしくなりそうだった。

 それは稲葉くんの責任でもなんでもないし、「なんでそんなことをいうんやろ?」「なんでそんな間柄にしたがるのかな?」となぜ自分がこんな状況に追い込まれないといけないのかと疑問に感じていた。そんなやり場のない感情が自分ではどうすることもできなくて、卑屈と言う表現が丁度いいかはわからないけれど、人と関わるときに素直ではない態度をとるようになっていった。
 その後の状況といえば稲葉と一緒いたヤツ扱いを受け、もちろん仲良くしている子もいるのだけど、その子にしても「なんかね立場が。。。」みたいな雰囲気だった。そのリーダー格の仲間だったり、稲葉くんにイジメられてたと言っているメンバーからは、イジメられるわけではないのだけど、「こいつ全然大したことないやん!」みたいな扱いを受けたりしていた。僕自身そんなに主張する方ではないのだけれど、あまりに自分の意志や気持ちが全く伝わらない状況に立たされていることに凄く葛藤をしていたし、そんな状況にクラスや小学校そのものに居づらくなっていた。さらに追い打ちをかけるように家に帰ってもやりたくもない勉強をやらなくてはいけないような状況が重なり、自分自身の行き場のない気持ちでいっぱいになっていた。


三章へつづく


一周回ってからの同じ景色は ぜんぜんちがうかった

※このお話は少しだけフィクションです!お聞きしたお話に基づいての物語ですが、客観性はないかもなので事実かどうかはわかりません。登場人物は仮名です。


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