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【詩】僕の無価値

何はともあれお金が必要だ
薬に混ぜてアルコールに溶かした傷病手当
やりがい搾取の人生に貯金なんてねえ


やり残したことややりたかったこと
やる気のないことと遣り切れなかったことを
酔いと宵の冷気で誤魔化して
『死んでやる
 もう死んでやるいますぐに
 明日かあさって
 しあさってかに』
そんな五七五七七を詠んではみたものの
それで鬱憤を晴らせる訳もなく


そもそもこんな不健康な体のなかじゃ
憂鬱も憤りも顔色が悪く
僕の知らない星の言葉で
栄養失調気味に何かを訴えるばかりなのです


冬になると星空を見上げたくなる
指先で星をなぞって星座を描く遊び
でも星に詳しくない僕にはオリオン座しかわからない


さそり座を見ると逃げ出す男
恋人の矢に射抜かれて死んだ男
その死には価値があった
だって死んでのち星座になったくらいだから


いっぽうワンルームの片隅で死をこいねがう僕は
じゃあなぜ生きているのかという問いに答えられず
なぜ死にたいのかという問いにすら答えることができずに
ただ何となく死ぬことを望んでいる


振り返れば焼け野原
前を向けば真っ暗
いま立っている場所には嵐が吹き荒れてあれここどこ?
いっそその風に飛ばされたいって思いながら
いざ飛ばされそうになると足を踏ん張っている矛盾


あんたは空っぽだから飛ばされそうになるのよと
元カノにそっくりな死神が笑う
僕はそうかもねと言って笑い返した
世界で最も不器用な笑い方で
そんな人間の生き死ににどれほどの価値があるというのか
天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず
と旧壱万円札の人はのたまったらしいが
それはみんな平等に価値があるのではなく
みんな平等に価値がないという意味だと思いませんか


空っぽな僕は
死にたいという気持ちで空っぽな器を満たして
無価値な死に向かって無価値な生を生きているわけですが
いったいこれを読んでいるあんたの
有意義な人生ってのにどれほどの価値があるっていうんですか
どうせ僕もあんたもあんたの子どもたちも
みんな死んで無に還るってのにさ


なんてことをうそぶいて
冷や汗交じりに貯金残高を確認することによって
僕は今日も何とか生きているのであります
何はともあれお金が必要だ


【自作まとめ】


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