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追いつめられたときの武藤くんが素敵すぎて、大好きになった話

noteを書くきっかけになった紹介と職場の同期の「武藤くん」との思い出について書きました。

先週からnoteを書き始めているわけだけど、そもそもなんで書き始めたのかというと、「岸田奈美」という方が「キナリ杯」というものを開催していることを知ったからである。

フェイスブックの知り合いや妻がnoteをやっていることを知っていたが、正直noteというものがどういったのかも知らなかった僕の前に、ある時「岸田奈美」さんが面白いnoteを書いた人に賞金を出す。という記事が飛び込んできた。
実際のところはそれが記事だったのかどうかも忘れてしまったが、その画面に何故か目を奪われてスクショをした僕は、まんまとnoteを書き始めてしまったのである。

最近節約に目覚めていた僕は、賞金というものによだれを垂らしてもいたし、面白い文章に賞金が出るという漠然としたものに、「なんかおっもしれぇんじゃねぇのぉ?」(石に話しかけるクリストフを見て、アナに話しかけたオラフのテンションで読んでね。)という知的好奇心を刺激されてしまった。ぐむ、負けた。
あまりそういうたぐいのものには引っかからずに人生を過ごしてきたというのに…。(ひどい言いようだけど正直な気持ち。)
まあ、それも「岸田奈美」さんの書いた文章をいくつか読んだときに感じた「文才の差」というか文章に対する無限の愛が溢れ出ている興奮パワーに引き寄せられたとも言えます。
それなりに文章を好きだと自負していたのだけど、それを岸田さんに遥かに凌駕されたことが少し悔しく、なんか負けたくねぇなぁ!というひねくれ野郎根性ひょっこりしたということもある。
10年以上前の大学時代に書いていたブログに費やしてきたエネルギーがふつふつと、まだ枯れてなかったのねあなた!という僕もびっくりしたパワーがひょっこりひょっこり2連発の登場をしてきたという理由もある。

さて、そんなnoteを始めるきっかけになった「キナリ杯」にどんな内容で応募しようかと悩んだのだけど、今日職場で久しぶりに会った彼の話にすることと今決めた。他のを書こうと思っていたのだけど、ここまで書いていて、なぜか彼のことを思い出したので彼にしよう。


さて、そんなこんなで前述した彼は武藤くんという。
武藤くんとは同じ会社に勤める同期である。同期で仲良くなったグループは10人くらいいるのだけど、その1人だ。
生気を失っているかのような暗い雰囲気を醸し出しつつも、人懐っこい笑顔で人気者の武藤くん。生気を失っているような雰囲気が出ているのは、毎晩夜中までゲームをしているからと知って、想像どおり過ぎて余計に好きになった。あと、よく寝癖が付いているのも高感度アップだ。僕は寝癖に弱い系男子なのだ。
そして、そんな武藤くんとは忘れられないエピソードがある。

あれは、社会人1年目の冬のこと。
仲良し同期グループで、冬にスノーボードに行こうとなった。
その年にスノーボードを始めた同期が多い中、唯一に近いくらい経験者だったのが僕だったので、ある程度僕がリードをしながら、その日はのほほんと大学生のようなノリでスノーボードを楽しんでいた。
同期の女の子とワンチャンあるんじゃねーかと思っていた男も多かったと思う。僕?僕真面目なんで。
そんなこんなで、そろそろ帰ろうかと最後の1本を滑っていたときに、誰かが「ちょっとジャンプ台をやってみたいな」という話になった。

スノーボードでジャンプ台を飛ぶということはそんなに簡単なものじゃないと僕は知っていたけれど、みんなが「ちょっとだけちょっとだけ」というので、行ってみることにした。
行ってみると、高いジャンプ台と低いジャンプ台があり、低いジャンプ台なら転んでも怪我をしない程度だったので、やってみようとなった。
僕が「最初は僕が行こうか?」と言ったときに、「いや、僕行くよ。」と言ったのが武藤くんである。おっ!以外なところで武藤くん?と思ったのを覚えている。
「気をつけてね!」と言った僕の言葉にしっかりうなずいた武藤くんは、なぜか高いジャンプ台の方にまっしぐら。
「え?なんで?」というパニックになる僕の前で、武藤くんはそれはそれはきれいに飛んだ。怪我というゴールに向かって飛ぶ姿は、いまも僕のまぶたに焼き付いている。伸身の新月面が描く放物線といい勝負だった。

慌てて駆けつけた僕の前でうずくまる武藤くん。
これはいかんとすぐに別な同期に声をかけてスノーモービルを手配させ、武藤くんに声をかける。武藤くんは「意外と大丈夫そう。」と言うけれど、スノーボードの怪我でひどくなるケースは重々承知だったの、「横になってて!」と僕は言った。それでも武藤くんは言った。
「たぶん大丈夫。立てそう。」
確かに立てるのあれば、それほど重症ではない可能性が高くなる。
「立ってみる。」という武藤くんの言葉を頼りに僕が腰を支えながら立つことにした。

立てた。武藤くんは立てた。「ほら大丈夫じゃん。」と武藤くんは言った。でも腰を支える僕の手には、いままでの人生で味わったことがないくらいのバイブレーションが響いている。携帯なんて全く敵じゃないバイブレーションだ。どうやったら人がこんなバイブ機能を手に入れることができるのか。人体の不思議を僕は実感した。
「武藤くん。たぶんこりゃだめだ。」「え?大丈夫だよ!立てるもん。」「立てることは分かったけど、たぶんこれはダメだよ。」「え?なんで」そんな武藤くんに、僕の手に伝わるバイブレーションがすごいからだよ!と言うことも出来ず、そのまま武藤くんを説得させて、スノーモービルで駐車場まで連れていき、すぐさま病院に連れて行くことにした。

病院には僕が付きそうことになったわけだけど、正直僕は「これはひどい怪我だなぁ。入院は間違いないとして、後遺症が残らないといいけど…」というレベルで心配をしていた。
武藤くんはというと、「明日からの仕事、大変なんだよなぁ。腰が痛くて先輩に迷惑かけちゃうかもなぁ。」なんて言っている。
いやあんた呑気すぎるよ!そういうレベルでは間違いなくねぇ!と確信を持っていた僕は、「いや、けっこう大変だと思うよ。」でも武藤くんは「いや、でも立てたしね!」と言っている。あれは立てたに入らねぇ。と思っていたけど、まあ変にマイナス思考にさせるのもなぁと思い、黙っていた。

そんなこんなでレントゲンをとり、先生からの説明のとき、「誰か一緒に症状の説明を聞く人はいるかな?」の言葉に、「じゃあ一緒に聞いて。」と言われる僕。武藤くんの明るい笑顔とは別に奥に見える先生の顔はマジである。超まじ。にやつきはゼロ。いや、聞きたくねぇ!でも聞くしかねぇ!

そんな僕たちの前で先生が言ったのは、背骨の一部が折れているということ。全治二ヶ月ということ。入院は短くても一ヶ月以上。もう少し違う骨が折れていたらもっと重症だったことである。

僕は少し覚悟していたけど、全く覚悟していなかった武藤くんは、それはもうまさにポカン。晴天の霹靂を食らうと人間ってこうなるんだぁ。っていう放心状態。そうだよね。明日は仕事に行けると思ってたんだもん。そりゃそうだ。

そんなポカンとしている武藤くんに、先生はいろいろ説明をして、最後に入院の準備を僕に持ってきて欲しいと言われた。それはもちろん取りに行きますよと強くうなずいた僕。
部屋を出ようとする先生だったけど、思い出したように「入院時はいろいろ薬を飲んだりするけど、今服用中の薬とか家にあるかな?あれば彼に持ってきてもらうよ。」と優しく言った。

武藤くんは、ぽーっとしている雰囲気だったんだけど、質問だったことに気がつき一生懸命考えてから、言った。
「いや、別に飲んでいる薬はありませんね。はい。ないかな。ないな。大丈夫です。あっ。でも…先生。僕コンタクトしてるんです。」と。

先生と僕の間で時間が止まった。僕はあれほど時間が止まった現象はあれが始めてだ。そしてそれより時間が止まったことはいまのところ経験していない。先生は、ちょっと口元がほにゃほにゃ動いていたけど、僕に小さい声で「コンタクト液、用意してくれるかな。」とだけ言った。僕は声を出さずにうなずいた。

人間、追い詰められたときに本性が出るというけど、怒ったり泣いたり悲観したりせずに、「コンタクトしてるんです…。」と言った武藤くんに、そのときからずっと僕は恋をしている。大好きだ。あれ以来、一生武藤くんを好きでいようと決めている。動転していただけだとは重々承知だけど、あの重苦しい雰囲気を吹き飛ばすなんとも言えぬ一言は最高だった。

ちなみに武藤くんは、驚異的な回復力を見せて、1ヶ月も立たずに退院したし、こっそり看護師さんと連絡先を交換してその後合コンをしていた。草食系のオーラを出しながら、実は肉食感を出す武藤くんも大好きだ。

いまとなると、なぜ大きいジャンプ台に行ったの?というそもそもの疑問があるわけだけど、そこに関しては全く覚えてないらしい。いやなぜ!寝てたのかよ!どういうことだよ!もう大好きだよ!

という、武藤くんとのエピソードである。やっぱり好きだ。
そんな武藤くんは結婚して子供もいて、僕の子供と同じ保育園に通っている。結婚相手は残念ながら看護師ではない。
ちなみに退院後も武藤くんはスノーボードを続けていて、今はジャンプ台もばんばん飛ぶくらい上手になっている。
僕はというと、それ以来ジャンプ台に行くことが嫌いになり、スノーボードは実質引退をしているんだから、人生って面白いなぁと思うわけだった。


こんな昔話でも、文章にするとちょっと変な感じで、覚えていなかったような細かいことも意外と覚えているなという気付きもあって、それも心地よかったりする。
noteに出会えてよかったし、当分は毎日書き続けてみようかななんて思っているところで今日はおしまい。
また面白いこと思い出したら書いていきたいな!

#キナリ杯

#思い出

#エッセイ

#武藤くん

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