フィリピンに漱石がいた
今日は、中秋の名月。
満月が佇むしっとりとした空です。
秋の満月を見て思い出すのは、フィリピンに短期留学していた去年のこと。
英語が大嫌いな私は、マンツーマンで逃げられないフィリピンの学校を選びました。
毎日6時間、フィリピン人の先生と2人で個室で話す日々。よくわからない戸惑っている私の、よくわからない英語を、一切バカにすることなく、凄腕のレシーバーのごとく拾ってはふわっと軽めのパスを投げてくれる、それはそれは人格が磨かれた先生たち。彼らのことが、大好きになりました。
満月の今日、思い出すのはある授業でのできごと。
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その日の授業では、「YESを意味する言葉」をたくさん教えてもらいました。
”Sure,とか”Certainly”とかです。
そしてその練習をするために、ドニー先生は質問役、私はイエスと答える役のロールプレイをしました。
例えば、
ドニー「あなたのペン使ってもいいですか?」
わたし「Sure!」
とかです。
その練習の最中にドニーから出てきた一言が、
「the moon is beautiful.」
ちなみにドニー先生は男性です。
「月が綺麗ですね」と、彼はわたしに言いました。
これは…‼︎⁉︎
かつて「I love you」というストレートな英語を、日本人らしいシャイ風味を加えて「月が綺麗ですね」と訳した方がいます。はい、文豪の夏目漱石です。
それを知っている彼は、この質問集に混ぜて、「月が綺麗ですね」と聞いてきたわけです。
会話の流れでは、わたしがイエス役ですから、このままイエスと言えば、「I love you」に答えたかたちになる。
「うぉぉぉぉ」
さっきまで、ペン借りるね?とか言ってた会話の中で、「月が綺麗ですね」→「は?なんだ?」→「え、まさか、漱石、、」→ドニー(にやり)→「まじかよ、え、言葉の逆輸入?」→「え、なに、粋すぎじゃない?」→感動。
頭がぐるぐるしました。
このようなハイコンテクストな例文が出てくるウイットに富んだドニー先生に、この日は一日中、心が踊っていました。
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今日の満月を見て、ドニーは今なにやってるのかなぁ、筋トレかなあ、と思いを馳せました。
中秋の名月はしばらくドニーの季語になりそうです。