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読書記録_005【三鬼 三島屋変調百物語四之続】

◆ 詳細
出版社:日本経済新聞出版(単行本)・KADOKAWA(文庫)
著者:宮部みゆき
出版社URL:
日本経済新聞出版→ https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/17141
KADOKAWA→ https://www.kadokawa.co.jp/product/321809000173/

◆ ポイント
・三島屋シリーズの4作目
・時代物だが読みやすい。
・4つの物語が集録されており、怖ろしい話だけでなく、バランス良くくすっと笑える可愛らしい話(第2話の「食客ひだる神」)もあるので、暗い気持ちに沈まないで読める。

◆ 感想
もともと極度の怖がりなので怪談やホラーはあまり読まないのだが、宮部みゆき氏の「三島屋シリーズ」だけは細々と読み続けている。
たぶん、怖ろしく哀しい物語だけでなく、くすっと笑える愛らしい話も集録されているからだ。そして登場人物の三島屋の人々も人情味があるからつい引き込まれてしまう。

それでも読んでしばらく経った後、ふと何かの拍子に思い出すのは、胸に冷やりとした感覚が残る物語だったりする。
とくに「三鬼」は、理不尽や業、悲しみが凝り固まった“モノ”が人々に「目を逸らすな」とばかりに残酷さを突き付けてくる。物語の結末も爽やかさはなく、もの悲しさとともに「これで終わりと思うな」と釘をさされたような気持ちになる。

けれど私は「三鬼」という物語をとくに愛おしく思う。
語り手(清左衛門)の妹の志津は理不尽な目に遭い、物語の中では言いようのないやるせなさや哀しさの象徴でもあるが、それと同時に大きな救いである。また、傲慢で気性が激しい利三郎の熱意の方向が、向くべき方向へ向いたとき微かな希望が生まれる。

とくに志津の髪の毛のくだりを思い出すとき、同時にアランニットやフィッシャーマンズセーターのことをつい連想してしまう。
(アランニットなどの縄状の編み目は、命綱や艫綱(ともづな)がモチーフとも言われており、危険な仕事へ向かう人への「無事に帰ってきて欲しい」の祈りでもある)

物語でも、現実でも、凝り固まった暗部は綺麗さっぱり拭い去ることは出来ない。これは三島屋シリーズのどの巻にも共通していると思う。
けれども、(これも私が好きなところなのだが)道理をわきまえ、地に足をつけた三島屋の人々は暗い部分に引きずられることなく、わりとあっけらかんとしている。

第一話「迷いの旅籠」の締めにお勝(三島屋の女中)がこう言う。
―― わたしどもはみんな、いずれ死ぬまでは、どうしたって生きなくっちゃならないんですから。

こんな風に現実的で、地に足をつけて生きている三島屋の人々と共に暮らしているからこそ、聞き手のおちかは怪談を聞き集めているにも関わらず、“あの世のもの”に引きずられることなく、きちんと“この世”に繋ぎ留められていたのではないか。「三鬼」を読み終えた後、そんな風に思った。

三島屋シリーズは怪談ではあるが、あっけらかんとした人情時代物とうまく調和しているからこそ読み続けられるのかもしれない。

【画像借用: https://www.pakutaso.com/photo/40021.html

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