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北鎌倉
緊急事態宣言中ということで、「不要不急の外出はなるべく避けるように」と、毎日テレビで呼びかけられてるが、はたして美鈴への買い物はどうだろう。たしかに、宣言が解除されれば、もっと気楽な気持ちで美鈴に買い物に行けるかもしれない。
どうしても、心の中に溜まったガスを抜かなければ私は大声で
『ギャー!』
と、見境もなく喚き散らすくらいに、ガスがたまっていたのだった。
どうしても、鎌倉の空気を感じないと、そして一人で鎌倉を歩かないと私はパンクしてしまう。あんなに好きな鎌倉を出ることになって5年、最初の1年は足を踏み入れることは悲しくて辛い事だったけど、たった1年だけど鎌倉で過ごした1年は忘れることはできない。今でも、私の魂は鎌倉に住んでいるのだ。だから、私は鎌倉に行くのだ。
しかし、美鈴に買い物に行くというのは託けた用事というわけではない。美鈴の季節の和菓子1月の『雪中の梅』を買いたいのだ。私の今年の目標は、毎月美鈴の和菓子を買って美味しいお茶と頂く、ということにしているのだ。それが生きる目標になっている。
なに?生きる目標とは大袈裟すぎないか?
いやいや、時として心のバランスを大きく失ってしまう私にとって、こういう目標を持つことは大事な事なのだ。
横須賀線に乗った私は、北鎌倉で降りた。
北鎌倉は、そろそろ梅の蕾が開き始めていている頃だろう。東慶寺に行ってみようか。駆け込み寺で有名なお寺だ。江戸時代の頃は東慶寺に駆け込み、そこから3年奉公すると離縁が成立したという。明治時代にいたるまでの約600年の間女性を助けるために開かれたお寺ということはあまりにも有名。
東慶寺は四季折々に花が綺麗なので、写真撮影に訪れる人も多い。きれいに手入れをしてあるが、手入れをしすぎていないというのもまた訪れる人の心を安心させるのだろう。銀杏の木の下には銀杏の葉が残っていたり、ホトトギスや水引の花もさりげなく色褪せてしまった葉を残しながら、ひっそりと庭に佇んでいたりする。草花の自然の姿を残している。もしかしたら、花は咲き終わった後が一番心に染み入るのではないかと思う。みすぼらしいと思ってそこで花や葉をさっさと消してしまうのか、あるがままの姿を見せながら、またそこから春へと息吹く命につなげてゆくのか。私は、こちらの方が好きだ。
境内のには紅梅と白梅があり、数輪ほど咲いている。マスクをしていので、香りがわからなかったので、周りに人がいないことを確かめながらそっと外すが、香りは微かに感じるくらいだ。2月3月と梅が咲きほこる頃には、境内は梅の香が漂っているだろう。本堂近くでは蝋梅がきれいだ。一番に春を知らせる花は梅の花なのだが、実は梅よりも蝋梅の方が咲くのは早い。そしてこの蝋梅もの香りもいい。蝋梅は、咲き始めてから花の期間が結構長い。
黄色の花があり、そのなかにポツンポツンと紅と白の花が青空に浮かび飛ぶ。いいではないか。
緊急事態宣言下なので、人もほとんどおらず、ひっそりとして空からはトンビの声が聞こえ、ここは鎌倉なのだと魂が大きく空気を吸い込む。
仏殿に上がり、釈迦如来坐像の前に座り目を閉じる。
心を鎮め願う。
『早く来世でTと巡りあえますように。そして、ずっと一緒でいられますように。』
この願いは、もう何遍も何遍も願ってきた言葉だ。もう、5年にもなる。
『うん?なんか、縁切寺にお参りして、縁結びをお願いしてる?!』
『わーっ!!いいのか!!!!!』
まあ、来世ということは、この世と私が縁が切れるということだから、それはそれで佳しということにしようと、勝手に自分で納得をし、東慶寺を辞した。
さて、次に行くとするか。美鈴に行くにはもう少し時間がある。