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死の誘惑

 死ぬことだけが希望だった。いつ終わるのか、この人生は、いつ終わってくれるのか。死を待つことができず、自らの手で終わりにしようと思ったことも一度や2度ではない。死の誘惑は、いつもわたしの隣にあった。薄氷の上を歩くように、生きてきた人生に未練はなく、地を這うように生きてきた自分に何の愛着もなく、惨めでどうにもできないこの生を全うすることは苦痛でしかないのだと、身を持って知っていた。

 身を投げて死のうと思ったことがあった。闇に囚われ、他には何も見えなくなった。わたしが死んだとしても誰も悲しむことはない。もっとも、誰かが悲しんだからと言って、わたしには関係がなく、死の誘惑に打ち勝つ理由にはならない。絶望が、生きる希望を上回り、誰が何を言っても届かなくなる。他人が納得できるような理由は、死を選ぶ人にはない。ただ絶望に取り憑かれて、希望の一切を失っている。その目には死あるのみ。

 死ぬことはできなかった。絶望はわたしを完全には包めなかった。死の誘惑に負けることはなく、わたしは地上に残された。それが喜ばしいことにはとても思えなかったあの時のわたしは、そのまま死を背負いながら生きながらえることになった。それは新しい苦痛の道。希望のない暗い道。神様はわたしをみて、死からは回避してくれたけど、その頃のわたしにはまだ示されなかった。その存在を。

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