『薔薇の花束』#03
渡されたノートには、わたしを想う気持ちがつらつらと綴られていた。と言っても読んだのは帰ってからで、その場では「後で読むね」と言って鞄にしまった。
そうしたらちょうどカレーが来た。お腹が減っていたわたしはとにかくカレーを頬張った。目の前の男のことを少しでも忘れたかった。
彼のスプーンを握る手は震えていて、一応緊張していたらしいことが分かった。じゃあこんなことしなきゃいいのに、と思ってしまった。
彼は食事の仕方があまりきれいではない。音は立てるし、ご飯粒を残す。猫背で犬食いっぽいのも見ていて気持ちよくなかった。そんなことは前から知っていたのに、その日は彼のそういうところにすごく苛立った。
食事を終えて展覧会に行った。かなり人がいて、ろくに観られなかった。
美術館の企画展なんかではよくあることで、慣れているはずだった。でもその日は、無駄な時間を過ごしているような気持ちになってしまった。
とにかくわたしは、帰りたかった。一秒でも早く、彼と過ごす時間を終わりにしたかった。
展覧会の後は、古本屋を巡って、あてもなく散歩した。夕飯のことを切り出された時、「ご飯、家で食べるってお母さんに言っちゃった」と嘘をついた。
彼とは御茶ノ水駅の前で別れて、わたしは新御茶ノ水駅から帰った。11本の薔薇の花束を抱えて、独りで電車に乗った。
酔っぱらいのおじさんに「うわ~、幸せ者だあ~」と言われて、2人組のマダムには好奇の視線を向けられた。薔薇の花が美しくなかったら、今すぐ線路に投げ出してやるのに、と思った。
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