『薔薇の花束』#05
送られてくる詩を読んでいてわかったのは、彼はひどくロマンチストでナルシストである、ということだけだった。
文字で表現されているのは、いつだってわたしの美しさや尊さだった。でもそれは、あくまで表面的なものに過ぎなかった。
彼は自分に靡かないわたしを「美しくも残酷な女神」に仕立て上げ、その「女神」に恋焦がれる自分を「盲目の恋をする愚かな男」と位置付けた。
彼は、盲目の恋こそ美しいと考えていた。それはもはや信仰のレベルで、彼にとって盲目でない恋は汚らわしいものだった。
わたしは彼の「盲目信仰」が、とても気持ち悪かった。
「僕はこれほどまでにあなたを愛している!」
「あなたが振り向かないから、僕はずっとあなたを好きでいられる!」
「周りの人間は盲目だと笑うだろうけど、これこそ真の愛だ!」
うるせえ黙れ!!!結局お前はわたしのことが好きなんじゃなくて盲目の恋に溺れる自分のことが好きなんだろ?決して振り向かないとわかっていても女に愛を伝え続ける自分が美しいと思ってるんだろ?近代文学に憧れて、頭のおかしい文豪になりたくって、自分で脳味噌壊死させて目隠しして、イカれた天才になったつもりでいるなんて痛すぎる。僕はこんなにあなたが好きなんですって一人で盛り上がって気持ちよくなって、オナニー見せつけられるこっちの気持ち考えたことあんの?愛を伝えたいなんて口実で、本当はどうしようもなくロマンチストな自分に酔いたいだけなんだろ、もうたくさんだよ、他人の自己愛に付き合ってるヒマはないんだよ。だいたい、ひとめぼれしたあの子からわたしに気持ちが移ったみたいにどうせまた違うひとを好きになるよ。君はいつだって自分はその辺の男とは違うといって、ゲスな男子大学生を軽蔑していたけれど、君もそいつらと変わらない軽薄な人間だよ。これからもそうやってエゴの押し付けを恋と呼んで、四畳半でするエモいセックスに憧れながら生きていくんだよ。
とは、さすがに言えなくて。
「君は、盲目の恋を信仰して、自分で目隠ししてるだけだよ」
とだけ送った。
返事は短くて、もう消してしまったから覚えていないけど、末尾には「サヨウナラ」と書いてあった。
そういう、敢えて片仮名をつかうところ、心底嫌いだなと思った。
終
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