『薔薇の花束』#04

後日、彼からまた誘いが来た。「文豪をテーマにしたバーに行きませんか」と。

あんなことしておいて、当たり前のように次の約束をしてこようとするなんて、と思ったが、わたしは彼にきちんと返事をしていなかったことに気づいた。

「返事を書くから、それまで待って」

そう言ってわたしは、問題を先送りにした。


彼から渡されたノートには、まだまだ空白のページが残されていた。手紙には、交換ノートみたいに、お互いの詩や文章で埋めていきたいと書かれていた。わたしが文章を書くのが好きだということは、黙っておけばよかったなと思った。

初めは手書きで返事を書いていたけれど、だんだん面倒になってしまって、Wordに打ち込むことにした。


いろんな音楽や小説を教えてくれたことは感謝しているということ。詩作の才能は尊敬しているということ。11本の薔薇の花束は重すぎたということ。あなたと恋愛関係になるつもりはないということ。


伝えたいことを、できるだけ簡潔に、冷徹さをもって書いた。

プリントアウトした手紙をノートと一緒に返した。これで終わった、と思った。晴れ晴れとした気持ちだった。わたしの返事を読んだ彼が、LINEを送ってくるまでは。

返事が来た時、しつこく迫られたらどうしよう、と身構えた。なにせ予測不能な人間だから、また突飛なことを言ってくるかもしれない。でも彼からの返事は、いたって普通の、振られた人間らしいものだった。

「付き合うことができないのは悲しいけれど、それでも僕はあなたが好きです。次に会うときは、笑顔でいられたらと思います」

かなり要約するとこういう内容で、わたしも無難に「ごめんね。これからもよろしくね」と返した。拍子抜けしたが、今度こそ心の平穏がやってくると思うと嬉しかった。


これで終わるはずだった。でも彼は詩人で、創作をする人間で、まともではなかった。

その日から定期的に、詩が送られてくるようになった。内容はもちろん、愛や恋について。

初めは面白がって、毎回読んでは適当な感想を送っていた。でも、だんだんと、わたしの心は疲弊していくことになる。

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