『オニキス』#02
カラスが住んでいるのは、渋谷駅から少し飛んだところにある大きな公園です。
この公園にもヒトは来ますが、皆芝生に寝転んだり、何か道具を使って遊んだり、駅前よりも穏やかに過ごしています。カラスはこの場所が大好きでした。
虫やミミズでお腹を満たしてから、カラスは住処に戻りました。
そこには、カラスが今まで地道にあつめてきた宝物が所狭しと並べてあります。
たとえば、渋谷の路地裏で拾った穴あきの円盤。これはヒトの服によく付いています。貝殻の内側のように、七色に光るところが気に入って大切にしていました。
海で見つけたガラス片は、ヒトの子どもたちも集めていました。彼らは青や緑を見つけると喜んでいましたが、カラスは茶色だって美しいと思っていました。
動物園へ行ってみたときは驚きました。クジャクというたいへんに美しい鳥がいたのです。カラスはクジャクにお願いして、羽根を一本貰いました。クジャクは「王さまにでもなりたいのか?」と笑っていました。
一番のお気に入りは、大きなラブラドライトがはめ込まれた指輪です。
むろんカラスは石の名前など知りませんでしたが、光によって表情を変える青色がモルフォの翅のようで本当に美しいと感じたのです。
指輪は、この公園で拾ったものでした。
海で拾った白いサンゴに掛けて、大切にたいせつにしていました。
宝物をしばらく眺めていると、住処の下の草むらで何かが光を反射しました。
コレクションが増えるかもと思ったカラスは、うきうきして下へ降りました。
そこにあったのは鏡でした。
ヒトのメスがよく使っているのを見ていたので、それが自分の姿を写すものだと知っていました。
カラスは鏡が嫌いでした。
正確には、鏡に映る、真っ黒で、美しい模様も日光を跳ね返す輝きもない自分の姿が、嫌いでした。
カラスはしばらくの間、じっと鏡を見つめていました。
すると自分の心が少しずつ澱んでくるのを感じて、慌てて住処に戻りました。
「せめて、心だけは美しくなくっちゃ…」
自分の生まれを嘆いても、誰かのことを妬んでも、何にもならないということは、いやというほどわかっています。
カラスはラブラドライトの指輪を磨いて、その日はいつもより早く眠りにつきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?