『七月大歌舞伎 夜の部 平家女護島~俊寛』の話
どうも、私です。
今日は、「念願が叶った話」をします。
お付き合い下さい。
◆
『大阪松竹座開場100周年記念 七月大歌舞伎』開催を知ったある日。
姉「松竹座に来い、松竹座に来い、松竹座に来い、松竹z…」
私「やだ、怖い」
姉「仁左衛門さん、お願いします!!!!!」
私「本当に怖い」
姉が狂ったように、大阪松竹座に来てほしいと願っている人。
それは、片岡仁左衛門さんだ。
『仁左衛門さんショック』以来、姉はあの日の絶望感を思い浮かべては引き摺っていた。
どれくらいかと言うと、買ったばかりの『桜姫東文章』のBlu-rayを見ずにいるくらいには引き摺っていた。
(↓『仁左衛門さんショック』については、こちら)
姉「あわよくば、仁左玉を見たい!」
私「欲が凄いけど、気持ちは分かる」
姉「でも場所が松竹座だし、上方歌舞伎の人だから、仁左衛門さんだけでも来てほしいんじゃ!!!!!」
私「もはや狂気的だよ、お姉ちゃん」
姉「だって、見たい!!!!!」
と開催決定だけで騒いだその数日後、出演者と演目の発表となった。
そこには、穏やかな表情の写真と共に、こう記されていた。
『夜の部 平家女護島~俊寛
俊寛僧都 仁左衛門』
私「結果発表!!!!!」
姉「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
人は、本当に驚くと「うわぁ」と言うらしい(私調べ)。
それから、大阪松竹座の席を購入。
あらすじの予習以外の情報を徹底的にシャットアウトした姉とともに、当日を迎えた。
姉「仁左衛門様♡」
私「乙女なんよ」
この日の大阪松竹座は盛況で、中には浴衣を着て来場していた人も多数見られ、どの人も素敵で目を奪われた。
姉「浴衣で歌舞伎っていいよね」
私「最高」
そんなやり取りをしながら、私達は番附(パンフレット)を買うと、花道近くの席に着いた。
姉「思ったより、ここから舞台まで近い」
私「良く見える席だね」
思っていたよりも客席から舞台まで近い距離だったのもあって、私達の緊張感はさらに増した。
姉「ヤバい、緊張してきた」
私「私も」
と囁き合っている間にも、客席内に緊張感と期待が膨らんでいく。
そして、開幕を告げる拍子木の音が鳴った。
※ここからは、ネタバレになります。ご注意下さい。
『平家女護島~俊寛』
流人の島での日々
流人の島、鬼界ヶ島。
そこには、平清盛に謀略を働いたとして流罪を言い渡された、俊寛僧都(片岡仁左衛門さん)、丹波少将成経(松本幸四郎さん)、平判官康頼(嵐橘三郎さん)が暮らしていた。
姉「仁左衛門様……!!」
私「……!!」
開幕して間もなく。
ひとり、杖をつきながら登場した俊寛の姿に、拍手と「松嶋屋!」と大向うが飛び交う中、私は思った。
片岡仁左衛門さんは、実在するんだ……!!
都で暮らしていた頃と違い、衣食もままならない状態で過ごし、いつか許されることを希望に3年の月日が経ったある日。
成経「妻に迎えたい人が出来ました」
と成経が海女・千鳥(片岡千之助さん)を連れて来る。
恥ずかしがって立ち去ろうとする姿が可愛らしくて、客席は笑顔で包まれる。
姉、私「千之助さん、可愛い」
千鳥が加わり、笑顔に溢れる一同。
俊寛「これからは、4人で家族同様に暮らそう」
と盃代わりに貝殻、酒代わりに清水でささやかな宴を始める。
やって来た、赦免船
その矢先、赦免船がやって来た。
俊寛達は待ち焦がれていた船の姿に、手を振り、叫ぶ。
間もなく到着した船から、使者・瀬尾太郎兼頼(坂東彌十郎さん)が下りてくると赦免状を読み上げた。
瀬尾「今から名を読み上げる者は、都への帰還を許す。丹波少将成経、平判官康頼」
成経、康頼「ありがとうございます……!」
俊寛「私は……?」
瀬尾「お前の名前はない」
俊寛「そんなはずは……!」
瀬尾「ないものはない。自分の目で確かめろ」
食い下がる俊寛に、瀬尾は赦免状を見せる。
俊寛「私の名前が、ない……!」
瀬尾「お前だけは都へ帰さぬ、と清盛公が決められたのだ」
赦免状を手に、絶望に打ちひしがれる俊寛。
俊寛から赦免状を取り上げ、冷酷な表情を浮かべる瀬尾。
姉「彌十郎さん、腹立つなぁ←」
私「俊寛も乗せてよ……」
そこへ、新たに使者・丹左衛門尉基康(尾上菊之助さん)がやって来る。
丹左衛門「今から名を読み上げる者は、都への帰還を許す。俊寛僧都」
俊寛「では、3人共、都へ……?」
丹左衛門「重森公と教経公の温情により、決まったことです。さあ、船に乗って下さい」
都への帰還に喜ぶ俊寛、成経、康頼。
3人は喜び合うと、千鳥も連れて船に乗り込もうとする。
鬼がいるのは……
赦免船に乗ろうとする4人を、瀬尾が止める。
瀬尾「その女は、誰だ。赦免状に名のない者は、乗せられない」
成経「私の妻です。どうか乗せて下さい」
瀬尾「どんな理由があれ、女は乗せられない」
成経「そんな……!では、私を妻と島に残して下さい!」
俊寛「2人が戻らないなら、私も戻らない」
康頼「私もです!」
瀬尾に抵抗し、千鳥を守るように身を寄せ合う俊寛達。
その姿に、丹左衛門は提案した。
丹左衛門「瀬尾殿。今日のところは都に戻らず、皆を説得してから船で戻られては?」
瀬尾「それは、役人として出来ない」
提案を拒否すると、瀬尾は説得どころか俊寛にある事実を告げた。
瀬尾「俊寛、聞け。お前の妻、東屋は清盛公の意に逆らった。だから、お前の妻の首は切り落とされた」
俊寛「何ですって……!では、妻の東屋は……!」
呆然とする俊寛と共に、成経、康頼を瀬尾は船に無理やり乗せる。
それを見ていた千鳥に、丹左衛門は声を掛けた。
丹左衛門「今は、耐えて下さい。必ず、迎えの船をよこします」
瀬尾「その必要はない。罪人を連れて都に戻る以外に、私達の役目はない」
無慈悲にそう言い、千鳥を追い払う瀬尾。
船に乗り込む一行を見送った後、ひとり残された千鳥は、
千鳥「ここは鬼界ヶ島という名の島だけど、ここに鬼はいない。鬼がいるのは都」
と岩に頭を打ち付ける。
この時に見せる千之助さんの舞の美しさに、「松嶋屋!」と大向うが飛ぶ中、私達は食い入るように見つめた。
決闘
千鳥の姿を見た俊寛は、船から下りると言った。
俊寛「私が、島に残る。だから、あなたが都に行きなさい」
千鳥「でも……」
俊寛「都に戻っても、妻はもういない。だから、私の代わりに都へ」
異変に気づいた瀬尾が、船を下りて来る。
いらんことすな←
瀬尾「何をしている。船に戻れ」
俊寛「瀬尾殿。私が、この島に残ります。ですから、この娘を都へ」
瀬尾「無理なものは無理だと言っているだろう!」
俊寛「ならば……!」
と俊寛は、瀬尾の刀を奪い斬りつけた。
騒ぎを聞きつけ、丹左衛門、成経、康頼も駆け付ける。
刃を交わしつつ、傷を受けた瀬尾は丹左衛門を見た。
瀬尾「丹左衛門殿、助太刀を」
丹左衛門「これは、私情のもとで起きたこと。手出しは無用」
瀬尾「何だと……」
千鳥「助太刀します!」
俊寛「駄目だ。あなたが手を出してはいけない!」
助太刀しようとする千鳥を止め、刃を交わす2人。
そして俊寛が瀬尾を刺すと、丹左衛門が叫んだ。
丹左衛門「それ以上、罪を重ねてはいけない!」
俊寛「私は、上使を斬った罪人です。瀬尾、受け取れ!」
そう言うと、俊寛は瀬尾に止めを刺した。
俊寛「この罪は、鬼界ヶ島で償います。ですから、この娘を私の代わりに都へ連れて行って下さい」
丹左衛門「しかし……」
俊寛「都へ連れて戻るには、3人いればいい。この娘を入れれば、成経殿、康頼殿を合わせて3人になります。ですから、私を残して都へ」
丹左衛門「…分かりました」
丹左衛門の指示で、千鳥は船に乗せられる。
別れを惜しむ船に向かって、俊寛は何度も声を掛け、手を振った。
俊寛「おーい!」
成経、康頼、千鳥「おーい!」
と繰り返すうちに、段々と船が遠くなっていく。
耐えきれなくなり、海に入るも、追いつくはずもない。
俊寛はひとり、松の木に縋り、高台に登ると何度も声を掛けた。
終演後。
姉「俊寛が可哀想すぎる……!泣」
私「もう無理だ……」
姉「でも、生で仁左衛門様見られた……♡」
私「これは、夢かな?←」
姉「夢だね←」
と幕間に入った客席で、姉は泣いては落ち着きを繰り返し、私は呆然としていた。
姉「菊之助さんがいい声すぎる。ティーダだったのに」
私「ね!ティーダだったのにね!」
姉「彌十郎さん、ジェクトだったのにね!」
私「ね!!!!!」
『FFⅩ歌舞伎』での菊之助さんと彌十郎さんの活躍を思い出して、ジーンとしたのも束の間、姉は言った。
(↓お2人が父子を演じた『FFⅩ歌舞伎』についてはこちら)
姉「にしても、彌十郎さんが演じてた瀬尾、腹立つわ」
私「真面目な人だし、間違ったことをしてはないんだけど、東屋の件とか無理。腹立つ」
ちなみに番附内のインタビューで、彌十郎さんは言っていた。
彌十郎さん「瀬尾役は、とにかく憎々しく演じようと思っています」
彌十郎さん。
私達、あなたの思う壺にはまったようです。
姉「あとね、むぎちゃん」
私「どした?」
姉「お姉ちゃんは、俊寛を観たことにより、もう限界を迎えました」
私「何が?」
姉「清盛に対するヘイトです。小5のときに歴史で初めて知って以来、溜まりに溜まっていたんですけど、今日限界を迎えました」
私「あーあ」
姉「清盛を好きな人がいたら申し訳ないけど、小5からずっと思ってたんです。蓋を開けてみれば、清盛が全部悪いって」
私「なるほど」
清盛が今、目の前に現れたらグーパンや。
それは、そう←