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普通ってなんなんだろう
わたしの親友はカフェ店員をしている。
カフェでケーキを作ったり珈琲を淹れたり働いているふりをしたりしている。
いつも文庫本を片手にマンデリンと彼女が作っているケーキを頼み、小麦色の肌がキラキラと輝いている塩顔の男性に恋のような恋ではないような恋をしていた。
自分のタイプの男性が珈琲を飲みながら文庫本を読む姿はきっとかっこいいだろう。
マンデリンを飲むなんて大人だなと思う。
彼女は自分のお店を出すという夢いよいよ叶える決断をし、今のカフェを1月いっぱいで退職することにした。
カフェをやめるということはもう彼に会えなくなるということだ。
結構前から連絡先を渡すように言っていたが、なかなか渡せずに1月が終わろうとしていたがなんだかんだあり無事に渡せた。
彼女はここ5年ほど男っ気なく暮らしていたので、彼女にとっては大きな転機の訪れだ。
名刺を渡した4日後にデートの約束をした。
デートの約束が早すぎて驚いた。
好きな人との初デート前には美容室にいったり、新しいお洋服を買いに行ったり、エステに行ったりなにかと女子はやることが多いのに。(人によるのだろうけど彼女のその辺は知らない。)
カフェに行く予定は立てていたが、お昼ご飯のお店を決めていなかったので彼女が好きな食べ物を聞いた。
「好きな食べ物ありますか?」
「チキン南蛮が好きです。」
「わたしもチキン南蛮好きです。」
「同じですね」「ではチキン南蛮を食べに行きましょう」で話はまとまると予想するが
「チキン南蛮ってお皿含めて色鮮やかで、食べる前から多幸感いっぱいになります」
と返事が来た。なんてご丁寧な方なのだろう、チキン南蛮で話を広げてくれようとしたのだろうか。
多幸感と言う言葉を日常会話に組み入れるなんてきっと頭のいい方なのだろうと思う。
いよいよ決戦の日。
1軒目のカフェに到着し、お互いベラベラ話すタイプではないので盛り上がりには欠けたらしい。
彼の名前はサトーさん。わたしたちよりふたつ歳が下で農家のお仕事をされているらしい。
だから小麦色の肌なのだと納得する。
サトーさんが車をだしてくれているからと思い彼女が率先してお会計をした。特にお会計あるあるの「いやいいですよ」のやり取りはなく彼女がスムーズにお会計を済ませた。
そしてサトーさんから「ごちそうさまでした、ありがとうございました。」と言う言葉はなかったと言った。男が奢るとかの時代ではないのだろうけど、御礼の言葉も含めモヤモヤとする気持ちもあるがわたしは第三者の立場なので何も言わないでおく。
サトーさんは道の駅で野菜を買うのが好きらしく、カフェから50分ほど離れた道の駅に向かった。
サトーさんの買い物を済ませ、すぐ近くにいつも通っている図書館があるのでついでに文庫本の返却をしたいとのことで向かった。
近くでチューリップ畑が開催されていて、なんともデートにはもってこいのイベントではないか。
ナイスチューリップ畑。
咲いていなかった咲いていなかったチューリップの花が、並んではいたらしいが全部蕾だった。
でしょうね。まだ寒いですもんね。
「まだ蕾でしたね」
「そうですね」「少し早かったですね」で話はまとまると予想するが、花壇の隅っこに貼られていた赤白黄色のパネルを見たサトーさんは
「このパネルの色はチューリップの色を表しているのでしょうか?」
そうでしょうね。
2軒目のカフェはカウンター席のサイフォン珈琲のお店だった。
サイフォン珈琲はぐつぐつと沸騰した蒸気で珈琲を抽出する理科の実験のようなかっこいい形をしていて、見るからに熱々の珈琲を冷まさずにサトーさんはズズっといき、「熱っ!」と言った。
そうでしょうね。
サトーさんは上に生クリームがのったタルトをフォークで半分に分けていた。
片方のタルトが倒れてしまい、生クリームとタルトが分裂してしまった。
特に盛り上がらない会話の中もくもくとケーキを食べていたがそれを眺めていたサトーさんは
「見てください!すごく芸術的じゃないですか?」
わたしはそれを芸術的と例えるサトーさんのことを面白い人間だと思い結構好きになった。
しかしこのコメントに対してつまらない男だと思う人もいるのだと思う。
お会計は2600円。先程彼女が出したので流れ的にはサトーさんだと思ったが、サトーさんは1600円を置き残りの1000円は彼女が出した。
「さっきだしてもらったので」とサトーさんが流れ的に支払うと自然と思ってしまうわたしは嫌な女なのだろうか。世の中の暗黙のルールをすんなり破るサトーさん。なるほどなるほど、わたしは第三者の立場なので以下同文。
近くの大きなゲームセンターに行きたいと行ったサトーさん。彼女もゲームセンターは好きなので乗り気で行ったが、ほぼ彼女だけ機械にお金を注ぎ込みなにも取れずに終了。
サトーさんは商店街で散歩するのが好きらしく、今度は商店街に向かった。
和菓子が好きと言っていたので、彼女おすすめのいちご大福が美味しいお店に向かった。
彼女は実家暮らしで家族の手土産に2個購入した。
しかしサトーさんは購入する様子を見せなかったみたいなので、家族の手土産に買ったいちご大福を1個サトーさんにあげた。
おすすめのお店を教えてもらったら自然と購入するのが普通だと思っているわたしの価値観はおかしいのだろうか。
記念すべき彼女の初デートはこんな感じで終了した。
サトーさんは悪い人ではないのだろう。
次のデートの約束もしているので様子を見ようという結果になり彼女との電話を切った。
普通この流れだったらこうだよね。とか、普通はこうするよね。とか、わたしと彼女の普通は似ているけれど、彼の普通はわたしたちの普通とは違うのだろう。どちらの普通が良い悪いではない。
それがその人にとっての普通なのだから。
しかし人は普通の価値観が似ている人同士が仲良くなっていく仕組みになっているのだろうと思う。
会話を弾ませようとした彼女
「好きな珈琲なんですか?」
「マンデリンです」
そうでしょうね。