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ビリーブできないアイビリーブ

「癒される人ができました」と奴から一通の連絡が入った。

奴は現在カフェ店員をしている。
最近マンデリンの珈琲だけを飲みにくる若い男性のお客さんがいるらしい。彼が奴の癒しの存在だ。

奴とわたしは基本的に数日おきに連絡をだらだらとずっと取り合う仲だ。
特に用事はなく、大した内容でもなく、ただ何かあればXのようにつぶやくやり取りをする。
奴とは約10年の付き合いになるが、わたしは奴の恋愛事情を全くしらない、奴は基本的に自分の恋愛事情は全く話してこないのだ。
どうでもいい事は常日頃話してくるのに恋愛事情だけは絶対に話してこない。
そんな奴が「癒される人ができました」と言ってきたのには少し驚いた。
話を聞いてる限りそれは恋では?と思う。
「気になってるぐらいかな」と言っていた。
わたしの辞書では「気になる」は「好き」だからそれは「好き」でいいと思うよと言ったけれど、奴は否定するのでそれ以上は何も言わない事にした。

後日、奴から「占いに行ってきた、今は恋愛しない方がいいらしい」と連絡が来た。
わたしの経験上、恋をした女の子はみんな早々に占いに走っている記憶がちらほらあるので、やはり「それは恋では?」と言った。それでも奴は否定した。

とりあえず気になってるのならば話しかけて仲良くなるように言った。
緊張して話しかけれないらしい。
いや、それはもう恋だよ。
わたしならその日に口説きにかかっているだろうなと思った。
普段は適当で能天気そうに見える奴だが、意外と繊細で控えめな性格でもあるので、わたしは奴から話しかけれるのか少し心配だった。

「明日話しかけてみる」と言ったので、「無理やったって返事がくるのが目に見えてるけどわたしはあなたを信じている」と送った。

翌朝「アイビリーブ」とだけ連絡が入っていて、奴はその日の仕事に挑んだ。早朝から笑った。
これほどビリーブできないアイビリーブは今までにあっただろうか。

その夜、「いつもありがとうございます」って言ったと報告がきた。
それは店員さんのセリフだよと思ったが奴なりに頑張ったのでわたしは褒めた。

その後も彼が来ては、奴は緊張して手が震えただの報告をしてくる。わたしはそれを聞くたびに可愛いなと思う。しかしなぜか好きとは認めないのだろう、めんどくさい女だ。

それから1ヶ月経ったころだろうか、もうちょっと無理かもと奴が言ってきた。
この短期間で奴はマッチングアプリに登録したらしいく、そこにマンデリンお兄さんがでてきたと言う。

「え!ラッキーやん!マッチングしちゃいなよ!」
「いやぁ、なんか、なんか、なぁ…」

どうやらなんか、なんか、らしい。

マンデリンお兄さんのプロフィールの自己紹介文を見せてもらった。
全ての文に、「仲良くなりたいですー」「◯◯ですー」と語尾が全て「ー」だった。確かに、なんか、だ。
おまけに広島県出身のB型だった。
わたしは広島県出身B型の男に嫌な思い出があり、それ以降広島県出身、B型の男に偏見がある。
(広島県出身B型の男性がいらっしゃったら申し訳ございません)
奴は広島県出身B型男に特になにも害を与えられてないがわたしが当時あまりにも病んでいたのに影響を受けたのか、広島県出身B型やねん〜と言っていた。しかしわたしは進めなかった。

「またいい人に出会うよ、やめとこ」と微笑み
「そうする」と微笑んでいた。

奴の久しぶりの恋は儚く終わった。

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