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曇天
とある夏の午後。仕事中、僕は営業回りで街中を歩いていた。
ため息混じりに深呼吸を繰り返し、ここ最近の会社での成績のせいか重い身体が僕を前に進めなくしていた。
ふと、ビルとビルの間に広がる空が視界に入った。今日は曇天だ。それも物凄く雲が厚く地面まで来そうなくらいにどんよりしている。
今にも空が泣き出しそうだ。
僕の前を歩く人達の後ろ姿も何処となくどんよりしていて疲れきっている気がした。
世界はこんなにも息苦しい所なのか? そうだよ。皆、不安や不満を背負いながら生きているのだ。そう思うのは僕自信がうまく行ってないからに違いないのはわかっているが。
晴れそうにないこの道でこの人の流れに沿って歩いてく僕達はいったい何処にたどり着くのだろう?
なんて事を勝手ながら思ってしまう。
はぁー、疲れたなぁ、ここ最近良いことないなぁ。と思いながら周囲の様子を伺いながら歩いてく。
しかし、そもそも良い事とは何なのか? 今までどんな事があった? 働く歳になってからそんなことを真剣に考えている僕はいっちゃっているかもしれない。それすらわからないとこまで僕は病んでしまっているのであろう。
だからといって、どうにでもなれって全てを投げ出すほど僕はもうガキじゃない。辛い事を我慢して生きて行くのは大人の当たり前だ。だから僕はこの道を歩いている。
前に歩いているあの人もそうであろう。
前から僕達とは反対方向に若者男女の4人が歩いてきた。楽しそうに今でいう、キャッキャしている。
すれ違い様に4行の会話だけ聞こえてきた。
「きっと楽しくなるよな!」
「そうだね。」
「これからがすげー楽しみじゃん!」
「私も絶対行く!」
何の話をしているかはわからなかったけど凄い盛り上がっていた。
僕にもこんな時代はあった。これが若者である。
世界は明るく希望に満ち溢れている。僕もそこまで歳が離れてはいないと思うけれどなんか違う世界に飛ばされてしまった感じがした。
もう戻る事はできない世界に別れを告げてしまったようだ。
足軽にすれ違っていくこのグループに何の感心もないがふと振り返ってしまった。
そのグループの楽しげな後ろ姿はその周りの街の風景すら変えてしまうくらいキラキラしていた。
そしてそこのビルとビルの間に広がった曇天は明るかった。これから先、雨など降りそうにはなかった。
同じ曇天なのに前と後ろでこうも違うものなのか?
僕は少し、「くすっ」っと笑ってしまった。そして心も少しだけ明るくなった。
見るところを少し変えるだけで気分は全然違うものになる。
また振り返り、僕は歩き出す。
そして泣き出しそうな曇天を見つめて。
「これも今だけだね。明日はきっと晴れるかも。」 完