【オリジナル怪談】古いホテル
あれは大学4年の冬だったと思う。
Dとは当時内定もらってた企業の内定者の懇親会で出会って、
たまたま地元が同じということで盛り上がって、地元で何回か会ううちに付き合うことになったんだけど。
Dとバレンタインはちょっと遠出しようって話してて、俺らの地元から国道をまっすぐ2〜3時間ぐらい走ると某県のまあまあ大きいYって街に繋がってるから、
俺の車でバレンタイン前日の夜に
地元を出発して、
その国道をまっすぐ走ってYっていう街まで、
ドライブしてYで一泊して、翌日観光しようって話をしてたんだよ。
で、当日、お互い夕飯も済ませて風呂入って後は寝るだけの状態にしてから、
予定通りDの家でピックアップして、
近所のドンキで飲み物だったり宿で飲み食いするもの買って、夜11時ぐらいに出発したんだよな。
他愛もないカップルみたいな会話をして、
まあ当時若かったからさ適当にYについたらラブホ見つけて入れば良いねなんて言っててね。
多分実際Yについたのは夜中の1時半から2時ぐらいだったと思うんだ。
Yの街中の近くのラブホはバレンタイン前日ってことでなかなかどこも空いてなくて、隣のKって街のラブホで1件だけ空室表示のとこを見つけて、入ったんだよな。
なんかノスタルジックと言えば聞こえは良いけど、昭和な感じのホテルで、
車を止めてフロント行って、部屋パネルで部屋選んだら後ろのフロントの婆さんから鍵をもらうシステムだったと思う。
なんかやたらとフロントが白い蛍光灯に照らされて、明るくて、
少しコケが生えた熱帯魚の水槽がウィーンってヒーターと濾過器の音をさせながら置いてあったのを覚えてる。
あと、やたらとエレベーターまで向かう途中物が雑に積まれてて、ラブホというよりは地方の安ビジホみたいな感じだった。
エレベーターも少し古ぼけてるんだけど、
なんかビジホぽさのが勝ってて、
てか、全体的に昭和だなあって印象だった。
エレベーターのボタンを押して、
チーンって音と共にドアが開いて、
俺らの部屋の階を押す時には、
ガシャンってエレベーターのドアが閉まってね、
ゴゴゴゴゴゴってめっちゃ揺れながら、
しかもやたらと遅いエレベーターだった。
なんつーか怖いというよりも、
古くて大丈夫かこれ?って感じでね。
で、俺らのフロアに着いたら、
まあラブホらしく、ちょっと薄暗くて、
真っ赤な絨毯が引かれてるんだけど、
全体的に暗いって印象。
俺らの部屋の入り口前のランプだけ光ってて、
「おーこの部屋だ」なんて言いながら部屋に向かって、鍵を刺して、
中に入ったら、まあ電気はついてたから部屋の中身の全体は見渡せるんだが。
皮がめくれてるボロボロの赤いソファに、シミだらけの絨毯、
大きいベットは意外とシンプルで枕元に色々なボタンがついてて。
当時すでにだいぶ減ってたブラウン管の箱型のテレビが置いてあって、
ザ昭和って感じ。
最近のラブホって部屋に入った時にテレビが付いてて、テレビで色々なメニュー選べたりすると思うんだけど、まあそんなものは当然ながらない。
風呂場も見てみるとひび割れたタイルは気になったが、まあ普通に清掃はされててゴミ一つなく、
でかい浴槽があって、椅子があって、
アメニティがある感じの普通の風呂。
その当時の彼女、自称霊感があるとか言ってる不思議ちゃんタイプだったんだけど、
彼女いわく、ここは古いだけで大丈夫そうって言うからまあ大丈夫だろうと思いながら、
まあそもそも俺はそういうの気にならないタイプなので何も心配してなかったりはしたんだが。
なんか古いけど、とりあえず空いてる宿があって良かったねーって言いながら買ってきた酒やらつまみを食べてて、ちょっと盛り上がってきたところで、
シャーッ
って音が突然したんだよな。
え?なんの音?って当然思うけど、
まあシャワーぐらいしかないからさ、
風呂場行って電気つけてみたら
案の定シャワーが出てんのね。
なんだよ古いからシャワーまで壊れてんのかよと思いながら、
シャワー止めて、部屋に戻って。
なんかさあ、シャワー壊れてるみたいだな、
なんて言いながら部屋戻って、
ソファに腰掛けて、酒飲もうとしたらさ
また、シャワーが
シャーッ
ってまたなるんだよ。
で、風呂場行って、電気つけて、
シャワー止めて、なんだよと思いながらシャワー止めて。
部屋戻ってね。
いやーマジでここぼろくね?
って言いながら、ソファに腰掛けて、
酒飲んで、そろそろ寝るべななんて話してたらさ、また、
シャーッ
って。シャワーが出始めたのよ。
で、風呂場行って、
電気つけようと思った時に変なことに気づいちゃったんだよな。
あれ、俺そう言えば風呂場の電気毎回つけてるけど、風呂場の電気なんて消してなくね?
なんで毎回電気切れてんの?これ?
ってね。
まあでも、思い過ごしかもしれんし、
俺知らない間に電気消してることよくあるから、
とりあえず電気つけて、
風呂場から出る時に、ちゃんと蛇口は閉めたし、
電気はつけたままだってちゃんと指差し確認してね、電気つけてるからなってボソッと言ってから
部屋に戻ったんだよね。
とりあえず気味が悪いけど、彼女にいうと気にするタイプだから、
まあ気のせいの可能性もあるしと思って、
とりあえず寝ようぜって布団に入って、
寝たんだよ。
寝ついてから3〜4時間ぐらい経ったらさ、
ものすごい体揺らして
Dが俺をずっと呼んで起こしてくるの。
なんだよー、まだそんなに寝てねーよと思いながら、
なんだよやけに早起きじゃん。
どうしたの?って言ったら
「ねえ、テレビ見てよ!」
って泣きそうになりながら俺に言ってくるの。
テレビ見たら確かに誰も触ってないのに画面がついてて、当時地デジ化されてたから何も映りはしねえんだけど、砂嵐がざーってついててね。
「まあシャワーも壊れてるからテレビも壊れてるんじゃねえの?」って
言ったんだけど、
「ちがうの実は怖い夢見て、寝てすぐ後に起きたらさ、テレビがついてて、一度消して、また寝たんだけど、また怖い夢見てさ起きたらまたテレビがついてたの、ここおかしいよ、もう出よう」って俺の腕をブンブン振りながら言っててね。
俺の腕を振ると共に揺れる他のところに目が言っててあまり恐怖は感じなかったんだけど、
その次の言葉でゾッとしてね
「だって寝る時も電気消してないのに私が目覚ますたびに部屋が真っ暗になってるんだよ?今だって◯◯起こす前に私が電気つけたんだから」って。
その時気づいたんだけど、
またシャワーの音が風呂場から聞こえてる。
俺も一瞬で血の気が引く感覚を覚えて、
すぐに身支度して、部屋を出て、フロントに会計しに行ったんだけど。
でも、俺的には実はこのフロントに行った時が1番怖くてね。
どこからどう見てもチンピラ風のお兄さんが、ガリガリに痩せて、ボロボロの金髪で、
化粧はけばいのに骸骨が化粧してるみたいな女の人の腕を引っ張りながらチェックインの受付してて、
明らかにいけないお薬やってる人ですやんって思ってね。
怖って思った。
サクッと会計終わらして、
ホテルを後にして、Yって街の大きい駐車場に車を入れておしゃれなカフェで朝食を食べて、
観光してから地元に帰ったんだけどさ。
なんかすごい疲れたよな。
ちなみに彼女が見た怖い夢は、
そのホテルで寝てる自分の横に
女の人が立っていて
じっと見つめながら、
ボソボソ喋りかけてくる夢を見たらしい。。
まあそれはそれで怖いけど、
あのあと調べたら、俺らの泊まったKって街はまあいわゆる、
あまり治安の良いエリアじゃないらしく
俺が最後出る時に見かけた人たちの俺の想像もあながち当たってるかもしれないということに、俺は1番の恐怖を覚えたね。
まあそんな10数年前のバレンタインのお話。