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巫女物語2 神社が結ぶ縁 〜巫女と参拝者の奇跡の恋〜 前編
第1章:神様が繋いだ出会い
住宅街の一角にひっそりと佇む小さな神社、神明宮。この地域の氏神を祀るこの場所は、周囲の住民たちの心の拠り所である。
日々の祈りを捧げに訪れる人々の姿が絶えず、特に1日と15日の月次祭には多くの参拝者で賑わう。
この神社で巫女を務めるのは、地元に住む20歳の杏奈。幼い頃から母親に連れられてこの神社に通っていた彼女は、高校卒業後、巫女としての役目を引き継ぐことを決意した。
毎朝早くから境内を掃除し、参拝者を笑顔で迎える彼女の姿は、地域の人々に親しまれている。
杏奈は真面目で誠実な性格だが、どこか不器用なところがある。その不器用さが時折思わぬ出来事を招くのだが、それもまた彼女の魅力となっていた。
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ある秋の朝、杏奈はいつものように境内の掃除に励んでいた。紅葉の葉が風に乗って舞い降りる様子を見て、彼女はふと微笑んだ。
しかし、その穏やかな朝も、彼女の不器用さが引き起こすハプニングによって、思わぬ展開を迎えることになる。
「よいしょっと…あっ、あああ!」
勢いよく箒を振り回した瞬間、掃き集めた砂がばさっと飛び散り、ちょうど参拝に訪れていた藤本の顔に直撃した。
「ぶはっ!」「きゃああ!申し訳ありません!」
杏奈は慌てて藤本のもとに駆け寄る。藤本は驚いた様子を見せつつも、砂を手で払いながら顔を上げた。
「いや、大丈夫ですよ。砂くらいなら平気ですから」
「本当に申し訳ありません!いつも通り掃除していたつもりだったのですが…!」
杏奈は何度も頭を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。眼鏡が少しずれているのも、また彼女らしかった。
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藤本はその様子を見て、優しく微笑んだ。
「そんなに気にしないでください。あなたが掃除してくださるおかげで、神社がいつも綺麗なんですから」
「えっ…ありがとうございます。でも、これからはもっと気をつけます!」
その言葉に、杏奈は心がほんのり温かくなるのを感じた。
藤本は、この神社には毎月1日と15日に欠かさず参拝している常連だった。30代後半の彼は、数年前から難病の療養中で、自分なりのリハビリとして毎月歩いて神社に通うことを日課にしていた。
「これも神様への感謝の一つなんです」と、彼はいつも静かに語っていた。
杏奈は以前から藤本の存在には気づいていたが、言葉を交わしたのは今日が初めてだった。
「優しい方だな…」
境内の掃除を続けながら、杏奈は先ほどの藤本の笑顔を思い出していた。
穏やかで温かな笑顔。参拝者として見かけるだけでは知ることのできなかった彼の人柄に触れ、杏奈の胸に小さな好奇心が芽生えた。
その日以降、杏奈は藤本が参拝に来るたびに、自然と彼の姿を探すようになっていた。
彼の誠実さと優しい物腰に、杏奈は徐々に惹かれていくのを感じていた。
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第2章:恋心の試練と心を込めたお守り
杏奈が藤本に特別な感情を抱き始めてから、数ヶ月が経過していた。
季節は冬へと移り変わり、神社では年末年始の準備に追われる日々が続いていた。
「今日はいらっしゃるかな…」
1日と15日が近づくたびに、杏奈は藤本が来るのを心待ちにしている自分に気づきながらも、「これは巫女として相応しくない」と必死に自分を戒めようとした。
だが、そう思えば思うほど、彼の穏やかな笑顔が脳裏に浮かんでくるのだった。
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ある日の朝、境内を掃除していた杏奈は、先輩巫女のさつきに相談してみることにした。
「先輩、参拝者の方を特別に意識してしまうことってありますか?」
「特別に意識?どういう意味?」
さつきは、杏奈の問いにきょとんとした表情を浮かべる。
「あの…その方がいらっしゃるのを待ってしまったり、お話するときに緊張してしまったり…」
「ああ、それって単に好きになっちゃったってことじゃない?」
率直に言われて杏奈は顔を赤らめた。
「そ、そんなことありません!私はただ、巫女として参拝者の方に失礼のないように心がけているだけで…!」
「ふーん、じゃあその『失礼のないように』って、毎朝鏡で身だしなみを念入りにチェックするほど?」
「ドキッ」
さつきの指摘に、杏奈はさらに動揺を隠せなかった。
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確かに最近、彼が来る日は特に身だしなみに気を配っていた自分を思い出してしまう。
「大丈夫よ。恋する気持ちは自然なことだし、むしろ素敵なことじゃない。それで?どんな方なの?」
「近所にお住まいの方で…難病療養中とうかがっているのですが、とても優しくて…。いつも、神社のことを気にかけてくださるんです」
「ふーん、素敵な方なのね。で、どうするの?お気持ちを伝えるの?」
気持ちを伝えるという言葉に、杏奈は思わず首を横に振った。
「そ、そんなこと無理です!私は巫女ですし、そういうのは…」
「でも、好きなんでしょう?」
「う…」
杏奈は先輩の前で言葉に詰まりながらも、自分の気持ちと向き合わざるを得なかった。
そんなある日、杏奈はふと思いついた。
「そうだ。お守りを作って差し上げよう」
神社では、巫女が心を込めてお守りを作ることがあった。それを通じて参拝者の願いに寄り添うのだ。
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杏奈はこの機会に、藤本への想いを込めたお守りを作ることを決意した。
しかし、杏奈はここでも持ち前の不器用さを発揮してしまう。
「健康祈願…健康祈願…どうしたら元気が出る感じになるかな…」
考えた末、杏奈は伝統的な形に少し工夫を凝らし、いびつなハート型を取り入れたお守りを作った。
完成したお守りを見て、思わず微笑んだ。
「少し型破りかもしれないけど、きっと想いは伝わるはず…!」
杏奈はそのお守りを渡すタイミングを慎重に探ることにした。
そして迎えた1日。藤本がいつものように神社を訪れると、杏奈は境内で少し落ち着かない様子で立っていた。
「あの…!」
「はい?どうかしましたか?」
杏奈はお守りを両手で差し出しながら言った。
「これ、健康祈願のお守りです。もしよろしければ、お持ちください」
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藤本は目を丸くしながらお守りを受け取ると、布地のいびつなハート型に気づき、柔らかな表情を浮かべた。
「なんて温かみのあるデザインなんでしょう」
「あっ、えっと、少しでも元気になっていただけたらと思って…」
杏奈は頬を染めながら言葉をつないだ。
藤本はそんな彼女を見て、優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。こんなに心のこもったお守り、大切にさせていただきます」
その言葉に、杏奈の胸の中で温かい感情が広がった。
お守りを渡した日から、杏奈は少しだけ自分に自信が持てるようになった。
藤本との距離が少し縮まった気がして、次に会える日がますます楽しみになっていった。
「私、もっと巫女として、一人の人間として成長していきたい」
杏奈は藤本への想いを胸に秘めながら、日々の務めにより一層の誠意を込めるようになった。
(つづく)
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