「陽炎」9 仮面の忍者赤影 二次小説 2937文字
「隠すでない」陽炎は、彼らに一歩一歩近づいていった。張り付いたように動けないでいた彼らの足が後ずさる。陽炎は、そんな彼らを笑う
「二里四方の音が聞き分けられる私に、嘘をつくな」彼らは何を言われているか、分からなかった
「そこのお前」
土間で口も聞かず、ただずっと立っていた下っ端に、指を指す
下っ端は、度肝を抜かれた
正確に指を指され、白目を向けられて
本当見えているのか?!
見えてなければ転がってる死体に、敵無しの頭達が棒のようにただ突っ立ち、後退りした今のこの状況はあり得なく、下っ端は|悪鬼(あっき)の仕業としか思えないでいた
「肝臓が悪いだろう。体を休め滋養のある物を食べた方がよいぞ。だから抜け忍になった訳だろうが」差した指をおろし、ふふっと笑う陽炎は、眼帯の側を通ると同時にバンバンと眼帯と顎髭の膝下を蹴り、身を交わすように一回転し離れる、その様はすっと一条の水が流れていくよう
「眼帯、お前は内臓全般悪く、時々吐血をするな。金を使って遊びたいよな。もう、長くもない。時々動きが緩い。なに、気にするな。私なら、わかるだけのこと。飛影も、気づかず声かけたのだろう。情報と引き換えに、飛影に女抱かせてもらっただろう」顔が強張る眼帯に、ふんと笑い
「任務中に右脚痛めて動かし辛いようだな。なんで迄かは、分からぬが」顎髭に言う
陽炎はもう顎髭の側にいて、右手で左前を叩く
「ここも左大腿部痛めて、頭と同じだろう」
「当てずっぽで言えば、当たるってやり口か」顎髭は言う
「頭が回らん奴らばかりのようだ。二里四方の音を聞く耳だ」遠くの音を澄まして聞くように、右手で右耳に翳す。その様は、青影がするそれの様で、四人さすが姉弟と思い陽炎と再認識する
「それぞれの臓器の脈、骨や筋肉の動く音、常人では聞けない身体の音が、私には聞こえる」
全員、ぎょっとする
「臓器の脈、弱ってるのと健康な奴らとでは脈が違う。心臓の音、息を吸う肺の音、体内で血が流れる速さ、喉を流れる食べ物、胃で消化される音、焦点を当てればよく聞こえる、よく分かるんだよ」白目で、楽しそうに笑う陽炎
「そこら辺の医者より、病いを知るぞ」
陽炎は、口元に手を当て妖妖と笑う
「飛影、思い出したよ。どこに隠した小判を。味方に自分を殺させた。殺したと思わせたのだろう。そいつは、責任取らされたのではないか?」
突上げ窓からの、月が明るい
土間の下っ端が、緊張と恐怖から救いを求めるように、外を見る
頭達が、戻って来た頃はまだ日が落ちておらず明るかった。しかし、山の秋夕刻に近づいた頃から一気に日が落ち、小屋の中は月が見えても、囲炉裏の火の明るさのみで洞穴ように暗く…
ちらちらと小さな囲炉裏の火が鬼火のように見え、話の内容よりも女の雰囲気が恐ろしい。半紙についた血、倒れた男の血の量から言って、鋭利な小刀でとしか思えない
部屋には、散った血の匂い
血の匂いなんて慣れているのに、頭が吹っ飛びそうに恐ろしい
下っ端は、鬼火ように見える、囲炉裏の炎の周りの板間に、幾つもの白くぼぉとした光、薄い影を目にし、後退りしたくともできないでいた
あの白い光は、頭達と一緒になってなぶり、悲惨に無残に殺した浮かばれない怨霊達を、この女が底の無しの闇から連れてきたのではないかと、下っ端は歯をカタカタ鳴らし始めていた
「千両の箱が幾つも爆破で散って殆ど出てこずと聞いている。お主は爆破と共に海中に沈んだと言われたが… 、何枚か拾った者もいると聞いているが、とてもとてもとため息吐く話だった結構な額だ。この男の下では金を集めた後、バラされるかもだが、お前達も仲間か?」
「ははっ、何を言ってる」髭面が、跳ね返す
「嘘をついている時の心臓の音だ、なぁ」
正直に言えの声音に、嘘をつくなの含み笑いの顔、また土間の下っ端が、眼帯が頭と髭面を見る。交互に、思いあたるフシがあるのか…
「金はどこだ。どこに、隠した」
悠然と構える陽炎は、とても楽しそうだ
皆それぞれに声を出し、かかって行きたい相手がいた
飛影と我山は陽炎に
下っ端は、頭達三人に
眼帯は、頭と髭面を疑うように見た。なんだと、聞いてないと頭達に食ってかかりたいものの…
外では風の音が強く響きだしていたが、男達の耳には響かないでいた
ただならぬ雰囲気で場を仕切っている女を、もう人間として見れないでいて、全員それに耐えているようだった。いすくめるとは、この事
みんな動けないのは、女のその身体から、なにかよからぬ物が詰まっているようで、体が裂けて出てきそうで怖かった
白目がヒラっと、洞穴のように暗い小屋の中で白い腕を動かしたと思うと、聞いてないと思った顔2人の一人眼帯の首から血が吹き出し、血の匂いが散乱し、突き上げ窓から入る秋の風と共に、舞う
突如、強く吹いた山の夜の風は冷たく、月は白く見える
風で揺れた鬼火の様な囲炉裏の火は、喜んでいるように見え、囲炉裏の回りの白い幾つもの灯りは部屋一杯に数が増えている事にぎょとするも…
女は、近くにいなかった
土間におり、芋を煮た男は土間から板間に突っ伏し倒れている
察しはつく
いつの間にと思った
飛影と我山は
呑気に、血で汚したくないと言っただけの事はあると思った
陽炎は、土間から板の間に上がり聞く
「さあ、金はどこだ。全部持って逃げれまい」
「外の木の根元か、二本あったな。東?西?」
「板の間か?、囲炉裏の下か?天上か?」
陽炎は、ぐるっと回転して天井の四隅を見る
飛影達も、相手は白目で盲、なのに釣られて天上をぐるっと四隅を見る
「どこだ。無駄無駄、黙っていても。なぜ、こうして質問してると思う。心の臓の音でわかるからよ」んふふふふと笑い、髪の毛を指ですく陽炎
「外にある水瓶の下か?薪のある場所か?土間の上がり板か?めくるのが大変だ。さぁ、さぁ、さぁ」陽炎は、急に大きく笑だす
「もう、よいよい。場所は、わかった」
ギョッとした、2人。飛影と髭面の顔
「まあ、待て」と、右手の平を前に2人一緒に突き出していた。自分でも何が待てなのかと思った瞬間、動きが止まった
陽炎は、右拳を前に突き出していた
2人は、風が一瞬吹いたと思った
指の間からは、髪の毛が二本、それぞれ男達の眉間に一本づづ刺さっている
女の髪が、長いにしてもだった
飛影は、なんだと思った
女が、前にいる
ほぼ、体半分の間合いの所に
土間から囲炉裏迄の距離は、結構ある
この女は、その距離を三歩で進んだような速さでここ迄来たのか、この化け物め!と、身体が意思とは別に、後ろ沈んでいく、その時にそう思うのと(今度生まれ変わったら、俺は、今度は自分を赦した事を…)
飛影と顎髭は、大きな音を立てて倒れた
飛影は、命からがら里から逃れて、このざまかと己を思った顔、我山は眼を剥き出した悪党のような顔、陽炎は白目で見えるのかふふっと笑った顔だ
「正確に突けるのだよ。音の能力がある者には、正確に位置がわかるのさ。見えずとも。風使いと言っただろ。風に乗せたのさ。
それが、わらわだ。仏をつかさどる者の能力だ
お前らには、焼け石に水のような人生を用意しといてやるよ。わかる迄な」
陽炎は、彼らの死にぎわの心の声が聞こえてたように、言葉を口にする
続く→陽炎10 完
仮面の忍者赤影 二次小説
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