老婦人 (狂夢)
腕のいい自動機械人形(オートマター)を造る、マスターが亡くなった
葬儀は、彼を慕んで各方面から色々な方々が参列したかったそうだが、彼の生前の遺言で葬儀はひっそりと行われた
彼の妻君、老婦人と工房の人達のみで
半年後、私は亡くなった腕のいいオートマターを着くっていた老婦人の所を訪ねる事となった
色々忙しいだろうと思って、連絡は控えていた
仕事つながりであったし
何か困った事、相談したい事があれば連絡して頂ければとメールを月に一回送っていた
仲間から噂を聞いて、直接訪ねてみようと思い
近々伺いたいと連絡すると
老婦人から、
ある場所のアパルトマンの一つを指定された
その家は、
人形師の別宅の別宅で、今はそこにいるのかと思った
私の家から車で30分ぐらいの場所だった
そこは古代ローマ競技場を模したアパルトマンで、円形ではなく楕円のトーラス状の建物で建設され3階立てで3階迄メゾネットの造り、訪れた事のある人からは、みな一様に信じられない程の優越感のある表情で、とても優雅でゆったりした空間と口にしていて、そんなにと自分は訝しんでいた
連絡から数日後伺うと、
古代ローマの競技場のアパルトマンは、
石造りでゴツゴツした質感のグレーで自動ドアが3つある作り、3つ目が個人宅の自動ドアで、奥に玄関があり、一つ目はアパルトマン全体の自動ドア、二つ目の自動ドアは住人の共有廊下でセキュリティもしっかりしていて感心した
最新のスパイ映画でも見ている気持ちになっていた
老婦人が3つ目の自動ドアを開てくれて、案内をしてくれた
「今は、こちらばかりにいるんです。こちらの方が気が晴れて。工房の人達はあちらで、まだまだご依頼頂いていた人形もありますし、今後継続にしていくにしてもどのような形にとまだ決めかねている所なんです」
と玄関から廊下を抜けリビングに入ると、中は、想像以上に素晴らしかった
「もうここと工房とだけ残して 他は処分しようと思っていますの」
と老婦人はいい、自分はまあそうでしょうね、お一人ですしと答え、お淋しいでしょうけどもと言う言葉は引っこんでしまった、それは..
このアパルトマンに訪れた事のある人から聞く話は、いくらなんでも誇張しすぎと思っていた
けれど、こうして中に通されてこの風景を見ると
ワンフロア自体が広い上に、3フロアぶち抜いた広さに私は、ある友人が地方の博物館の広さぐらいで1人で住んでみたいと言った時、何を馬鹿な事をと言ったが、私は何故彼がそんな事を言ったのか理解したように思った
1階の3フロア程ののリビングの広さに、散々と陽光が入ってくる窓ガラスの高さは部屋の格調さを映し出す。床はホワイトベージュ、フロアの中央にある2階への螺旋階段は黒いアイアンの優雅な作りに、人々が皆一様に、ここに訪れた人々が、何故彼らが空間を体感した事からの《君はまだ知らない》みたいな優越感を受けるのを理解ができた
そして、古代ローマ競技場を模した中央の中庭に面した側は全面鏡張りで、部屋の天井は高く7、8メートルの高さ、またちょっとした公園くらいの広さ持つ庭は、対面の他人の家の窓やバルコニーなんて気にもならず、贅沢な作りに、ついつい部屋を見回し、老婦人の案内の元、とてもゆっくりとした時間がが流れているとしか思えず、古代ローマ競技場を楕円の形をした事で、こんなにも悠久の時間のアクアリウムの中にいるようななんとも言えない私のこの気持ちに、私自身が感嘆とし、老婦人のゆっくりとした案内の元、瞬間、私は林立した建物の迷宮に入ったのではと思う錯覚にとらわれた、何故か?
7、8メートルの高さのある窓ガラスからは、向こう側の3階迄の高さを見せ、全面ガラス張りの窓は青い空を広々と見せているのに、季節は秋を過ぎ冬手前、枯れたの葉が散った木々の姿を見せ、淋しい雰囲気がなのかも知れないし、
灰色の石壁が、街中のコンクリの思い出させたのかも知れない
ここ建物が楕円のトーラス状である事が、こんなにもゆったりとした大きな時間の中にいる気持ちを起こさせ、淋しい風景であるにのも関わらず、優雅な気持ちを生むなんて思ってもみなく
何故ここに、名だたるアーティスト達が住んでいるのかが、理解できるものであった
自分もこんな所に住んでいたら、自由な創作、新しい発想など無理なくと思える程の、雄大な空間の中で創作する事がどれだけ大切かと思う程であった
さっき引っこんだ言葉は、この雄大に感じる時間の中にいて、淋しいと感じる?と思えたからであって、この時の私は、本当に工房以外にここ一つだけでいいと思ったし、彼が亡くなった以上工房はどうするのだろうと思っていた。受注分してからとは聞いてはいたけれど... それよりも、私は工房の件で気になってきたのだが、そんな事は頭から吹っ飛んでいて、私は呆気に取られながらも、老婦人のゆっくりとした歩きに感謝をし、光景に見惚れながら進んでいると、
「お尋ね頂いていたお品は、2階にあるんです」と2階へ続くリビング中央の階段を老婦人は、示した。
私は誰かと間違えている?と思うも、その品がどんな物か興味を惹かれ、言われるままに2階に上がった。
ただ顔見せを兼ねて挨拶できればと思ってきた、何処の業者だろう羨ましいなと思いながら、上は薄暗かった。所々カーテンが開いてなく、人形がいっぱい置いてあり、全部が自動機械人形ではなく、蝋人形もありそうだと思った。
色褪せなどの防止だろうと気にとめなかった
褪色の心配のある人形も扱っていたし、彼は
私は、人形の多さに気持ちは浮き立ち、布が人形の頭から被っているモノ、被ってないモノもあって、被っていないモノに見惚れ、つくづく惜しい方が亡くなった。まあ彼は歳であったし、今迄よく頑張って頂いたと思うべきと思っていると、いきなり後から胴を絞められた
誰と思う事なく、手と服で老婦人とわかる
物凄い力で、銅が千切れると思い、なぜこんなに力が強いと必死で尋常でない力に(自動人形⁈!)と思った瞬間、手加減の必要なんかないと思うと近くの人形を掴み、後の老婦人にその人形を叩きつけた
弾みで老婦人も私も倒れ、老婦人の手が胴から外れると咄嗟にヨレながらも片膝付きダッシュしょうとするも、老婦人が私のズボンの裾を掴む、老婦人を見た瞬間
(自動人形だ!自動人形だ!絶対、どこも痛そうにしてない)、(何も自分の体を返りみない。気にするな気にするな)と思い、掴まれたズボンの足を何回か思いっきり引っ張り、布が破れる音に軽くなる足、後ろでゴロッと音がするも、
目に映る階段目掛けて猛ダッシュし、生身ならと少しは気になるも、自動人形自動人形と言う気持ちと、どうして、なんでと言う気持ちに、もつれそうな足で螺旋階段をおり、玄関目掛けて勢いよく走り外に出て、このマンションの前に止めていた車に乗り発車した。
車中、動悸と息切れ、喉の渇きがあっても車を止めずにノンストップで走り続け、自宅前に友人がドアの前ピンポンを押している姿を見つけ、咄嗟にクラクションを鳴らし、友人は気づき、オーと手を振り、自宅の駐車場所に車を止め降りる。友人は休日のラフな格好をしていて
「トニー、どうした。酷い顔してるぞ。何かでも引きそうになったのかい」
「イヤ、違う。まあ中に入ってなんか飲んでくれ。なんでもいい。そうだ、あのウィスキーはどうだい」
「えっ、いいのかい。あんなに頼んでも、なにかの記念の時にって言ってたのに。何かいい事があったのかい」
「イヤ、別に。気が変わったのさ。なんかね」
「それは、いい事だ」
友人は俺の背中をバンバン叩き、俺と友人は家の中に入りTVをつける
リビングの棚にあるウィスキーを取り出し、シングルで2つのグラスに注ぎ 友人は嬉しそうに飲む。自分も勢いよく飲む
「僕は、シャワーを浴びてくるよ。好きにやってくれ」
「氷を用意しとくよ。勝手知ったる他人の家だ」
友人は陽気に、キッチンに向かう
自分はシャワーを浴び、最後に冷たい水をシャワーで浴び、老婦人は私が人形を叩きつけた時、ナニも痛いとも悲鳴を上げもしなかった
私に向かって動いただけだった
私は顔を両手で覆い、汗でも拭うかのように顔の水を払った。シャワーを浴びているのに、全く意味がないのに
友人が私を呼ぶ
「ピザ頼むぞ。サラミだけでは足りん」
と彼の大きな声は響くなと、自分は笑う。
その日友人は泊まっていった
妻君と喧嘩したとの事だ
老婦人の家を訪ねてから、一周間たった
何事も起こらなかった
人から話を聞くには、老婦人は弟子達のいる工房とあのアパルトマンとを週に何日か往復しているとの事。前とナニも変わらないとの事
体を痛めてる事もないと
何も変わった所がないと
私は、それを聞いて安堵すると共に、老婦人を残して、この世に去ったマスターは、いったい何処まで完成していたのだろうと思った
老婦人はとっくに亡くなっていて、オートマターに変わっていたのか? 工房の者達はそれを知っているのか? マスターが亡くなった事で煩わしいと老婦人が思う事は、オートマターにさせていたのか? ただのオートマターの暴走なのか? 又は、老婦人は体だけがオートマターだったのかと考えが尽きないでいる
end
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