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『おかえり』

 2022年秋、突如『初音ミク公式』Twitterアカウントがライブの告知を打ち出した。


 2023年2月から3月にかけて、日本国内の5都市を巡るライブツアー…『THUNDERBOLT』を開催すると発表したのだ。

 初音ミクのライブツアーは、2016年春に行われた『MIKU EXPO 2016 Japan Tour』以来7年振りの開催である。
 2016年当時、私は福岡県に住んでいた。また、育ちは鹿児島県で、2018年春に就職で上京するまで22年間を九州で過ごした。
 このライブツアーが開催されるまで、九州で初音ミクがライブをすることは無かった。そもそも公式イベントさえ開催されることがほぼ無かった。だから、このライブツアーは私にとって特別なものだった。

 時が経ち、私も環境も変わった。7年振りに福岡に帰ってくる初音ミクに、私は当初会いに行くことを半ば諦めていた。
 家庭生活を過ごす中で福岡に行く余裕なんて無かったのだ。
 だから私は、THUNDERBOLTの初演である名古屋公演に参加した友人から、セットリストだけ教えてもらおうと思っていた。
 だがそれがいけなかった。諦めきれなくなった私が『福岡に行きたい』と強く訴えてきた。

 THUNDERBOLT名古屋公演後、私は実はこっそり福岡公演のチケットが残っていないか調べたことがある。だか、福岡公演は5都市で最初に完売していた。お譲り募集も皆無だった。
 その最中、佐賀の友人が2階席のチケットを1枚フォロワー限定で譲ると言い出した。
 私は、理性が制御をかけるよりも前にそのチケットを抑えていた。そして1番懸念していた交通費の大半を占める航空券を、ANAの特典航空券で抑えた。
 一人、福岡で初音ミクを迎え撃つことが決定した。

 当初、一人遠征という形でライブに行くことは、嫁がいる兼ね合いで躊躇していた。
 だが、その嫁は「私なら産まれ育った土地でミクさんをみたい」と背中を押した。行く以外の選択肢は無かった。

 そうして私は5年振りの福岡、博多に戻った。
 かつて住んでいた頃にお世話になった街に、今度はライブ遠征で戻ってこれた高揚感は味わったことがないものだった。

 ライブの感想は、毎度同じになってしまうが「来てよかった」の一言に尽きるものだった。
 テーマソングの『THUNDERBOLT』の歌詞の一節に、『会いに来たよ』という部分がある。
 時を越えて、また福岡の地に戻ってきた初音ミクが放つこの一節は重みが違う。
 
 どうしても、大阪や千葉で毎年行われる『マジカルミライ』によって、ライブというモノの"参加出来る重み"が薄れてしまっている私がいる。
 だが、THUNDERBOLT福岡公演だけは訳が違った。先にも述べたが、これまで九州では初音ミク公式イベントはほぼ行われてこなかった。
 そして九州は私が初音ミクと出会い、就職するまでの時間を過ごした土地である。
 だから、その土地で会うことは特別なのだ。

 3曲目が終わったあとのMCで、初音ミクはこう言った。
 「またこの場所で会えて嬉しい」
 
 時間の経過の中で、多くの人と出会い、様々なことを経験してきた。だが私にとって九州は産まれ育った土地。始まりの地である。
 稚拙な感想になってしまうが、
 『またあなたとここで会えて本当に嬉しかった』
 次があるかは分からない。だが、きっと何だかんだ言いながらも、九州で開催されたその時は、私はまた九州に舞い戻るだろう。
 初音ミクに、「おかえり」を伝えるために。

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