シェア
むぅにぃ
2021年3月1日 10:14
ロンダー・パステル行きの電車の中、ゼルジーは「木もれ日の王国物語」と書かれたノートに目を落としていた。別れ際、リシアンからもらったものだ。 向かいに座っているパルナンは、声をかけようとして、そのほほにまだ涙の跡が残っていることに気付き思い直す。ゼルジーはノートを見ていたものの、読んではいなかった。つい、いましがた別れたリシアンのことを思い返しているのだ。「ああ、ゼル。向こうに帰っても、わたし
2021年3月8日 11:23
パルナンが家に帰ってくると、ゼルジーは居間でノートを広げていた。「ゼルジー、また『木もれ日の王国』を読んでいるの?」「うん」ゼルジーは顔も上げずに答える。「もう、100回は読み返してるんじゃないかな」パルナンが言うと、「そうかもしれない。すっかり覚えてしまっていて、空でも言えるのよ」「よく飽きないね」「ここに書かれている1文字1文字が、わたしとリシーとの唯一の繋がりなんだもん。飽きる
2021年3月15日 05:44
夕食を急いで済ませると、ゼルジーはさっそくソームウッド・タウンに電話をかける。「あ、もしもし。クレイアおばさん? わたしよ、ゼルジー。あのう、リシーとお話がしたいんですけど」「あら、ゼルジー。ちょっと呼んでくるから待っていてね」受話器の向こうで、クレイアがリシアンを呼ぶ声が聞こえた。 ほどなく、リシアンの声と代わる。「もしもし、ゼル。どうしたの?」「ああ、リシー。声が聞けてうれしいわ。
2021年3月22日 08:55
11月も中頃を過ぎると街路樹はすっかり葉を落とし、冷たい風が吹くようになっていた。「もうすぐ冬休みだわ。毎年、寒い季節になるのが嫌でたまらなかったの。厚着をしなくてはならないし、だいいち、わたしは寒いのが大っ嫌いなんだもん」暖炉の前であぐらをかいて座るパルナンに向かって言う。「そうだよなあ。ぼくも冬は苦手さ。雪が降るのは楽しいけど、遊んだあとは決まってあかぎれになっちゃうんだ。指の先まで痒く